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地味な俺と不良高校の生徒会と友達の作り方①

日曜日。決戦の時が来た。 日曜日は昼まで寝ると決めている俺だが朝6時に目が覚めた。なんと健康なことだろう。 私服を着ていると下手すれば小学生に間違えかねない俺は制服を着てきた。まあ、学校に来いということは制服のほうがよいだろう。 朝早く制服を着ている俺をみて母親が驚いていたが、別の学校の友達に会いに行くと説明すると笑顔で手土産まで持たせてくれた。 時間は9時48分。 校門まで来たのはいいがどうしたら良いのだろうか。日曜であるせいかあまり人影はない。また、変なヤンキーにからまれることを心配していた俺としてはとても安心だ。桐生さんに校門までついたことを連絡すると迎えをよこすと返信がきた。愛想の良いヤンキーと不機嫌なヤンキーの二人を思い出す。どちらかというと愛想のよい甘いイケメンが良いなと思っていたがどちらも違った。 しかし、迎えに来てくれた男もこれまたイケメンだったがそれ以上の驚きがあった。迎えに来たイケメンは全く不良高校とは縁のなさそうな優雅とか上品という言葉がぴったりあてはまる男だったのだ。綺麗な顔立ちで身長は俺より10㎝以上高いだろうか。長く綺麗な黒髪を一つにくくっている。この人こそ女装したら映えるだろう。男のままでも、男の俺でもどきっとするほどの色気がある。学ランもきちんと着ており、この人が着ると藤ヶ丘高校の学ランが私立の金持ちの学生服に見える。 「こんにちは。君が蓮君が言っていた佐藤誠くんかな?」 「はい。そうですが。」俺は、俺以上に場違いなその人をまじまじと見てしまった。 「はじめまして。僕は藤原律樹(フジワラリツキ)と言います。よろしくね。律樹でいいよ。」笑顔で手を差し出すその仕草もいちいち上品である。 「よろしくお願いします。」俺は手をおそるおそる握り返した。 「じゃあ行こうか。」律樹さんは優雅な足取りで俺を校門の中へと導いてくれた。 藤ヶ丘学園はただの不良校ではないらしい。しかし律樹さんが異質なだけで、たまにすれ違う生徒はいかにもガラの悪そうな生徒が多い。 しかし、そのガラの悪そうな生徒が律樹さんに気づくとそろいもそろって頭を下げるのだから相当何か凄い人なのだろうか。ちらちら律樹さんを見る顔が赤いことには気づかなかったことにしよう。しかし、律樹さんはそんな彼らに笑顔で手を振り返す。 律樹さんに案内されて着いたのは校舎の裏にある大きな倉庫のようなところだった。おそるおそる中に入るとそこは外観とはうって変わってとても居心地が良さそうに改装されていた。俺がきょろきょろしていると、 「ここは生徒会室。僕たち生徒会なんだ。この部屋については前はもっと汚かったんだけど、僕が勝手に改装しちゃった。」と律樹さんが教えてくれた。 失礼ながら、不良高校にも生徒会って機能しているのか。 「そしたら、桐生さんも生徒会なんですか?」 「そうそう。蓮君が生徒会長。ちなみに、昨日一緒に君を探しに行ってた新君が副会長、悠斗君が書記で、僕が会計。」 桐生さんは生徒会長だったのか。 だから桐生さんは藤ヶ丘の生徒にからまれていた俺を助けて、自分の管理がとか言っていたのか。なんと律儀というか責任感が強いと言うか。たかだか学校の生徒会長が個人の生徒全員まで面倒みきれないだろうに。 その部屋の床は綺麗に掃除されており、手前には絨毯も引いてある。奥には四角いテーブルがあり、そのテーブルの四方がソファで囲まれている。ちょっとした家みたいだ。 「待ってたぞ。」 桐生さんが一番奥のソファーに座っている。サイドのソファーには昨日の甘い顔のイケメンと不機嫌なヤンキー二人が座っていた。 「本当は俺が迎えに行こうかと思ったんだが、あんまり俺がうろうろすると生徒達にしめしがつかねぇからな。来てくれて感謝する。律樹もありがとな。」桐生さんが俺と律樹さんに声をかける。 まあ座れと桐生さんに勧められ俺は桐生さんの目の前のソファーに座る。 俺がきょろきょろしているうちに律樹さんが優雅な手つきでお茶を出してくれた。 「紅茶は好き?」律樹さんに聞かれて頷く。高そうなカップにティーポットでお茶を入れてくれる。喫茶店みたいだ。そういえば手土産渡されてたなと思い出しこれつまらないものですがと差し出す。中身はお菓子作りが得意な母の手作りクッキーである。律樹さんがちょうどよかったといいこれまた高そうな食器にクッキーを載せてくれる。 至れり尽くせりである。というか不良高校とは思えないほどの優雅な空間である。 なんとなく和やかなムードになりかけていたが、今日も絶好調に不機嫌なヤンキーが口を出す。 「なんで呑気にお茶する空気になってんだよ。てめぇはここに茶飲みにきてんのか?」 俺を睨みつけながら言うが彼のこれは通常運転だと思うことにする。 「ほら新、せっかく来てくれたお客様に失礼でしょ。」律樹さんが窘めるように言う。 「ふんっ。」不機嫌なヤンキーがそっぽを向く。 「そういえば俺ら自己紹介まだだったね。俺吉岡悠斗(ヨシオカハルト)よろしくね~。で、こっちの短気な金髪が和田新(ワダアラタ)。まこちゃん1年生なんでしょ?同い年だから悠斗と新で良いよ。」 甘いマスクのイケメン悠斗さんが自己紹介をしてくれる。 こいつら同学年だったのか。1年生で生徒会?しかも、不機嫌なヤンキーこと新さんは副会長でもある。 「僕も同い年だよ。」いつの間にか俺の隣に座っている律樹さんが言う。 高校1年生でこんなに色気があったら将来凄そうだ。女子がほっとかないだろう。 「俺も改めて自己紹介しよう。桐生蓮(キリュウレン)。高校1年生だ。」 生徒会長の桐生さんも1年生なのか。よっぽど人望があるのか仕事ができるのか。しかし、桐生さん達の只者じゃない感じをみるとなんとなく生徒会ですというのも納得できる気がする。この4人は派手というか華があるというかなんというか目立つのだ。全員えらくイケメンであることも関係しているが。さきほどすれ違った生徒達の律樹さんへの態度を見てると多分人気もあるのだろう。 「おい律樹、誠に近すぎるぞ。少し離れろ。」桐生さんが不機嫌そうに言うのに対して律樹さんが俺を引き寄せながら言う。 「妬いてるの?」律樹さんは笑みを崩さない。 というかさっきから思っていたが律樹さんはめちゃくちゃ良い匂いがする。 「クッキー美味しいよ。はい。あーん。」律樹さんが俺の口にクッキーを持ってくるため、何も考えずにそのまま食べた。それ、俺の持ってきたクッキーだけど。 「可愛いね。誠君。」俺の頭を撫でながら言うがまるっきり子供扱いである。 「律樹。」桐生さんがこちらを睨むとはーいと言いながら律樹さんが俺から離れた。 しかし、呑気にクッキーを食べている場合ではない。 本題を片付けてしまおう。

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