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親しき中にも礼儀有り②/兄妹
「ねえー! 何で美典がいるんだよ! 何しに来たのよ、帰んなよ!」
智が仕事から帰ってくるなり美典の姿を見て憤慨している。
「智に内緒で蓮二さんとデートしてきちゃった。羨ましいだろ」
「はぁ? 聞いてねえし! 何なの? ちょっと蓮二さん、ほんと?」
美典はわざとそんな風に言って智の反応を見て楽しんでいるように見えた。
「デート、っていうか、美典ちゃんには前にお世話になったからちょっと食事に誘ったんだよ」
「そう! そういうことー。ほら智もお疲れ様。デザートあるから手洗っといでよ」
智はお土産のデザートに少しだけ嬉しそうな顔をするも、俺から美典を誘ったと知ってまたプリプリしている。
「なんだよ。俺ですらあまり蓮二さんと外食してねえのに、ずりい……」
言われてみれば、付き合い始めてからはあまりデートらしいことをしていなかったことに気づく。付き合う前は仕事終わりに飲みに行ったり、ショッピングをしたりデートを楽しんでいたように思う。でもいざ付き合い始めたらちょっと気恥ずかしくなってしまい、自ら誘って出かける回数がぐっと減った。多分智はそんな俺に合わせてくれていたのだろう。何となく後ろめたい気持ちになりながら「そんな怒るなよ。ごめんな」と智を宥め、美典と三人でお土産に買ってきたデザートを食べた。
「で? 美典は何で来たの? こんな時間だし帰る気ないだろ」
「うん、もちろん。泊めてね」
まるで自分の家にいるように寛ぐ美典はもうシャワーも済ませ、寝る気満々だ。明日は仕事があるらしいのだけど、勤務先の店が実家よりここからの方が近いらしく、智が嫌な顔をしている。
「絶対調子乗ってしょっちゅう来るようになるんだろ? ダメだかんな、今日だけだぞ」
「わかってるわよそんなの。でもたまにならいいでしょ? ね? 蓮二さん」
「こら! 蓮二さんに聞くな!」
「はいはい、わかりました。まったっく智うるさいし…… じゃあ蓮二さん、お先に寝るね。おやすみぃ」
美典はにっこり笑ってそう言うと、当たり前のように智の部屋に消えていった。
「だから! 何で俺の部屋に行くんだよ! お前はソファだろうが……」
「ちょっと?! エッチ! なんなのよ! 出てけよ!」
智は美典に抗議しに自分の部屋に入った途端に追い出されてしまったらしく、プリプリ怒りながらあっさりと戻ってきた。
「美典の奴、昔は平気で俺ら兄弟の前でも下着姿でうろついてたくせに、こう言う時だけ急に女振りかざすなっつうの! ムカつく!」
「はは、いいじゃん、智は俺の部屋で一緒に寝れば……」
「え? いいの? マジ?」
「…… もちろん」
思いがけず智が嬉しそうな顔をするのを見て、大袈裟だなと思いながらもそのまま風呂に向かった。
深く考えなかった俺は、この後大いに後悔することになった──
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