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二人の「これから」④/誤解を解く
「慎太郎、ちょっと離れて。俺らもう出るから……」
「えー? もう帰っちゃうんすか? 一緒にもうちょっと呑みません?」
「いや、お前だって連れがいるだろ」
「まあ、そうっすけど……」
慎太郎から体を離し、智の顔を盗み見る。案の定、引き攣ったようなムッとしたような、複雑な表情を浮かべていた。普段から人懐こい慎太郎がほろ酔いのせいでゼロ距離で接してくる。美典にさえヤキモチを妬くのだから、智の心情を思うと早くこの場から離れたかった。
「……慎太郎?」
不意に智が、ぽつりと呟く。
「へ? あ、はい。慎太郎っす。えっと、智さんでしたっけ」
その時俺は思い出した。智は俺から聞いて慎太郎のことを知っていた。しかも慎太郎に対して良い印象を持っていない。俺は咄嗟に慎太郎と智の間に割り込み、智を振り返る。まさか喧嘩なんてしないとは思うけど、俺も少々酔っていたからちょっとばかり思考が緩んでしまっていた。
「そっか、お前が慎太郎か……」
智は急に笑顔を作って「蓮二さんから聞いてるよ」と愛想良く慎太郎に話しかける。とりあえず険悪なムードにはならなそうで俺は安心し、小さく深呼吸をした。
何はともあれ、智が不快に思っている誤解だけはちゃんと解いておかないと、と俺は意を決し慎太郎に向き直った。
「えっと、慎太郎。あのな、なんか誤解してるみたいだから言っておくけど、あの時一緒にいたのは……俺の彼女じゃないんだよ」
「マジっすか? え? じゃあ何? 友達?」
智は俺が何を言うのか様子を見ているようだった。俺は回らない頭でぐるぐると考えながら言葉を探す。美典は彼女じゃないし、ここにいる智が俺の恋人だ、そう言えたら楽なのに、それはどうしてもできなかった。
「美典ちゃんは、友人の一人だし……智の妹。二人とも俺の大切な人たちなんだ」
今俺が言える精一杯──
突然の慎太郎の出現で智が気を悪くしているのは一目瞭然だし、何とかフォローしないと、と俺は気が焦っていた。だからその時、智がどんな顔をしていたかなんてもちろん見る余裕もなかった。此の期に及んで慎太郎に俺たちがどう見られるか、智の機嫌をいかに戻すか、そんなことばかり頭の中を巡っていた。
慎太郎は慎太郎で、美典が俺の彼女ではないとわかるとあからさまに浮かれ始めた。どうやら初めて会った時に、美典に一目惚れをしていたらしい。それでも俺の彼女だと思っていたから心に秘めていたのだとコソコソと俺に打ち明けた。しまいには智のことを「お兄さん」と呼び始め、温厚な智もさすがにムッとしながら「お前、軽過ぎなんだよ」と突っ込んでいた。
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