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地味な俺と甘いマスクで面白さを求めるチャラ男の限定お付き合い①

「蓮君に言わなきゃいけないことがあるんだけど。」文化祭準備も佳境に差し迫る中、律樹が珍しく真剣な顔で切り出した。 今日の律樹は少し変だ。目が若干腫れぼったいのをみると泣いたのだろうか。あの律樹が?しかし、表情は大変すっきりしている。昨日何かあったのか。 「何だ?」 蓮も心当たりがなさそうである。 「誠君と、ホテルで寝ちゃった。」 「お前まじで・・・・?」信じられないと反応するのは蓮ではなくて新だ。 新も最近少し変わった。なんというかふっきれたという感じだ。日向学園の文化祭に行ったときはなんか元気がないと思っていたが、次の日からいつも以上に元気だし、ストリップの練習も意欲的にしている。そしてまこちゃんの名前をだすと少し動揺する。多分何かあったのだろう。本人は言う気はないようであるが。蓮もそんな新の変化に気づいているようであるが、蓮と新の関係は前となにも変わらない。しかし、ふっきれた新をみる蓮の目が少し嬉しそうなことに俺は気づいている。 そして律樹の爆弾発言。こちらもまこちゃんと何かあったようである。これはとても面白い。ではなく、蓮はどう反応するか。 「そうか。」 蓮の反応は驚いている新よりよっぽどあっさりしている。 「お前が、元気になっているようでよかった。」蓮は怒るというより、どちらかというとほっとしたように律樹に笑いかけた。 「蓮君はずるいなぁ。」律樹もそんな蓮をみて笑っている。 律樹が随分無邪気に嬉しそうに笑うもんだからなんだかこっちも拍子抜けである。律樹があんな顔するのも珍しい。いつもニコニコはしているけど、律樹はその綺麗な笑顔の下に全てを隠す。俺も人のことはいえないけど。新も訳が分からないという顔をしているが、蓮と律樹の反応をみて気にしないことに決めたみたいだ。単純で深追いしないのが新の利点である。蓮の反応と、わざわざ律樹が報告することから別に律樹とまこちゃんがセックスしたわけではなさそうである。 しかし、まこちゃんは律樹に何をしたのか。 律樹だけではない。蓮を惚れさせ、新を動揺させ、律樹を泣かせるまこちゃんはやっぱり只者ではない。あのユカちゃんが大事にしていることはある。 しかし、律樹の爆弾発言の日の夜、そんなことも忘れるくらい、俺の頭を悩ます出来事があった。 別れたはずの元カノから連絡がきたのだ。目立ちすぎたと後悔する。おそらく、文化祭の宣伝ついでにここ近辺の高校の女の子に声をかけたり、連絡先を交換しまくったせいだ。どこからか、俺の連絡先が漏れたのだろう。賢い子だからいつかはこの日がくることを予測していたが、今じゃなくても。 彼女の名前は和泉日花里といった。女の子が好きな俺が大嫌いな女の子である。それなりに女の子と遊んできた俺だが、この子と付き合っていたときはとても大変だった。 彼女と付き合いだしたのは中学2年生のときだった。 顔は可愛くて華奢で一見大人しい子であった。当時、派手な子とばかり付き合っていた俺は今までにないタイプの子と付き合うのも面白いかと思って告白を了承したのが運の尽き。 それまで彼女がいても、いろんな女の子と遊んでいた俺だが、彼女は俺の携帯をこっそり持ち出し女の子の連絡先を全部消し、俺がどこにいても分かるように設定し、俺がどこで何をしているかを監視した。彼女はかなりの束縛でメンヘラだった。休み時間も放課後も学校のない日もいつも一緒。家に帰っても電話とLINEの嵐。俺は1週間ももたずにギブアップし、別れを切り出したら俺の目の前でカッターを取り出し自らの手首を傷つけだした。女の子が泣き叫びながら手首を血だらけにしていく様は今でも俺のトラウマである。やめろと言ってもやめてくれなかった彼女は、一緒にいてくれるならやめると言い出した。その条件を飲み込んでしまったら、彼女は俺に気に入らないことがある度に自分の手首を切ると脅し続けた。 約半年、俺は我慢していたが、ある日我慢の限界が来たらしい。 俺はいつものように手首を切るからと言った彼女を怒鳴りつけて殴り飛ばした。女の子を殴ったのは後にも先にもその一回きりである。そこからは暴力沙汰で謹慎処分。そこで一つ幸運だったことは、たまたまその場面を蓮と新が見ていたことだ。彼らは俺たちのただならぬ状況を察して後をつけていたらしい。俺が自宅謹慎の間、二人が教師たちに懸命に状況を説明してくれた。新が俺達のやり取りの一部始終を動画で撮影していたため、彼女が自分の手首を切ると俺を脅していたことも明らかになった。そこから彼女のほうにも非があるということで退学処分は免れた。彼女はそのまま治療という名目で自宅療養となった。 俺が彼女と付き合っていたときは、誰も俺達に近寄ろうとはしなかった。 クラスメイトはうすうす俺達の関係が変だということに気づいていたが、関わりたくなかったのだろう。というか、俺は友達の連絡先を全部彼女に消されていたし、彼女から女の子とも男の子とも深く関わることを禁止されていたため、誰にも状況を話せていなかった。 他のクラスの奴らは今まで派手に遊んでいた俺が遊ばなくなるほど彼女にぞっこんだと思い込んでいた。もともと浅く広くの友達付き合いであったし、連絡が取れなくなった俺を心配する奴はいなかった。何より彼女はその辺の情報操作は徹底していた。彼女は一見成績も良く真面目で大人しい生徒であったため、教師からの信頼が厚かったことも厄介だった原因である。 こうして誰も真相がよく分かってないまま俺は自宅謹慎から学校に戻った。ちゃらちゃらして派手に遊んでいた俺が大人しく真面目な彼女を殴り飛ばして自宅謹慎。彼女は自宅療養から帰ってこない。この状況で俺が悪者にならないほうがおかしい。案の定、無理やり俺がレイプしたとか、DVしていたとか、自殺未遂に追い込んだとかいろいろな噂が流れていた。彼女の束縛はなくなったが、誰も俺と関わろうとしなかった。これも彼女の策略だったのかもしれない。 しかし、そんな俺に話かけてくれたのが俺を助けてくれた蓮と新だった。そこから蓮と新とは仲良くなった。この二人にはマジで頭が上がらない。彼女と付き合って唯一良かったことはこの二人と出会えたことだろう。

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