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地味な俺と不良高校のストリップと告白の返事③

「お前に言ってなかったことがある。俺、誠と小学生のときに会ってたんだ。」 蓮さんが話を始めた。 「俺は子供の頃からこんな見た目のせいで周りから怖がられてきて、友達なんか一人もいなかった。その見た目から中学生や高校生から喧嘩を売られることもあった。その喧嘩に勝つとますます周りは俺のことを恐れるという悪循環だった。ある時、喧嘩して怪我していた俺に声をかけてくれたのがお前だった。お前は俺の手当をしてくれて、喧嘩をするのは悪いことではないけど、自分の身体も大切にしろと言った。俺はそれが嬉しかった。そんなことを言ってくれる奴はいなかったから。」 蓮さんが続ける。俺はそれを黙って聞いていた。必死に記憶を呼び起こしながら。 「俺が、どうして俺に声をかけてくれたのかと聞くとお前は自分のためだと笑って言った。 自分の願いを叶えるために、困っている人を見つけて、人の役に立つようにしていると。偽善かもしれないけど、神様がみてくれて願いを叶えてくれるかもしれないからと。自分の願いを叶えるためにはそれ相応の行動にしろと本に書いてあったけど何をすればよいか分からない。だからとりあえず、人に感謝されることをしようと思ったと。 俺がそこまでして叶えたい願いがなんだと聞くと、お前は父さんの病気を治すためだと言っていた。」 俺はその言葉で思いだしていた。 当時小学生だった俺は病気の父さんに何もできなくて、神様にお願いしていた。俺が良い行いをするから父さんの病気を治してくれと。俺が困っている人を助けても、神様にお願いしても、父さんの病気は治らないと本当は気づいていた。 それでも、いるかも分からない神様に、願いが叶うかもしれないと行っていた、自分の偽善的な行為に縋りついていたかった。 「俺はそんなお前に惚れたんだ。誰かのために献身的に行動できるお前が、その時の俺には眩しくて、そんなお前のそばにいて、お前を助けたいと思った。」 その時、確か蓮さんは、 「俺もお前に協力する。俺も人助けをするから。そしたら2倍神様も助けてくれるかもしれないだろ。」 俺に協力すると言ってくれたんだっけ。 「それから、俺が困っている奴を助けるようになったら、自分から人に関わっていくことで、俺をただ怖がっていた周りの奴らの態度も少し変わった。そして、俺から関わったことがきっかけで新にも、悠斗にも律樹にも出会えた。そして、お前にまた再会できたんだ。」 「でも、蓮さん初めてあったとき、俺のこと女の子だと思っていなかったっけ?」 「それは、小学生のときもお前のこと女の子だと思っていた。ランドセルが赤かったし、背も低かったし。髪も長かったから。」蓮さんが気まずそうに答える。 そういえば姉さんのおさがりの赤いランドセルに髪が長かった俺は、その当時は良く女の子に間違えられていた。願掛けのように伸ばしていた髪は地元の中学に行く前には校則違反になると無理やり切られたが。 「でも、高校でお前をみたとき、女でも男でもどっちでも良いと思った。お前は、俺が惚れた佐藤誠だった。」 そうだったのか、俺が昔、蓮さんに自分から声をかけたから、蓮さんは俺のこと覚えてくれていたのか。 俺が父さんのためと言いながらしていた、ただの自己満足でしていた行動が蓮さんと出会うきっかけをくれたのか。 俺から蓮さんに声をかけたから。 「蓮さん、父さんの病気なおらなかったんだ。父さんが死んでから、自分から、人に、関わらなく、なって。」俺は声が震えていた。 「・・・・そうか。」 「でも、蓮さんが、俺を見つけてくれて。そして、蓮さんと、佐々木さんとも、新さんとも、悠斗さんとも、律樹さんとも、仲良くなれたんだ。そしたら、毎日が、楽しくて。父さんがいなくても、楽しくて。」 俺は泣いていた。父さんが死んで初めて。 「そうだな。」蓮さんが優しく言った。 あの時の俺の行動で、父さんの病気が治ることはなかったけど、あの時の俺の行動がこんなに素敵な出会いを引き寄せた。 父さんが死んでから、どうせつらい別れが待っているのだから、他人と深く関わる必要性はないと思っていた。 人と関わらなければ、自分も周りも悲しくないと。 でも、俺は父さんのおかげで、こんなにも大事な人達と出会えたのだ。 その人が大切な人であるほど、いつか来る別れは怖いし、つらいけどその人が残してくれた縁は、記憶はなくならない。 人と生きるとはそういうことだ。 つらい別れを恐れるよりも出会った奇跡を大切にしよう。 「蓮さん、今、告白の返事をしても良いですか?」俺は蓮さんに聞いた。 もうとっくに、返事は決まっている。 「その前に、前の告白やり直してもいいか?」蓮さんの問いに俺は頷く。 「誠、俺のそばにいろ。」 蓮さんの瞳には俺が映っている。俺は告白されたときから蓮さんに、この瞳に囚われていたのだろう。でも、その瞳から逃げ出すつもりは、もうない。 俺はそんな蓮さんの背中に手を回す。 「一生離さないでくださいね。」 「約束だ。」 蓮さんの答えとともに、俺たちはお互いの唇を合わせた。このキスがまるで誓いの証のように。 この誓いは永遠ではないかもしれない。この先蓮さんと別れる日が来るかもしれない。 それでも、今日誓った約束も、初めてくれた告白も、血の味がするキスも、数えきれないほどの蓮さん達との思い出は、俺と共に生きていく。

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