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第15話 誕生日のお仕置き

僕を担いだままものすごい勢いで後宮に戻った陛下は、居室に入るなりドカドカと足音も荒く閨の戸をめざし、そのままの勢いで僕を寝台に放り投げた。 バフリッと柔らかな褥が僕を受け止める。そのまま陛下がのしかかってくるのが見えたけど「くっ、ダメだ!」と呻いて横を向いてしまう。眉間の皺が深くて……苦しそう? のそのそと起き上がってのぞきこむ。 「ごめんなさい陛下。僕なんかのために、ご公務置いてこられたんっ」 と、僕の両手を掴んで引きよせる。 「ごめん、しょーちゃん……乱暴だった。今日はしょーちゃんの誕生日だから公務は外してあったんだよ! 俺がこの日をどれだけ楽しみにしていたか……」 眉間を片手で揉み込みかぶりを振る陛下。 「ああもう! こんなことが言いたいんじゃなくて!」 両手でご自分の膝をバンッと叩くと、僕に向き合って両手を握り直した。 両手はギリギリと痛いくらいだし獲物を目の前にした猛獣みたいな目が怖い。 でも紡がれた言葉は、ことさらゆっくりで、低いけど優しい声で。 「しょーちゃん、いやショウヨウ。俺と結婚してください!」 獰猛だった瞳がとろりと甘く滲んで、僕を射すくめる。 「俺の伴侶になってほしい。ずっと側にいて欲しいんだ」 ――おっしゃる意味が分からない。僕はしもべである宦官だし、もとは男だし…… 「結婚? 伴侶?」 いやそもそも、これからお仕置きされるんじゃなかったっけ、僕。 首がますます傾いてしまう。 「ダメか? 断っても良い……なんて言ってやれたらいいんだろうけど」 「へ? す、すみません。いや、伴侶って僕がですか? 結婚は無理ですよ。一応もとは男ですし」 動悸がしてきて声が震えてしまう。 「世界にはな、男でも結婚できる国もあるんだ。この国ではまだできないけど、いつかできるようにしてみせる。それに、制度にこだわらなくても良いじゃないか。側にいて欲しいのはしょーちゃんだけなんだ。それとも、しょーちゃんはこだわる? それなら優先順位上げて制度改変急ぐけど……」 「いや、そんなこだわりあるわけないですけど。でもリァンさまとメイは?」 「それはしょーちゃんも知っての通り、偽装だからね! 彼女も僕も、機が熟せばいつ離婚しても良いと思ってるよ。うるさい奴らを遠ざけるのに都合が良すぎて、まだ当分やめられないんだけどね」 「お、お世継ぎはどうするんです?!」 途端に陛下の眉が八の字にさがる。 「はぁぁぁぁ……しょーちゃんまでそんなこと言う? 血筋がなんだよ。前の皇帝なんかひどかっただろ? 俺が皇帝でいることをみんなが認めてくれている、俺を買ってくれていることには感謝しよう。俺は確かに向いていると思うよ。国を守り国民が幸せに暮らせるように整えていく、この仕事は嫌いじゃない。やりがいがあると思うし、どこまでやれるかと思うと面白い。もちろん責任は重いし頑張らないといけないけど、俺は上手くやれると思う」 一気にまくしたてると、息を継ぐ。 「でもな、俺の子孫も向いているとは限らないじゃないか。そして、皇帝じゃなくたってできることなんだよ。この国は実はさ、本当に遅れているんだ。技術、医療、教育、もう数え切れないくらいのことで。たまたま世界の外れにあって海に囲まれてるから、どうにか生き残ってこられたんだ。海の向こうはきな臭くて、いつどうなるかわからない。優れたものが、やる気のあるものが、この国を率いていけるようにしてやりたい。すぐには無理だけど、自分たちで考えて、みんなでこの国を守っていけるようにしたいんだ」 手を引かれて額がゴツ、と合わさる。 「俺だって結構頑張ってるんだぞ。本当に好きな人といることぐらい許して欲しいじゃないか」 ――陛下が頑張ってるのは知ってます。