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地味な俺と不良高校最強のド直球男の告白③

そんなこんなで昼休み。嫌なことが待っているときの時間は何故こんなにすすむのが早いのか。 いつもはなかなかこないはずの昼休みが今日は本当に授業を受けたのかと思うくらい一瞬でやってきた。バックレるという選択も一瞬頭をよぎったが、佐々木さんがせっかく話を付けてくれたこともあるし、相手もわざわざこの学校まで俺に会いに来たということは相当何かやらかしたのかもしれない。何をしたかは分からないが、気に食わないことをしてしまったのなら、謝罪はきちんとしなければならない。覚悟を決めろ俺。しかし、怖いものは怖いのである。 佐々木さんが一緒についてきてくれないかなと少し期待していたがとっくにクラスの女子達と仲良く購買に向かっていった。 藤ヶ丘の制服を着た生徒が2人ほど校門で待っていた。今朝はガラの悪い奴らがもっと大量にいたためその人数の少なさにややほっとする。 俺は思い足取りで校門に向かった。 「中学生?」 「いや、高校生です。」 一人の男に先に声をかけられた。 なるほど、クラスの女子達が顔が良いと騒ぐはずである。昨日の桐生さんとは負けず劣らずのイケメンっぷりだ。それに全然怖そうじゃない。身長は俺より15㎝以上は高く、明るい茶髪にゆるくパーマがかかっている。学ランをほどよく着崩しており、ピアスは両耳に1つずつ、ピアスと同じブランドらしきネックレスをつけている。某男性アイドルグループの学園ドラマの撮影ですといっても違和感ないくらいだ。甘いマスクにふさわしく俺が女だったら赤面してしまいそうな、とろけるような笑みを浮かべている。 「君が噂の女装少年?」甘い顔のイケメンが少し面白がるように聞いてくる。 「1日限定ですがね。」常日頃から女装をしていると思われてはいけない。 「俺らの会長、あんたが男だと知ってめちゃくちゃ驚いていてね。まじで最高。今朝のあの驚きっぷりもう一回見たい。」イケメンが思いだし笑いをしながら言う。 「君について教えてくれた子も蓮をみても俺らをみても全く動じないんだもん。全然怖がる様子もなくて。すごいよね。日向学園の子は面白いね。俺、連絡先交換しちゃった。」 流石佐々木さん。怖いもの知らずである。 「おい、悠斗いつまで無駄口たたいてんだ。その地味ちび野郎が蓮が言ってたサトウマコト?冗談だろ。」隣の男から罵声が浴びせられる。 罵声を浴びせた男もこれまたイケメンである。 藤ヶ丘学園の顔面偏差値はどうなっているのだろうか。学力偏差値と顔面偏差値は反比例するのだろうか。こちらはいかにもヤンキーですという感じだ。俺より20㎝以上は背が高く金髪の髪の毛先に青色のメッシュが入っている。悠斗というイケメンとは違いピアスや指輪が大量についている。いかついピアスが両耳合わせて10個以上、いかつい指輪が両手合わせて5個以上はついている。ちらっと見えた舌にもピアスがついている。しかし、昨日のヤンキー3人組と違い、なまじ顔が整っているため、下品なヤンキーという感じはなく、なんというか、絵になるヤンキーである。 「おい、チビ。俺らおちょくってんじゃないだろうな。」愛想のよいイケメンと比べこちらはかなりの喧嘩腰である。どちらかというと俺がお前らにおちょくられているんじゃないかと思ったが口にはださない。 「俺もあまり状況は分かっていないのですが。昨日女装していたのは事実です。」 とりあえず事実だけ述べていく。不機嫌なヤンキーはこちらを睨みつけたままだったが、甘い顔のイケメンがまあまあと宥めている。 「まあ、実際に蓮に合わせてみないと分からないしとりあえず連れて行こうか。」 「えっと、今昼休み中なのですが。どこへ?」 「俺らの高校。」さらっという悠斗さんに俺は即座に反対した。 「授業があるので無理です。」そんな不良のたまり場につれていかれたら確実に袋叩きだ。誰も味方がいない。 「あぁ。散々昼休みまで待たせておいて今から授業があるだぁ。ふざけてんじゃねぇぞ。」 不機嫌ヤンキーがむちゃくちゃなことを言ってくる。 いやいやいきなり来て今から授業サボって俺らの高校に来いってふざけてるのはそっちじゃないか。そう言えたらどんなに楽か。助けを求めて悠斗さんのほうに目を合わせるが、肩をすくめて目をそらされた。そうですよね。もう一度放課後こちらに来るのは面倒ですもんね。今俺を連れて行ったほうが楽ですもんね。しかし、こっちにも都合というもんはある。何よりこいつらのホームで袋叩きは勘弁したい。どうしたもんかと俺が迷っていると聞き覚えのある声がした。 「待て。」噂の桐生さんである。 「蓮。今朝のショックで寝込んでたんじゃなかったの?」甘い顔のイケメンが驚いて聞く。 「わざわざこんなとこに来なくて良かったのに。俺らでこいつ始末しとくぞ。」おい、不機嫌ヤンキー、今始末って言ったよな。 桐生さんは二人の言葉を無視して真っすぐ俺のほうに向かってきた。相変わらず目力がすごい。俺は蛇ににらまれたカエル状態だ。 「サトウマコト。」桐生さんの顔が俺のすぐ目の前にある。俺は喉をごくっとならす。殴られるのか。 「俺の、女になってくれ。」真っすぐ俺を見つめて目の前の男は言った。 聞き間違えたのか。 「はい?」俺は恐怖も忘れて思わず聞き返してしまった。 「だから、俺の女になれ。」桐生さんが再度繰り返して言う。顔が真っ赤だ。 聞き間違いではなかったらしい。玉をとれとでも言ってんのか。しかし、そんな冗談を言える感じではない。 俺は桐生さんから目をそらし、後ろの二人に助けを求めて目線をやった。甘い顔のイケメンは声を殺して大爆笑しているし、不機嫌なヤンキーはこちらを睨みつけている。駄目だ。助けは期待できない。 「昨日の俺はクラスの人達に無理やり女装させられていて。本当の俺は地味でさえないごく普通の男子高校生なんですが。」桐生さんは何か勘違いしているのではないだろうか。 「いや、実物見て昨日の奴と同じだと分かった。男とか女とか関係ねぇ。お前は俺が惚れた奴だ。お前が好きだ。俺のものになってくれ。」桐生さんが自身満々に言う。 見つめていたら吸い込まれそうな瞳で俺をみている。 しかし、俺は大変困ってしまった。こんなこと、これまでの人生で全く経験がない。すぐに断れば良いのだが、あまりにも真っすぐな桐生さんの言葉と真剣な目に俺はめちゃくちゃ戸惑っている。 昼休みが終わるチャイムが鳴った。 「返事は今度でもいいですか。」俺がおそるおそる聞くと桐生さんは頷いた。 俺はとりあえずこの状況から逃げ出すことにした。俺がすぐさま逃げようとしたところを桐生さんに引き留められた。 「連絡先教えてくれ。」 めでたく俺は近所でも有名な不良の巣窟と噂される藤ヶ丘高校の男子生徒とLINEの交換をしたのであった。 授業が始めるぎりぎりで教室に滑り込んだ俺に佐々木さんが声をかけた。 「どうだった?」 「いろいろあったんですが・・・。」俺が疲れ切って答えると何かあったと悟ったのか放課後じっくり聞かせなさいよねという言葉をかけられた。

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