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第3話

 芳村さんが眉間をさすりながら立ち上がった。湯のみが直撃した眉間は赤くなっている。 「なんでやねんな! ひどい!」 「手が滑りました」 「小生の優秀な頭脳がぽんこつになったらどうしてくれるん! 仕事に差しさわりがあるやん! 助手の所業とは思えん!」 「仕事なんてここしばらく来てないから問題ないですよ」 「うぐ」  芳村さんは言葉に詰まった。芳村和樹探偵事務所、見ての通り流行ってない。  おれはにっこり笑った。 「大体、結婚とか何とかほざく暇があったら……」 「ちょ! ちょっと待って!? またなんか投げるん!? 肇助手笑顔怖い! だって探偵なんて儲かる商売やないし……!」 「だからといって……」 「ハイ! 小生、駅前でチラシ配ってきます!」  探偵はあわててデスクからチラシの束を引っつかんで、事務所を飛び出していった。  探偵本人がチラシ配りとは殊勝な心がけではあるが、その間に依頼人が来たらどうするのだろう── 「まあ、来るわけないか」  おれの想定どおり、今日も依頼人は来なかった。

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