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地味な俺と短気で単純な絵になるヤンキーと送りオオカミ③

「さっきの話聞いてたか。」 俺の問いかけにチビはこちらを見上げる。どう答えるべきか迷っているようである。しかし、その無言がさっきの話を聞いていたことを肯定していた。 「俺、中学で苛められてたんだよ。お前にこんだけ偉そうな態度とってんのに。滑稽だろ。」 俺は今どんな顔をしているのだろうか。 「新さんは優しいからだと思いますけど。」 「は?」 チビは時々脈絡のないことを言う。 「新さんさっきの人達に殴りかかろうとしていましたけど、自分のことを言われているときは案外平然としていました。でも、怒ったの、悠斗さんのこと馬鹿にされたからですよね。」 そんなところまで見てたのか。 「さっきの人達の新さんに対する反応をみると4対1にも関わらず新さんと喧嘩は避けたいようでしたし、俺の勝手な推測ですけど、新さんに対しての苛めは新さんが怒らなかったからではないでしょうか。だって新さんは、短気にみえて他人のためにしか怒らないから。」 こいつは案外人のことを良く見ている。 俺がクラスで孤立したのは中学1年生のときだった。 当時仲が良かったやつが苛められているところに遭遇し、苛めていた奴を殴ったら、次の日からクラスの奴らの態度が一変した。苛められていた、仲が良かった奴も含めて。喧嘩っ早い俺に暴力を奮ってくるような奴はいなかったが、陰口を言われたり持ち物を捨てられたりということが続いていた。犯人が誰かも分からなかった。短気で喧嘩っ早い俺を快く思っていない奴らは多かったのだろう。味方は誰もいなかった。そんなクラスの奴らと関わることにうんざりしていた俺は学校にほとんど行かなくなった。ムシャクシャして、いろんな奴らに喧嘩をふっかけていた。あるとき、3人の高校生に喧嘩をふっかけられてボコボコにされた。それを助けてくれたのが蓮だった。蓮はたった一人でその高校生3人をあっという間に倒した。圧倒的な強さに俺は目を見張った。誰も助けてくれなかった、友達だった奴にも見放された、嫌われ者の俺を助けてくれたのは初めて会う連だった。 「どうして俺を助けたんだよ。」俺は蓮に聞いた。 「助けたわけじゃない。3対1だったから加勢した。」蓮はなんでもないように答えた。 こいつには敵わないと一瞬で悟った。さり気なく他人を助けることができる強さと優しさをもった蓮に心底憧れた。 俺は蓮に舎弟にしてくれと頼んだが、蓮は困った顔で断った。それでも、何かお礼をさせてくれとしつこい俺に友達になってくれと言った。自分は友達が少ないからと。俺はその言葉に即座に頷いた。 蓮はそんな俺に「お前みたいな友達ができて嬉しい。」と言ってくれた。この言葉がどんだけ嬉しかったことか。蓮のためならなんでもできると思った。 俺は行ってなかった中学に久しぶりに登校した。蓮が一緒に学校に行くと言ってくれたから。クラスの奴らは相変わらず俺を腫物に触るように扱っていたが、物を捨てられたり聞こえる場所で影口をたたかれたりすることはなくなっていた。蓮とつるむようになったからだ。蓮はその当時から喧嘩の強さでいろいろと伝説を残していた有名人であった。そんな蓮のことを恐れて怖がる生徒もたくさんいた。しかし、その一方で同じくらい、蓮の強さに憧れを抱き自分の正義を曲げない姿勢を尊敬する生徒はたくさんいた。良くも悪くも、生徒からも先生からも一目置かれていた存在だった。そんな蓮の友達であることが俺の誇りであったのだ。クラスの連中は俺を空気のように扱っていたが、蓮と一緒の学校生活は全然苦じゃなかった。 「だけど、俺が蓮のためにできることって何もないんだよな。悠斗と律樹は、頭も愛想も良いけど俺は馬鹿だし短気だし。喧嘩も蓮ほど強くはないし。」 最近、悠斗と律樹が凄い奴だと分かれば分かるほど自分がマジで無価値なように感じる。 「友達って役に立つとか立たないとか関係あるのでしょうか。」チビがこちらを見上げて言う。 