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親しき中にも礼儀有り⑤/朝

 結局ほとんど気絶する勢いで俺は智に抱き潰された──  何が「声を出さなきゃ大丈夫」「ちょっとなら」だ。二人してあっという間に欲に負け、ことに及んでしまった。なんなら普段以上に盛り上がってしまったと言ってもいい。だって久しぶりだったわけだし…… ああ、穴があったら入りたい。  俺の腕の中で気持ち良さそうに寝ている智の寝顔を眺めながら、部屋の外から聞こえてくるキッチンの音に耳を澄ました。美典も今日は出勤だと言っていたからきっとすでに起きて支度をしているのだろう。何かを炒める音が聞こえてくるから朝食でも作っているのか……昨晩の会話から、美典なら俺たちの朝食も一緒に作ってくれているであろうことが容易に想像できる。  時計を見ると朝の七時を回っている。智もそろそろ起きる時間かな、とモニュモニュと何やら動いている可愛い唇に軽くキスをし「智、起きろ」と声をかけた。 「二人とももう起きてるー?」     突然部屋のドアがバンっと開き、美典が顔を出す。突然のことに呆気に取られていると「朝ごはんできてるから早く起きといでね」と菜箸片手に美典が言った。  いや……ノックくらいしてほしい。智の妹だし気心知れた仲とはいえまだまだ知り合って間もないし、ましてや昨晩の情事の痕跡だって残っている。布団に隠れているとはいえ男二人同じベッドで裸で寄り添い、床には脱ぎ散らかされた互いの服。智の仕業であろう使用済みのゴムとティッシュのゴミも幾つか散乱したまま…… 自分でもこの状況にドン引きしてしまう程なのに、美典は顔色も変えずに普段通りに笑顔を見せ部屋を出ていった。俺はイラつきながらまだ目を覚さずに寝続けている智の頬を引っ叩きベッドから抜け出ると、とりあえず服を着ようと下着を履いた。 「あ、ごめんごめん。寝る時は服着なね〜風邪ひくよ……って言おうと思って。あは、お着替え中失礼」  悪戯っぽく笑ってまたドアを開けた美典が、パンイチ姿の俺を見て「ごめん」と舌を出す。俺は心の中で「キャー」と叫びながら、なんともない顔をして着替えを続けた。うら若き女子に見せていいものではない、と思っても動揺してるのは俺だけだ。なんだか悔しい。 「いやごめんって言うならまずはノックしてな」 「はいはい。え、智まだ寝てんの? ほら! 起きろ! せっかく作った朝ごはんが冷めるだろうが!」  俺の下着姿にも特別動揺することもなく部屋に入ってきた美典は、素っ裸で寝ている智の髪を引っ掴んで強引に揺さぶって起こしている。流石にそこまでされれば智も目を覚まし、寝ぼけながら「おはよう」と呟いた。 「え? 美典? あれ? なんでいるの?」 「は? 美典ちゃん泊まったろ?」  案の定、智は美典のことをすっかり忘れていたらしく、ぼんやりと着替えながら首を傾げる。美典はそんな智を無視して「みんな今日仕事でしょ? 朝ご飯食べよ」と言いながら部屋から出て行った。 「そうだった……蓮二さんごめん。俺、途中から夢中になっちゃって……」 「……しょうがないよ」  お互い何を言いたいのかなんて言わなくてもわかる。これはもうお互い様だ。どちらが悪いわけじゃない。  気不味い気持ちで服を着て、俺たちは二人で部屋を出た──

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