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親しき中にも礼儀有り④/欲に負ける

 身を任せると言っても何も感じないわけじゃない。  智は俺に声を出させまいと躍起になって背後から押さえつけ、口を塞いでくる。気持ちはわからないでもないがこれは俺にとって逆効果だった。別に俺がマゾだというわけではない。断じて無い。 「蓮二さん、俺、久しぶりすぎてダメだ……めっちゃ興奮する……」  智はそう囁くと、俺の尻に顔を埋める。 「腰……もっとあげて。俺にちゃんと見せて……」  これは俺が嫌いな行為。それでも熱のこもった声でこんなふうに言われてしまえば不思議と逆らえず、俺は仰せのままに尻を突き出す。押し広げられた恥部に智の舌先が触れ、押し寄せる快感と期待に堪えていた吐息が思わず漏れた。 「あぁ、やっぱダメ……蓮二さん、声……声、聞きたい……もう挿れたい……」 「あっ!……んあっ……って……やっ……」  びっくりするほど呆気なく欲に負けた智は無遠慮に俺の後孔へ指を突き挿れ、おまけに手のひらで塞いでいたはずの俺の口にも指を這わせ強引に顎を開いてくる。「やめろ」と言いたいのに、言葉を発する前に開かれた口から喘ぎ声が出てしまいそうで俺は何も言えなかった。普段以上にローションを纏った指で俺のいいところを執拗に攻め立ててくる智は、もう嘘みたいにいつも通りの智だった。 「ほら、どう? ここでしょ? 蓮二さん、ここ弄られるの好きだよね? いいよ……可愛い声聞かせろよ……」 「やだ……あっ……やっ……」 「ああダメ、我慢できない……挿れるよ? 待っててね……すぐにもっと気持ちよくしてあげるから……」  何かのスイッチが入ってしまったらしい智は、俺を背後から押さえつけたまま頸に歯を立て、少し乱暴に挿入してくる。いきなりの圧迫感に俺はとうとう堪えていた声を上げてしまい慌てて枕に顔を埋めた。  ベッドの軋む僅かな音と、枕に埋めているとはいえ絶えず出てしまう俺の嬌声。智に至っては隣の美典の存在を忘れてしまったのか、いつも通りに興奮しきりに俺に対して愛を囁いてくる。腰を捕まえられ逃げ場のない俺は、羞恥心と押し寄せる快感とで半ばパニックになりながら必死に声を我慢する。駄目だと分かっているのに、それでもあっと言う間に智のペースに呑まれてしまい身体中快感に支配されていくのが怖かった。 「蓮二さんっ、あっ……いい、気持ちいい? ああ、蓮二さん……好き、好き……ああ気持ちいい……」  心の中で「声がデカイんだよ、少しは黙れ」と悪態をつくも、全くもって余裕のない俺は猛烈に智に揺さぶられ、どんどん理性を失っていくのがわかる。 「顔……見せて、こっち向いて、キス……したい」  智の手が俺の頬に触れ、優しいけど強引に後ろを振り向かされる。上気した顔で見つめられれば言われるがままに唇を重ね、智の舌が俺の口内をいやらしく舐るのを受け入れることしかできなかった。

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