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地味な俺と派手なギャルの初めての出会いと日向学園文化祭2日目①

文化祭2日目。 「お、おかえりなさいませ、お嬢様。」 佐藤がたどたどしく言う声が聞こえた。 「あらあら誠。随分可愛くしてもらったのね。」 優しそうな女性が佐藤をみて笑っている。佐藤のお母さんだ。 「おかえりなさいませお嬢様。お荷物、お持ち致しますよ。」 アタシはもじもじしている佐藤を見兼ねて佐藤のお母さんをエスコートした。 「あらあら。ありがとう。」 佐藤のお母さんは席につくと口を開いた。 「あなた。前にうちに来たことあるわよね。久しぶりね。立派になって。」 あぁ。この人はアタシのことを覚えてくれていたのか。 「お久しぶりです。あの時はお世話になりました。」 アタシは頭を下げた。 「二人とも知り合いだったの?」 佐藤が驚いているけどこいつはすっかり忘れているんだろう。アタシにとっては人生の転機だったんだけど。 アタシは物心ついたときから自分のことを女の子だと思っていた。 幸い両親が理解のある人達であったため、そんなアタシをのびのびと育ててくれた。小学生のときからスカートをはき、髪を伸ばして仲が良いのも女の子だった。たまにからかってくる奴らもいたけど理解のある友達と両親がいたから平気だった。何よりアタシは勉強もスポーツもできたのだ。アタシは自分をからかってくる男子だけでなく、女の子に心ないことをいうような男子も殴り飛ばしてきたし、口喧嘩でも負けなかった。中学でどうしても女子の制服が着たかったため、校則の厳しい地元の中学校ではなく、校則のゆるい私立の中学を受験した。受験は合格したが、周りはアタシのことを知らない人達ばっかりで受験のときもひそひそ言われていたのに気づいていた。年齢を重ねるにつれてアタシの恰好は徐々に周りに違和感を与えるようになってきていたのだ。その上、制服を受け取りに行って準備されていたのは男子の制服だった。アタシはそれがとてもショックだった。でも、今さらせっかくお金を出して受験させてくれた親に中学校に行きたくないとは言えなかった。 アタシはその日公園で、独りで泣いていた。 そんなアタシに話かけたのが佐藤だったのだ。隣の小学校に通っていた佐藤は泣いているアタシに気分でも悪いのかと声をかけた。アタシは黙って首を振りしばらく泣いていた。佐藤はそんなアタシの隣で黙って座っていた。慰めることも話かけることもしないで。泣きつかれたアタシに佐藤はオレンジジュースをくれた。水分とったほうが良いよと言いながら。そんな佐藤の様子をみて、この子なら話しても大丈夫かなと思った。 佐藤が男の子なのに、赤いランドセルを背負って、髪が長かったことも関係していたのかもしれない。この子も自分と同じかもしれないと思った。実際のところ、別に佐藤は女の子になろうとしているわけではないと後で知ったが。 自分は女の子のはずなのに身体がどんどん男の子になっていくこと、せっかく合格した日向学園に男子の制服で通わなければいけないことを涙ながらに打ち明けた。そしたら、佐藤は笑顔で言ったのだ。 「俺の姉ちゃんの制服あげるよ。姉ちゃん日向学園だったんだけど大きくなって制服新しくしたから着てないやつあるし。」 そうして佐藤に手をひっぱられ、家に連れて来られたアタシは佐藤のお姉さんの制服を着せられた。 「サイズぴったりじゃん。似合ってるよ。」 佐藤はそう言ったがアタシは今後大きくなる自分の身体が気がかりだった。 「でも、すぐ大きくなっちゃうし。どんどん似合わなくなっちゃう。」 落ち込んでいるアタシに掛けてくれた言葉は今でも覚えてる。 「俺の姉ちゃんも大きくなったんだから男でも女でも大きくなるよ。大きくなったらまた姉ちゃんの制服やるし。それに、姉ちゃんがいってたんだけど女の子は小さいときは何もしなくても可愛いがられるけど、大きくなったら言われなくなるから化粧してお洒落して可愛いって言われるように仕向けるんだって。女の子の永遠の戦いだって言ってた。ユカちゃんは俺に似て地味な姉ちゃんより綺麗な顔してるから化粧とかしたらもっと可愛くなるよ。」 あの時、アタシのことを可愛くなると言ってくれた佐藤の言葉はずっとアタシを支えてくれた。 アタシは中学に入学するまでにメイクの練習をし、髪を金髪に染めた。ギャルなアタシに最初はみんな驚いていたけど、すぐに女の子の友達ができた。彼女たちはアタシの本当の性別を知りながら女の子として扱ってくれた。化粧の楽しさに目覚めたアタシの中学生活はとても楽しいものだった。高校に入って、地元の公立の中学に行くと言っていた佐藤がいたのには驚いた。何より小学生の時にアタシにみせた屈託のない笑顔はなく、作ったような笑顔とよそよそしさに。 高校から入ってきて地味で他人行儀な佐藤と仲良くするクラスメイトはいなかったし、本人もそれを良しとしているようだった。だから、文化祭の話し合いでチャンスだと思った。佐藤との壁を壊したくて無理やり女装させたのだ。思わぬ方向に進みはしたが、昨日の佐藤の様子をみていると良い方向に佐藤も変わっているようである。

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