「俺も最近できたばっかりだからよく分からないけど、難しいこと考えずに一緒にいて楽しかったら友達で良いんじゃないですか。少なくとも新さんといるときの蓮さんは楽しそうだし悠斗さんも律樹さんも楽しそうです。」 蓮は俺といて楽しいのだろうか。悠斗と律樹も。 「新さんは3人といて楽しくないですか?」 「いや、楽しいけど。」 あいつらといることは楽しい。蓮と悠斗と同じ高校に行けたことが何よりも嬉しかったし、律樹も初めて会ったときはマジで変な奴だと思ったけど一緒にいると馴染んできた。4人で生徒会室を改装したり、生徒会室でだらだらしたり、文句を言いながらも仕事をしたりすることは楽しかった。 「でも、生徒会に俺は必要ない。いてもいなくても変わらない。」 「俺は新さんがいるほうがバランス良いと思いますけど。悠斗さんと律樹さんは頭が良くて愛想も良いけどいまいち本音が見えにくいし腹の中でいろいろ考えているから。その分新さんは単純だし分かりやすいから。一番藤ヶ丘高校の生徒よりなのは新さんなんじゃないですか?親しみやすいというか。だって新さんあの高校の中では4人の中の誰よりも一番親し気に声をかけられているじゃないですか。」 確かに、藤ヶ丘に入ってからは蓮達以外にも友達ができたし、いろんな奴らが話しかけてくれる。俺みたいな奴ばっかりの藤ヶ丘高校は周りの評判は最悪だが、俺にとっては中学よりずっと過ごしやすい高校だった。 「大体、新さんは自分のことを役に立たないというけど、喧嘩も強いし、リーダーシップもとれるし、新さんが自分でいうほど馬鹿ではないし、何より他人のために行動できる人ですよ。」 チビには俺がそんなふうに見えているのか。俺は、蓮みたいに、他人のために行動できるような立派な人間だったのだろうか。 「それに、蓮さんが新さんを選んだんでしょう?新さんに生徒会に入って欲しいって。蓮さんが必要としてくれるっていう理由じゃ生徒会にいる理由になりませんか?」 蓮が生徒会長になったとき、お前が必要なんだと言ってくれた。蓮と俺が初めて出会ったとき、蓮は俺に友達になってくれと言った。蓮が俺を選んでくれた、それだけで、俺は蓮の隣にいていいのか。 今までずっと頭の片隅に張り付いて離れなくて、でも蓮達に言うことはできなくて、誰にも言えず抱えていたことを初めて今日吐き出した。吐き出してみると、なんだか心が軽くなった気がする。話してみると、なんだかくだらないことで悩んでいたような気もする。 これはこのチビのおかげなんだろう。チビがあの場で俺を止め、アイスを奢ってくれたおかげだ。最初は蓮を誑かすいけすかねぇ地味なチビだと思っていたが、いつの間に、今まで誰にも言えなかったことを話すまでの仲になっていたんだろう。俺とチビの関係はなんなのだろうか。友達の好きな人?たまに遊びに来る知り合い?それともだたの友達? 「チビは俺のことが必要か?」 変なことを聞いてしまった。俺は蓮に必要とされるだけで十分なはずなのに。口に出してから後悔する。 「当たり前じゃないですか。俺がもってくるお菓子を一番美味しそうに全部食べてくれるのが新さんですから。うちの母さんも作り甲斐があるって喜んでいますよ。」 「俺は残飯処理か。」 当たり前だというその言葉を喜んでいることを悟られないように、俺は感情を抑えて言った。 「新さん。俺の家ここです。家まで送ってくれてありがとうございます。さっきの奴らが俺に喧嘩をふっかけないか心配してついてきてくれたんですよね?」 「ふん。アイスと漫画の分だよ。あと、・・・・話聞いてくれてありがとう。」 最後だけつぶやくように言う。なるべく聞こえないように。でも、お前のおかげで心が軽くなったから。 「俺は新さんが好きですよ。」 チビが笑顔で言って玄関に入っていった。 チビは本当に脈絡のないことを言う。 俺は無言で頭を抱える。さっきのチビの笑顔と言葉が頭から離れない。 今日のチビがやけに可愛く見えるのは多分女装のせいなんだろう。 心臓に悪いから、早くいつもの地味でさえないチビに戻ってくれ。

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