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第4話
芳村さんの脳内はますます意味がわからないほうに発展しているらしかった。
今日も今日とて、出勤して早々に、芳村さんがいきなり頭を下げてきた。
「結婚してください! お願いします!」
さっと差し出される右手。OKなら握れということか。
おれは天井を見上げ、ため息をついて──ついにブチ切れた。
パンと差し出された右手を払いのけてやる。
「痛! 肇助手がひどい!」
「結婚? 芳村さん本気で言ってるんですか」
「そ、そりゃあもう本気も本気に決まっとるやん──」
「へえ」
おれは芳村さんの襟を掴むとぐいと引き寄せた。案の定、芳村さんの目は白黒。何が起きているのか分からない顔をした。ほらな、何も考えてない。おれにとっての地雷を踏み抜いたのも分かってない。
「結婚ってことは、芳村さんおれのこと好きなんですか」
「え、ええー……?」
なんでそこで言葉に詰まる。悪質な冗談説が強まる一方だ。
「いいですよ、結婚しましょう」
「え」
おれはにっこり微笑んで、芳村さんをぼろいカウチに押し倒した。芳村さんはようやく事態を飲み込めたらしく、あわてた顔をした。
「ちょっと待って!? 小生、結婚してほしいとは言ったけど、……ぇ、えっち、したいとは言ってないんやけど!?」
「は? 何言ってるんです、結婚するならセックスしたっていいでしょう。今ひとつ気づいてないみたいだから言ってあげますけど、芳村さん、ホントご丁寧におれの地雷踏み抜いてくれちゃってまあ」
顔を近づけると、芳村さんが真っ赤になって手でおれの唇を押しやった。結婚しようと言ったくせに、キス拒否とはどういうことだ。詐欺か。美中年め。
仕方ないので、スーツの上着を強引に脱がせようとしたら、ひっくり返った声が返る。
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