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第13話 昼間のお仕事始めました

陛下のお取りはからいで、図書資料室での仕事をさせていただけることになったんだ! 宦官になってからの楽しみが読書だけだったから、このお仕事はすごく嬉しい。手が荒れないようにって陛下が差し入れて下さった絹の手袋と良い香りの軟膏を持って仕事に向かってます。 陛下と恋人になってからの閨宿直は、体を合わせる準備だとかで、これがとにかく恥ずかしいんだ。思い出すと頭がおかしくなりそうだから、没頭できる仕事があって本当にありがたい。 ちょっと前にお昼間にする仕事が欲しくて、宦官長さまに仕事が欲しいとお願いに行ってきた。 宦官長さまは僕が宦官になってからずっと、何くれとなく気にかけて下さっているとても素敵な方なんだ。僕の父上と同年代の美丈夫で、灰色になった髪の毛をきっちり後ろに流して丸眼鏡をかけているのが格好いい。宦官だけど背が高く威厳があって、落ち着いた物腰で仕事をする姿にちょっと憧れる。 「ショウには肌を傷めるような仕事はさせるなと仰せつかってるのだがな。まあ遊んでいろと言われても、お前は生真面目だからなあ。いくつか見繕って陛下にご相談申し上げてみよう」 と一部、訳の分からないことをつぶやいておられたけど、すぐにお話を通して下さって、早速その晩陛下からお話があった。 「しょーちゃんは宿直の仕事は不満か?」 褥に寝そべって僕の腰を引き寄せる陛下の唇がちょっととんがってる。 「とんでもないです。不満なんてありませんけど、毎日ただぐっすり寝ているだけなので、申し訳ない気がしまして……あまりにもお役に立たないと、穀潰しだと言って追い出されないかと不安もあって」 「これは俺の安眠を守るすごく重要な仕事なんだがなぁ……俺が頼んでるんだから誰も追い出したりしないよ。でもしょーちゃんのそういう生真面目なところも好きなんだよね。ん~何かやってみたい仕事はある? あ、危険なのはダメだぞ。というか、夢はないの?」 「夢……そんな希望が持てると思わなくて、宦官になってからは考えたことなかった、です。子供の頃は父みたいに皇帝陛下のお側でお助けできたらって思いましたけど。今の僕では……だから、なんでもします! お庭の整備でも、お掃除でもお申し付け下さい!んぐ」 意気込んで言う僕の小さな鼻先をつまんでもてあそぶ陛下。 「俺の手伝いをさせても良いんだが……表に出すのは心配だな。中央は油断ならないオヤジばっかだし。宰相のところは安全そうだが激務過ぎるし。そう言えばしょーちゃん、読書が好きだったな! 図書資料室なんかどうだ?」 そんなやりとりがあって通うことになった図書資料室は、外廷の端にあるから後宮から出ることになる。そこで仕事をする条件は、1人で行き来しないこと。誰か必ず送り迎えが付くのが子供みたいだしお手数をかけて心苦しいけど、たくさんの本に囲まれてやりがいがあって楽しんで仕事してる。 ここ何日か送り迎えして下さっているのが、リァンさまの侍女のお一人ソィエさん。かなり背が高くて気の強そうな美人さんです。武道の心得があるとかで立候補して下さいました。立候補して下さった割には僕を見る目がいつも怖いです。この方メイを見る目も厳しかった気がする。 さて今日は僕の誕生日。ついに僕も大人の仲間入りだと思うとついつい頬がゆるんでにやけてしまう。図書資料室で仕事をする間にリァンさまたちがお祝いの準備をしてくださるそう。心が浮き立って足取りも軽く仕事へ向かえば、前を歩くソィエさんがクルリと踵を返す。 「今日は室長さまがこちらに来るようにと」 とそっけなく導かれ、階段下の小部屋に入る。資料でも運ぶのかな? 用具入れの小部屋かな? 小窓から射し込む光線にほこりが舞い上がるのが見える。椅子とか卓子とかが積んであるけど本とか資料は見当たらないな? 室長さまの姿を探して見回せば、僕を射るように睨みつけるソィエさんと目が合う。 「あの、ここで間違いないですか? 何をするんでしょうね?」 少しでも和らがないかなと笑いかけるけど、狭い倉庫のような場所で詰め寄ってくるソィエさんに頬が引きつる。 「ショウ。あなた、何なの?」 沈黙を破る鋭い声に少しずつ後ずさる。恐ろしくて黙っていれば、こめかみには筋が浮き出して唇がブルブルと小刻みに震え出す。 「リァンさまに取り入って、妹が妃になるからって。ただの宿直のくせに、何の役にも立たない男の腐ったやつ……宦官風情が陛下と親しくして!」 「ヒッ」 首根っこを掴まれて壁に押しやられる。 「も、もう時間ですから図書資料室に行かないと……」 「今日は行かないと言ってあります」 声が低い。瞳に憎しみの炎が燃えさかる。 「私だって皇帝妃としてふさわしい教育を受けてきたのよ。リァンさまだけだと思って我慢してきたのに。お前の妹なんかよりよっぽど私の方が陛下にふさわしいわ!」 いや、この人どこまで知ってるのかな? 僕が夜伽じみたことしてるのは知らないはずだよね? お部屋に連れ込まれてるのは目撃されてるけど…… 「お前みたいな貧相な下っ端がまとわりついていると、陛下の格が下がってしまうわ。兄妹ともども本当にいまいましいわね」 襟を絞り上げる手にギリギリと力がこもる。苦しい…かかとが浮いてる。すごい力だ。 その時、ギッと音がして入り口の扉から大きな影が入ってくる。 「おう、ソィエ。待たせたな」 「あ、父上さま」 それはソィエの父、帝国軍将軍だった。

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