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地味な俺と日向学園文化祭1日目と不良高校の生徒会②
「もうすぐステージで腕相撲大会あるんだけど、さっきの藤ヶ丘の子でるみたいだよ。」
休憩に入るときに休憩から帰ってきた女子が教えてくれた。何をしているんだ。あの人達は。
文化祭では、ステージ上でも様々な催しが企画されている。ちなみに、佐々木さんはクラスメイト達の多数の推薦により明日のミスコンに出場予定である。出るからには優勝を狙うとミスターのほうででるらしい。佐々木さんは人気者だからどっちも優勝できそうではあるが。1日目の今日は有志によるバンドや、部活の出し物、来場者も参加できるイベントなどが行われている。今日はこの来場者参加のイベントが腕相撲大会だったのであろう。この、来場者が参加するイベントというのはよっぽど目立ちたがりでない限り飛込みで参加する人はいないため、主催した生徒の他校の友達とかが参加して盛り上げてくれるというのが暗黙の了解であるようだが。
何故か近隣でも有名な不良高校生が飛込で参加するということでいろんな意味で注目を浴びているようであるとクラスの女子が教えてくれた。
スマホを見ると蓮さんからステージのほうにいると連絡がきていたため、そちらに向かうことにした。メイクを落とすのが面倒であるという理由で部活や有志での活動がある人達を除くとほとんどのクラスメイト達がそのままの恰好で休憩に行くため、俺もこの女装姿のままである。宣伝にもなるため、そのほうが都合が良いというのが佐々木さんの意見である。
うちのクラスはこだわった服装とメイクにより、準備の段階で予算として渡される金額をオーバーしているため、売り上げをあげないと大赤字である。幸い佐々木さん効果によりその心配はなさそうであるが油断はならない。
腕相撲に参加しているのは大変意外なことに悠斗さんであった。藤ヶ丘高校の生徒ということで周りはざわざわしている。
俺は蓮さんと新さんを見つけると二人のそばにかけよった。二人とも目立つ上に、二人の周りだけ人がまばらであるためにすぐに見つかる。
「悠斗さんがこんな大会に参加するなんて意外ですね。」
「俺らは律樹から戦力外通告だされた。」不機嫌そうに新さんが言う。
「どうしてですか。悠斗さんよりは、新さんとか蓮さんのほうが力はありそうなのに。」
「見た目がアウトだって。今日ここに来たのは俺らの文化祭の宣伝もあるからな。藤ヶ丘のイメージダウンというか、イメージ通りだから駄目だって。」
なるほど。だからこの4人は藤ヶ丘高校の制服を着てきたのか。教室にいる人達にも宣伝しまくってたからな。藤ヶ丘の文化祭の宣伝をするのに、ヤンキーの新さんや強面の蓮さんでは藤ヶ丘=不良のたまり場というイメージ通りでお客さんも来ないだろう。
藤ヶ丘高校の制服を着ていてもアイドルのような悠斗さんは適任である。
「そういえば律樹さんはどこいったんですか?」
「決まってんだろ。いつものだよ。」呆れたようにいう新さんに察してしまった。律樹さんの性欲は無限である。
しかし、この4人は俺に会いに来たのではなくて自分たちの文化祭の宣伝が主のようである。律樹さんにいたっては自分の私欲のためである。どっちでもよいけど少しだけ面白くないような気分だ。
「俺は、お前に会うためだけに来たから。」蓮さんがそんな俺の心情を察したのか、俺の頭に手を置いて言う。
あぁ。蓮さん、本当にそういうところ勘弁してくれ。しかし、蓮さんのこの一言で大分浮かれてしまう俺も俺である。
新さんはそんな俺らに溜息をついた。
腕相撲大会が始まったようである。司会者の女の子が一人一人参加者に自己紹介を促してマイクを向ける。司会者は日向学園のマドンナとの呼び声も高い放送部2年生の鈴木さんである。美人な鈴木さんで参加者を釣っていると近くの生徒達が話していた。少し怯えた様子の鈴木さんがおそるおそる悠斗さんに話かけると、悠斗さんはそのとろけるような笑顔で会場に向かって、特に女子に向かって言った。
「藤ヶ丘高校1年生の吉岡悠斗です。僕、普段男子校なんで、こんなに可愛い女の子達に見られると緊張するな。ちなみに君も含めてね。」最後に鈴木さんに笑顔を向ける。
我が日向学園でこんなにイケメンな上に堂々と恥ずかしげもなく甘い言葉を吐ける生徒はいない。
「ちなみに、僕は藤ヶ丘高校ですが、喧嘩なんてしたことも見たこともないので、負けても乱闘なんて展開にはならないから安心してね。」冗談まじりに悠斗さんが続ける。大嘘ではあるが。悠斗さんは普通に喧嘩する。
「えっ。めちゃくちゃかっこよくない?」
「藤ヶ丘っぽくないよね。」
「全然怖そうじゃないし。」
「すごいイケメン。」
女子達のざわめきがすごい。
そんな中、悠斗くん頑張ってと声を上げるのはすでに先ほど教室で悠斗さんに会っているうちのクラスの女子達である。悠斗さんがその声援に手をふって「ありがとう。大好き。」というもんだからキャーという悲鳴があがった。
そこで観客の女子達は悠斗さんが完全に怖くないただのアイドル然としたイケメンであると察したようである。流石だ。悠斗さんはこの自己紹介だけで、不良高校藤ヶ丘高校のイメージを一変した。
