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二人の「これから」③/二軒目

 その後は当たり障りのない会話をしながら食事を終え、店を出た。俺の恥ずかしい発言も智の中で無かったことになったらしく、もうその話題に触れることもなかった。    俺は心底安心した── 「少し飲み直す? すぐ帰る?」 「ん、そうだな……折角だしもう一軒どっか寄るか」  帰る家は同じなのに、何となく名残惜しさが勝ってしまって智の提案に便乗する。それなら俺が美典と一緒に行ったというバルに行きたいと、智が嫉妬心丸出しで言うからそこに向かった。 「たまにはこういうのもいいね、蓮二さん。付き合い始めは毎週のようにデートしてたもんね」 「だな。でも今は毎日一緒にいられるんだし……」 「まぁ、そりゃそうだけどさ」  カウンター席に並んで座り、もう一度グラスを合わせる。店内の心地よいBGMに薄暗い照明、そして普段と違う智の様子に、美典と一緒に来た時には気にも留めなかった雰囲気に酔いがすすんだ。酒の強くない智は先程の店からソフトドリンクに切り替えている。隣に座る智の距離が近くてドキドキしていたら、不意にテーブルの下で太腿を撫でられ恥ずかしさにソワソワと落ち着かなくなった。 「おいやめろって、近い……」 「ふふ、蓮二さん、赤くなっちゃって可愛い……」  男二人、顔を寄せ合いコソコソ喋っている姿はどう見えるのだろう。智は自分が思うほどそんなに周りは見てないし気にしないから、と言って笑うけど、やっぱり俺は気にしてしまう。街中でカップルがいちゃついているのを見て、見苦しいと普通に感じるのだから俺たちだって例外ではない。それでもテーブルの下で触れてくる智の手を払うことができなかった。やっぱり触れられるのは嬉しいし安心する。重なる手の中で、俺の指を一本一本確かめるようにしてゆっくりと撫でる智の指から愛情を感じ心地良かった。 「そろそろ……」  片方の手を智に捕まえられたまま二、三杯酒を呑み、恥ずかしさがピークを迎えたのと早く智と二人きりになりたくなって、俺は智の手を退かす。既にソフトドリンクしか飲んでいない智と違い、俺ばっかり酔っ払っているようで恥ずかしかった。 「あれ? 滝島さんじゃん! お疲れっす」  突然背後から肩に手を置かれ驚いて振り返ると、そこには笑顔の慎太郎が立っていた。 「あ……お、お疲れ」  急な慎太郎の出現に動揺してしまい何を喋ったらいいのかわからない。智の手はもう俺から離れているし、もう帰ろうとしていたから距離感も不自然なことはないはず。俺は頭の中で「恋人」である智と二人、どう慎太郎に見られているかばかり気になってしまってしょうがなかった。  慎太郎は俺と智を交互に見ながら、美典の時と同じように智に向かって適当な挨拶をした。 「なぁんだ、滝島さんスマホ見ながらニヤついてたから、てっきりあの可愛い彼女さんとデートかと思ったのに……」 「彼女?」 「知ってます? この人めちゃくちゃ可愛い彼女いるんすよ」  慎太郎も酔っているのか俺の肩に手を回し、側から聞いたらだいぶ失礼で余計なことをベラベラと喋る。智は明らかに不愉快そうな顔をしてるし、俺は智の前で慎太郎に引っ付かれていることが気が気じゃなかった。

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