でも、でも…… 「本当に、それが僕なんかで良いんですか?」 「僕なんかじゃないよ。もう! しょーちゃんが良いんだよ。公表は当分難しいかもしれないけどね、しょーちゃんに側にいて欲しいんだよ!」 温かな大きな掌で僕の頬をつかまえると、高い鼻先があやすようになでてくれる。 すべてをなくして孤独だった、希望も何もなかった僕が、こんなに温かくて素晴らしい人を手に入れて良いんだろうか。もしかしてこれは、僕の願望が見せている夢で、僕のものになったと安心した途端、ふっとすべて消えてしまうんじゃないだろうか。そんなことが頭をよぎって背筋に震えが走る。 「こわい、こわいんです。こんなの夢みたい。ふっと全部消えちゃうんじゃないかって。夢が覚めたら本当は一人で、やっぱり何も持ってないひとりぼっちの僕なんじゃないかって」 陛下は頬に当てていた手を背中に回して強く抱きしめてくれる。苦しいくらいに。 「ほら、あったかいだろ? 毎日一緒に寝てたのが夢? メイに会えたのも夢? そんなことないだろ?」 そう言うと突然僕の鼻先に噛みついた。 「いでっ!」 「ほら、夢じゃないって! それよりさ、随分焦らしてくれるね。俺もう断られるかなってドキドキしてるんだけど」 そんなこと言うけど心配なんか欠片もしてないような笑顔。 「ぼ、僕を伴侶にって言って下さったのは嬉しいです。いいのかな、本当に……」 いつのまにか涙腺が決壊していた僕の頬をペロリとなめると、その舌で唇を押し開く。そのまま舌同士が絡まり合ったら、僕の涙が本当にしょっぱくて、つい笑ってしまった。 「はい、じゃぁ返事して!」 「はい。こちらこそお願いします。ふつつか者ですが、陛下のお役に立てるように頑張りたいです」 「……はぁぁ。もっと雰囲気作ってプロポーズするつもりだったのに。よし! とにかく今からしょーちゃんは俺のお嫁さんね!大人で嫁さんなしょーちゃんとは、堂々と最後までしてもいいってことだよね?」 語尾上げてますけど、異論は全く受け付けないって笑顔。 僕だって 抱きすくめられて唇を合わせたりしていれば、体に熱がどんどん溜まっていくのが分かる。さんざん触られてきた場所だってチリチリじくじくと痒いようにうずき出してる。最後までっていうのは、まだ知らないからもちろん怖い。でも、陛下を幸せにしてあげたい、そんな気持ちがどうしようもなく膨れ上がってつい、伸び上がって触れるだけの口づけをした。 驚いたように目を見開いた陛下。琥珀がきらきらと潤って輝く。まぶしくて目を眇めて離れようとすると、噛みつくみたいに追いかけてきた唇に捕まえられる。息ができないくらいに深く熱い舌に侵されて朦朧とすれば、苦しいと思う間もないくらいあっという間に、僕の衣はすべて剥ぎ取られてしまっていた。あまりの手際の良さに嫉妬すら覚えるくらい。 肌に感じる外気に腰が引けても、許されずに密着するようによせられる。 「はふっ、んん……!」 息継ぎした瞬間、胸をかすめるちょっとかさついた指にみるみる体も頭も沸騰したように熱を上げる。さりげなくかすめた指は意思を持って這い回り始める。 陛下は僕の胸が好きみたいだ。僕は全体的に肉付きが悪いのに胸とお尻だけなぜかちょっとむちっとしてる。ここのところ毎日触られてきたからか、これまで気に留めたこともなかった胸の中心が、直接触れなくてもすぐに固くなって立ち上がってしまう。そんな尖りを押し込んだり揉み込んだりされると、背中がゾクゾク粟立つし、赤く色づいてしまったそこを吸い出されなんかしたら、ギンッと痛いようななにかが脚の付け根に向かって走って行く。その痛みにも似たものは僕の下腹部に重く熱くだんだんと溜まるばかり。どうにかして散らしたいのに体中に充満する一方で、何も考えられなくなる。

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