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第10話 宿直の朝

僕はもともと朝に弱いんだ。ましてや極上の肌触りの褥。なにより隣には陛下の体温が。 日中の激務でお疲れのはずなのに、陛下の朝はお早い。僕がぼんやりと目を覚ます頃には大抵お目覚めで、ものすごく僕を見てる。恥ずかしいのと申し訳ないのとで、最近は頑張って早起きするようにしてる。ふふ、今日は僕の勝ち、先に起きられた! 陛下の寝息を受けながらじっくり観察してる。お目覚めになったら恥ずかしくてじろじろ見られないからね。 はぁぁ~陛下のお鼻! 高くてかっこいいなぁ。僕のはつまんで伸ばしてみても、ちょっと上を向いてて小さくって悲しい。陛下は唇もね、ちょっと厚みがあってなんか強そうなんだけど色気があるんだよな。陛下がよくするニイッて口端を上げるのを真似してみるけど、僕の小さな口じゃきっと引きつってるようにしか見えないよね。 そして朝限定のこのヒゲ、いいよね。僕には生えてこないヒゲ。毎日きれいに剃っておられるのに、一晩で生えそろうのがすごい! 髪色と同じ濃茶色のヒゲに指先でそっと触れる。チク……チクチク、ジョリ。おおお、硬いな! 「フ、フフフ……」 小刻みに震える陛下に、あっ起こしてしまった? と思う間もなくジョリジョリジョリっと頬ずりされる。 「てて、痛い~ヒゲ痛いです!」 「あはは、ごめん、あんまり可愛いから! ああ、擦れて赤くなったな。薬塗ろう!」 慌てて軟膏を取ろうと起き上がられる。 「大丈夫です、このくらい! 顔も洗いますから」 と取りすがれば掛布がはらりとめくれて、はだけた夜着の隙間から天を突く陛下ご自身が顕わになる。 ――お、大きい! なにこれ?! 記憶にある僕の物とはあまりに違っていて、目が釘付けになる。 「あ~、ごめんごめん」 陛下は僕にそれがないことを気遣って下さるのか、見せないように隠してしまう。でもパンパンになってて、赤黒くなってて……痛そうだった。 実際辛いらしいと知ったのはつい最近のこと。 リァンさまが「勉強しておくといいわよ」って僕に下さった、分厚い『閨事大全――その作法と実践』には、こんな状態になったときのお慰めする方法がいくつも載っていた。親切にもいちいち図解してあるんだけど、いや、かなり、僕には刺激が強くてなかなか読み進められなかった。それでも、僕の自由時間はお昼間だから、明るい陽光で読むあれやこれやは強烈に目に焼きついた。 そう、今このとき、まさに実践するとき……だよね? 意を決して、掛布の下にそっと手を伸ばす。触れれば熱くてビクリと震える。 「えっ?! しょーちゃん?」 「ぼ、僕が、お、お慰めします!」 えっと、掌で包むんだっけ。うわ、熱い! それから、上下にこするんだっけ? ん、なんかビクビクする?! わっ、なんかもっと膨らんだ? 「んーーー! しょーちゃん……それ、生殺し……してくれるんなら、ここ、ここもっと強く」 陛下の手が僕の手ごと握りこんでゆるゆると動く。 先っぽの一番大きく張り出したところがパツンパツンではち切れそう。ちょっと怖い! 「い、痛くないですか?」 「うん、うん、もっと強く! あー、しょーちゃんがこんなっ……」 なんかぬるぬるしてきてこすりやすくなってきた。握り混む力が強くって僕の手が痺れそう。 陛下の息が荒くなってきたからお顔を伺えば、上気した中の潤んだ瞳が切なそうに僕を見つめる。 「……しょーちゃん!」 陛下にギュッと抱き寄せられれば、手の中のものがビクビクッと震えて…… 顔に何か熱い物がかかった。 「はぁ、はぁ、はぁ……あっ、目開けないで! ご、ごめんね!」 じっと待っていると、顔を仰向けにされて柔らかい布で拭って下さる。 「ごめん! しょーちゃんがこんなことしてくれてるって思ったら持たなくて。いや、もう、気持ちよかった。ありがとうね」 顔中に口づけしながら、胸や手も拭って下さった。 突然どうしたの? なんてお尋ねになるから、リァンさまに頂いた本の事をお伝えすれば、一瞬苦い顔をなさったけどギュッと腕で僕を囲って目を合わせる。 「嫌じゃなかった?」 真剣なお顔で、今まで何度も繰り返した質問をされる。 正直変わった臭いがするし、びっくりした。でも、すごく嬉しそうな陛下のお顔と、なぜかまた大きくなってるあそこがなんだか可愛く思えてきて、僕も嬉しくなってしまった。だから、ついにっこり微笑んで「嫌、じゃない、です」ってかぶりを振ったら、陛下は変な声でうめきながら僕を折れるんじゃないかってくらい抱きすくめた。 そんなこんなで侍女長さまと陛下のお見送りを済ませると、僕の自由時間になる。 お部屋を辞すときにはいつも、侍女長さまがとっても良い笑顔で 「今朝も陛下は大変ご機嫌麗しかったですね! ご苦労さま」 とねぎらって下さるので、少しはお役に立てていると思っておこう。 最近の陛下は外廷でも絶好調なんだって。 宿直だから昼は休んで良いと言われている。でも、寝入るまでに陛下にいじり回されてどっぷりくたびれるくらいで、一度寝てしまえば人肌の温かさに加えて極上の寝具でくるまれるのとで、毎日ぐっすりと質の良い眠りに恵まれている。朝餉も陛下と同じものをいただくので、最近肌の色艶は良いし、体調も抜群に良くなってる。 ただ寝るだけの仕事なんて詐欺みたいで、正直働いた気がしないよね。こんなに良い待遇なんだから少しでもお役に立ちたいと思って、昼間は掃除や庭の整備に精を出すことにしている。でも、他の宦官に見つかるとなぜかやめさせられてしまうんだよね。 そうだ、宦官長さまにお昼間もなにか仕事を下さいって直接お願いしてみようかな。

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