50 / 59
親しき中にも礼儀有り③/仲直りの……
「いやちょっと? 待てよ、美典ちゃんいるだろ? 今日はシねえよ?」
智は俺が部屋に入るなり、無言で俺をベッドまで引っ張り押さえつけてきた。まさかとは思ったけど、そこは智だ。全く想像しなかったわけじゃない。でもいくらなんでも今夜は無理だろ……
「へ? なんでよ? いいじゃんちょっとなら」
「ちょっとなら……って、お前のちょっとと世間一般のちょっとには大きな隔たりがあるんだよ。無理無理!」
「何それ? 意味わかんねえし。はい、いいから、ね? ちゅうして蓮二さん」
「い、や、だ」
すぐ隣の部屋で美典が寝ているっていうのに、何を思ったのか智は鼻息荒く俺にのしかかってくる。確かにここ最近はそういった行為はご無沙汰だったけど、違う。今じゃない。
「やだ。蓮二さん……いいでしょ? 声出ないように優しくするからさ……仲直りエッチ、しよ?」
「何が仲直りエッチだよ。仲直りならもうとっくにしてるだろ。てか声がでけえよ。隣に聞こえる」
せっかく俺が声を潜めて話しているのに、智はそんなのお構いなしにいつものトーンで喋ってる。
欲に忠実、思い立ったらすぐ行動、智のこういった素直なところは俺は好きだし見習わないと、とも少し思う。でも悪く言えば思い通りになるまで折れない、強引にでもことを進めようとするところがある。今回のこればかりは智の言う通りにはさせられない。いくら「声を出さなきゃ大丈夫」とはいえ、全く静かに行為に及ぶことなどできるわけがない。俺が声を堪えるなんて智の前でできると思うか? うん、無理だ……自信を持って言える。
「ほら……蓮二さん? こうやって俺がギュッと押さえつければ平気でしょ? ゆっくり、ゆっくり……気持ちよくしてあげるから」
そんな風に突然抱き竦められ、耳元で囁かれてしまったら一気に体に熱がこもってしまう。それに、それは俺にとって逆効果だ。
「あっ、やっ……智、それ、ダメ……あっ……ん、ゾクゾクする……やめて、力入らない」
身動きが取れないほどに強く抱きしめられていることだけでも十分すぎるくらい気持ちがいいのに、ゆっくりと耳元や首筋をいやらしく舐られてしまえば弥が上にも声が漏れる。いつもならガツガツと貪るように俺を抱くのに、わざとなのか体を撫で回す手や指が焦ったくてもどかしい。それが自身の快感センサーに次々とヒットしていくようで、おかしくなってしまいそうで怖かった。
「だめだよ、声出しちゃ。相変わらず感度いいよね……ならこうだ、これなら声出ないよね?」
「んっ……ん……」
何を思ったのか智は俺の体をうつ伏せ寝にし、口をその大きな掌で塞ぐ。無遠慮に下半身だけ脱がされ、あっという間に智のペース。もう逃げられないと悟った俺は、早くことが終わるのを願って智に身を任せることにした。
ともだちにシェアしよう!