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第12話 もうすぐ成人する僕

今、リァンさまの居室でメイと僕の三人でお茶をしてるところです。 リァンさまのとなりにはもちろんメイが寄り添って、というか、リァンさまがメイの腕に巻き付いてすっかり体重を預けている状態です。 「んもう! 陛下ったら私たちのことまだ言ってなかったの! ごめんね、しょーちゃん。私、メイと対等になりたくて。だから、お互い妃同士になりたかったのよね。リァンさま・・なんて様付けはもう嫌。メイのこと好きすぎて、ほかの侍女たちと平等にするのも難しいし。それにね、万が一にもメイがどっかの狸じじいに目着けられたりしたら最低だし!」 メイはそれでよいの? と顔を見れば、心から嬉しそうな目線を返してくれる。リァンさまに戻す眼差しは慈愛に満ちていて、我が妹ながら気丈夫で落ち着いた娘だよね、と感心してしまう。 「良かったね、メイ」 「はい、お兄さま。本当にありがたいことです。ただ、覚えなければいけないことがたくさんあると思うので、私に務まるか不安で……」 「メイ~私がなんでも助けてあげる! 面倒なことは私にまかせて! あと、陛下はしょーちゃんのことしか見てないから放っておいて大丈夫よ! 全く問題なし!」 リァンさまは背の高いメイの顔を見上げてギュッと抱きつく。 「父様から聞いたんだけど、私がなかなか懐妊しないから側妃を迎えさせろって周りがうるさいみたい。もうそろそろ抑えきれないらしくて。他の子が来たらたまったもんじゃないわ! だからと言うわけじゃないけど、メイが妃になってくれたら嬉しくて」 でも。このままではリァンさまもメイも永遠に懐妊しないわけで……問題を先送りにしただけだよね? 「お世継ぎはこのままだと無理ですよね……リァンさまもメイも懐妊しないとなると、更に側妃が増えるんじゃ……」 「まぁあとは、陛下があちら的に不能なんじゃないかって噂が立つか、よね。陛下はこれ以上絶対に妃は増やさん、っておっしゃってたけどね」 事情を知らない妃がここに来たら僕たち四人、全員なにかとやりにくいわけで…… 「ご、ご懐妊のために、陛下に、よ、よよ、夜伽なさいますか?」 胸がチクチクするのをこらえて提案すると 「いや、それはないわ! 陛下は男の中では一番ましだと思うけど……私無理! そもそも陛下だって無理だからって私安心して輿入れしたのよ。そう言えば陛下がね、しょーちゃんが成人したら良い考えがあるっておっしゃってた。うふふふ……楽しみにしてて」 「僕がですか? ご懐妊については何の役にも立たないと思うんですが……」 「しょーちゃん確か来週誕生日よね! ついに大人の仲間入りね! 陛下が浮き足立ってたわよ。まあ、四人で楽しくお祝いしましょうね!」 誕生日を祝ってもらうなんて、家族が離散してから一度もなかったことで、高貴な方が相手なことに気が引けたけど正直とても嬉しくて、このときはただただ来週が待ち遠しかった。 陛下の恋人になったあくる日、リァンさまから頂いたあの『閨事大全――その作法と実践』と同じ物を陛下が出してこられて、パラパラとめくっておられた。僕のよりだいぶ古びているみたい。 「懐かしいな。貴族の子弟はまずこれを与えられるんだよな。ははは、この絵! 妙に写実的でびっくりするよな! まあでも実用的だし、ひととおり網羅してるからね」 パタンと本を閉じると、一枚の書き付けを差し出される。何だろ? 『355頁~ 第五章、第四項』 「ここ、読んでおいてくれる? 第五章全部読んでもいいけど……最初の方は意義とか歴史とかだから飛ばしてもいいよ。あ、第四項読んでも自分で試したらダメだぞ。俺がしたいから」 僕に片目をパチリと瞑って見せたあと、ご公務へとお出かけになった。 自室に帰って閨事大全をひもといてみれば、陛下の美しい筆跡が示す頁、それは閨事の本の、男同士の場合の章の、受け入れるための準備の項、だった。 ――う、わ! えっ?! そっか…… 男同士の恋愛があることを知ってはいたけど、ちゃんと考えたことなんてなかった。準備、大変そうだな。って、こっちが僕だよね。準備からして、恥ずかしすぎない? じ、自分でさせてもらえないかな……あーなんかお尻がムズムズする。どうしよう。陛下の……とんでもなく大きかったかも。あれを、入れるの? 無理だろ! 頭は熱くて湯気がでそうなのに背中がぶるっと震える。だって恋人になってからというもの、閨宿直――公には業務ってことになってる――のふれあいは、ふれあうだけなのにますます激しくなってる。閨事のあれこれを読めば、浮かぶ絵は陛下のお顔や体に変換され、書いてあることがそのまま僕の肌に再現される心地がして、平静ではいられない。体中が粟だって、催した気がして小用を足しに厠へ行ったけどたいして出ない。 なんか体が変になりそうで、思い切って庭仕事を始めたけど、そわそわしたり突然のぼせたりしてたから、端から見たらさぞかし変な奴だったに違いない。 でも、その晩から身をもって知ったもっと恥ずかしいことで、僕はさらに変な奴になった。

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