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地味な俺と不良高校最強のド直球男の両親へのご挨拶④
線香の匂いとたくさんの人が眠る墓地の道を歩くのも、もうすっかり慣れてしまった。
住職さんともすっかり顔なじみだ。ついつい喋りすぎちゃったわ。お喋りがとまらなくなるのは、私の悪いくせね。
誠と蓮君は今頃どうしているかしら。あんまり、無茶はしてないといいけど。誠は、変なところで大胆だから。蓮君のこと困らせてるんじゃないかしら。
私は、蓮君の言葉を思い出す。誠が席を外した時に、蓮君が真っすぐな瞳で私を見て言った言葉を。
「誠のお母さん。
俺は、大切な人との別れを考えながら今を生きるより、大切な人とずっと一緒にいると信じて今を生きていきたいです。
誠は俺より、強いです。その強さに俺は惹かれました。
だから、大切な人を失う怖さを知っても、大切な人とずっと一緒にいることを信じられる奴だと思います。
俺も、誠のそばにずっと一緒にいられると信じます。独りで生きていけるように大切なものをつくるだけじゃなくて、二人でずっと一緒にいるために大切なものをつくっていきたいです。」
「本当に、誠は良い男を捕まえてきたもんだわ。」
私は夫が眠るお墓の前でぽつりとつぶやく。
あなた信じられる?誠に、超イケメンな彼氏ができたのよ。
最初は誠が男同士でキスをしていたことに驚いた。ましてや公衆の面前で誠のほうから押し倒しているなんて。大人しくて引っ込み思案だったあの誠が。
でも、誠と蓮君を見ていたら納得した。誠が蓮君のことを好きなのも。蓮君が誠のことを好きなのも。
「子供の成長なんてあっという間ね。」
誠は私が思っていたより、強い子だったのだ。あなたが死んだことを、受け入れられなくて、独りでふさぎ込んでいたあの子はもういない。
「ろくな反抗期もなかったくせに、いつの間にか大人になっちゃったみたい。」
背は小さいままだけど。中身はいつの間にか大きくなってた。
「なんで、あなたは誠の成長も彩香の成長も見ずに、そこに眠っているのよ。」
私はお墓の前で文句を言う。独りでここに来るときには、ついつい愚痴をこぼしてしまう。
私は誰もいないことをいいことに、お墓の前にお行儀悪く座り込む。今日は、暗くなるまで、ここでとことんお喋りしよう。彩香のことも。誠のことも。蓮君のことも。もちろん、私のことも。嬉しいことも、楽しいことも、愚痴もとことん喋り尽くしてやろう。
あなたは黙って聞いてくれるから。
あなたとこんなに早く分かれるなんて、思ってもみなかった。ずっと、一緒に、お互いしわくちゃになるまで一緒にいるもんだと思っていた。
あなたと別れるときは辛かった。こんなに悲しいことがあるなんて信じられないくらいに。
でも、あなたとずっと一緒にいられると信じていたとき、私は確かに幸せだった。
そして、今。
もう、生きたあなたとは二度と会えない人生だけど、あなたが残してくれた大切なものと共に生きることができる。
あなたがくれた、たくさんの縁と記憶。楽しいことも、嬉しいことも、別れの悲しみも、辛さも、全部抱えて今を生きる。
私は今も、幸せだ。
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