悠斗さんの甘い笑顔を目の前でみた放送部のマドンナ鈴木さんは顔を真っ赤にしている。
悠斗さんはそれから順調に勝ち上がっていった。悠斗さんの番が来るたびにステージでは大きな歓声があがる。悠斗さんもその声に答えファンサに余念がない。女の子達に笑顔で手を振ったり、投げキッスをしたりしている。そんなこんなで準決勝だ。準決勝だというのに悲しきことに、対戦相手の本校の生徒に対してではなく、わが校の女子生徒は他校の生徒である悠斗さんに頑張ってという黄色い声援をおくっている。男子生徒達はそんな女子達の勢いに圧倒されながらも我が校の生徒に野太い声援を送っている。実に分かりやすい。
「すごい人気物者ですね。」
顔が良いとは本当に得であるが、それ以前に悠斗さんのサービス精神と観客を盛り上げる言動が実にすごいのである。1分以内に勝つよと予告をして本当に予告通りに1分以内に勝ったり、あわば負けるかという状況から逆転したり。それでいて礼儀正しく、負けた生徒を称えることも忘れない。悠斗さんはここで随分ファンを増やしたことだろう。特に女の子の。
悠斗さんが学ランを脱いで、中に着ていた白いシャツ1枚になると極めて大きな歓声があがった。
ちゃっかり脱いだ学ランを鈴木さんに渡す。意気込みを聞きにきた鈴木さんの目をみて「これに勝ったら君の連絡先が欲しいな。」なんて言っている。
そこからは今日一番の盛り上がりである。なかなか決着がつかずに5分以上経過したかというところで惜しくも悠斗さんの負けである。女子達の落胆の声と男子達の歓声の差がすごい。
悠斗さんは感想を聞きにきた鈴木さんからマイクを受け取った。
「負けちゃって司会の可愛い先輩の連絡先を逃しちゃった。僕を慰めてくれる女の子達は連絡してね。ちなみに、2週間後に僕が生徒会を務める藤ヶ丘学園の文化祭があるから、僕に会いに来てくれると嬉しいな。そこで、」
悠斗さんが着ているシャツのボタンに手をかける。
「僕たちストリップをするから、この制服の下が観たい子達は是非観に来てね。」
その日一番の歓声である。
「あいつわざとここで負けたな。ったく、一位は1日文化祭無料券だったのになー。」残念そうに新さんが言う。
「まあ、ここで優勝しても日向学園に悪いし妥当だよ。十分盛り上げて目立ってくれたし、良い仕事してくれたよ。」いつの間にか近くに来ていた律樹さんが満足そうに言う。
なんと恐ろしい人達だ。全部計算の上だったのか。
「もしかして、負けそうで勝ってたり、準決勝で司会の鈴木さんに連絡先聞いたりしたのもわざとですか?」
「まあそうだろうな。」
「悠斗くんは器用だからね。やすやす勝つより負けそうなところで逆転したり、学園のマドンナを口説いて男子達の対抗心に火をつけたりしたほうが盛り上がるしね。ちなみに僕が悠斗を出場させたのも愛想の良さはもちろんだけど、いかにも腕っぷしの強そうな新くんとか蓮くんを出すより一見優男の悠斗のほうが意外性とギャップがあるしね。」
確かに、わが校の出場者は柔道部とか野球部とかのガタイがよくて力が強そうな生徒が多かった。
この人達は俺が思っている以上に只者じゃないらしい。
「まこちゃんと律樹も見てくれてたの?」大活躍だった悠斗さんが戻ってきた。
お菓子やら食べ物やらジュースやらを持ちきれないほど抱えている。
「ステージから降りたら女の子達が恵んでくれてね。あー疲れた。俺は腕相撲なんて肉体労働担当じゃないんだけど。」
「ノリノリだったじゃねぇか。」新さんがツッコむ。
「女の子が観てるんだから、はりきるのは当然。共学いいなー。転校しようかなー。」悠斗さんなら本当に転校できそうなところが怖い。
そんなこんなであらゆるところでこの4人(主に悠斗さんと律樹さん)は自分たちの学園祭の宣伝をしていった。クラスの女子も男子もちらほら藤ヶ丘の文化祭に行こうかなと話していた。
「ユカ、藤ヶ丘高校の生徒会のツイッターみて。佐藤も。二人とも写真載ってるよ。」
クラスの女子がスマホを見せてくれたツイッターには『生徒会で日向学園に遊びにきました。日向学園のイケメンと可愛い男の娘と。』とツイートがあり、俺たちが教室で撮った写真が掲載されていた。かなりの数のいいねがされている。
「まあ、藤ヶ丘の奴らのツイッターでもこのクラスの宣伝にはなるかなと思ってね。」佐々木さんがなんでもなさそうに言う。
いつのまにそんな取引が。
「しっかし佐藤。あんた実物でもそうだけど、写真でみたらまったく男って分かんないわねぇ。流石アタシ。」
佐々木さんが自画自賛しているがその通りであるため、俺はさっき自販機で買ってきた紙パックのオレンジジュースを渡した。
「何これ。」
「可愛くしてくれてありがとうっていうお礼と佐々木さん頑張ってくれてるお礼です。」
そうすると、他のクラスメイト達も次々に佐々木さんにお菓子やらジュースやらを渡してお疲れ、ありがとう、ミスコン頑張れよなどと声をかけていった。
「・・・。ありがと。でも、まだ終わってないからね。明日もこの調子で売り上げ伸ばすわよ。」
佐々木さんは一瞬面食らったようだったが、笑顔で声を上げた。
こうして文化祭1日目が終了した。
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