12 / 42
地味な俺と日向学園文化祭準備
それから俺は藤ヶ丘高校のこの倉庫の生徒会室に時々顔を出すようになった。基本休日だが。
俺の通う日向学園と俺の家のちょうど中間地点に藤ヶ丘学園があるため通うのは苦ではなかった。読書が好きだという俺のために律樹さんがいろいろと家にある珍しい本を持ってきてくれ、本棚を作ってくれた。友達と集まっておしゃべりをするという経験が乏しかった俺だが、喋ったり、お菓子を食べたり、本を読んだりとそんなに気を遣うこともなく過ごせており、1か月もたつと、この生徒会室はとても居心地の良い場所になっていた。ちなみにここにはエアコンもテレビも冷蔵庫もゲームもパソコンもある。とても快適だ。俺がいくと不機嫌そうだった新さんも毎回、母特製の手作りスイーツを持参すると大分態度が和らいできた。至極単純な男である。
しかし、最近は通う頻度が少なくなっている。
「できた。」
佐々木さんがまたもや俺を女装させる。
「おお~。」
「ユカすっごい。佐藤めちゃくちゃ可愛い。」
「このメイド服も良いよね。ロングスカート。清楚だし可愛い。」
「頑張って作ったからね。最後のほうは徹夜だったもん。文化祭までに間にあってよかった~。」
文化際の準備である。俺の所属するクラスは佐々木さんを中心とした女子達を筆頭にメイドカフェと執事カフェをすることになっている。男子がメイド服で女子が執事服だ。いってみれば女装と男装カフェである。衣装は安い中古のコスプレ服を購入してリメイクしている。しかし、ウィッグもつけて完全フルメイクというなかなか本格的な女装や男装をする我が組は準備に時間とお金がそれなりにかかっている。その分飲食店としての機能は薄い。だすのは緑茶かコーヒーか紅茶。それに手作りクッキーがついてくる。それで500円。高いといえば高いが、注文すると気に入ったメイドか執事と写真がとれるシステムである。写真は携帯かチェキで撮れる。来店時間は30分で注文は3回まで。客の回転率をあげ、売り上げを上げる作戦である。しかし、それでも大幅にもらえる予算をオーバーしているため、売り上げをださないと大変なことになると佐々木さんがクラスのみんなに再三言っている。今日はみんな女装と男装しており、一人づつプロフィール写真を撮る予定である。このプロフィール写真は廊下に張り出す上に冊子にして書くテーブルに置いとくらしいので佐々木さんもメイクに気合が入っている。
「俺相当可愛くない?やば。」
「俺のほうが可愛いぞ。この角度めちゃくちゃ盛れてるわ。」
「新たな扉が開ける気がする・・・。」
なんだかんだで男子達もノリノリである。
「佐藤マジで奇跡だな。女じゃないのが惜しいくらいだ。」クラスの男子が話しかけてくる。
今までクラスの人達とあまり関わりがなかった俺だが文化祭準備ともなれば嫌でも関わりがでてくる。
「佐々木さんのおかげですよ。」
「にしても佐藤は最近なんか話かけやすくなったよな。」
「そうですか?」
「分かる。」
「なんか地味で暗い奴だと思っていたわ。休み時間とかもいつも本読んでるし。」
「同い年なのに敬語だしな。」
「佐藤高校からだし、誰かと仲良くしてるとこみたことなかったもんな。」
「それはそうですね。」俺は苦笑する。
日向学園は中高一貫校なため、中学からの持ち上がりの生徒が多い。入学時にはすでに仲の良いグループができていたりもする。高校からの生徒は高校からの生徒同士で固まったりするが、俺はあんまり友達作りに積極的ではなかった。
「今は佐々木と仲良いし。意外に普通に喋るしな。」
「そうそう。普通に話す。」
「俺のことなんだと思ってたんですか。」
そんなにコミュ障だと思われていたのか。
「俺らと関わりたくないのかと思ってた。」
「・・・・・。そんなことはないです。」
人と関わることに積極的でなかったのは事実である。高校生にもなったし、そろそろ、それは改めないといけないのかもしれない。
俺が反省していると、キャーという女子達の黄色い悲鳴が聞こえた。
何事かと声がするほうをみると。とんでもないイケメンが入ってきた。
「ユカまじでやばい。かっこいい。」
「無理。惚れる。」
「待って。本当にかっこいい。どうしよ~。」
女子達は今までで一番テンションが高い。
「当たり前でしょ。」
佐々木さんが不敵に笑う。それにさらに、女子達がざわめく。
佐々木さんは執事服に身を包み、金髪の髪を一つにくくり、いつものギャルメイクを落としており、その端正な顔立ちを遺憾なく発揮している。ギャルメイクに違和感がない時点で綺麗な顔をしているとは思っていたが、化粧を落としてここまでイケメンだとは。
そんな佐々木さんを見て男子達は顔を見合わせる。
「・・・・・。」
「佐々木が普段女装ギャルで心から良かったと思ったわ。」
「あんなんと一緒の高校生活送っていたら絶対彼女できねぇ。」
「俺別の学校の彼女、当日来るんだけど、佐々木とは死んでも合わせねぇ。」
「プロフィール写真撮るんだから無理だろ。ざまぁ彼女なんか呼ぶからだ。お前の彼女佐々木に惚れるな。」
「あぁ。どうしよ。」
流石佐々木さんである。文化祭の売り上げも多分期待できることだろう。
ともだちにシェアしよう!