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エピローグ(上)
陛下と結ばれてしばらくは、僕の体つきが貧相なこともあって、陛下を迎え入れるだけで精一杯で。陛下はずいぶん我慢して下さっていただろうな。でもようやく近頃慣れてきたと思うんだ。陛下も激しくなってきてるから相変わらず余裕はまったくないんだけどね。
今日もまた、僕は動けなくなっていた。褥の上でまだ陛下のものが僕に入ったまま、二人でぐったりしてるところ。汗と僕から漏れた謎の液体とかでびしょびしょ……
ああ、お洗濯係誰だっけ? ごめんね、僕が自分で洗濯したいけどたぶん起きられないやつだ、この感じ。
なんか今日は特別激しかった……
陛下がいつもより興奮してたというか情熱的というか、ちょっとしつこかった?
散々僕をいじり倒してなめ回したあと、バキバキになった陛下ご自身に何かぴっちりした袋のようなものを被せてたんだよね。何だろあれ。
「今日のために誂えた特別仕様の特注品だぞ!」
って、突然何だったんだろうなって、眠りに引きずり込まれつつある頭でそんなことを思っていると……
「んんんぁっ!」
陛下ご自身が僕からゆっくり出て行く刺激で目が覚める。ぞわぞわ駆け上ってくるこの刺激が、この頃すごく気持ち良くなっちゃって、自分でもびっくりしてる。
陛下が起き上がって、おもむろに陛下ご自身から謎の袋を取り外す。
「しょーちゃんありがとう! 最高だった! 最高品質確実だね!」
ほくそ笑んだようにおっしゃると、チリンチリンと鈴を鳴らす。
「!!!」
扉の開く音がして、衣擦れと靴音が近づく。
――誰か来る?!
熱に浮かされて忘れていた恥ずかしさが急によみがえってきて、慌ててだるい体を縮めて掛布をたぐり寄せる。陛下の影に隠れるように息を詰めていると、天蓋から陛下が顔を出したみたい。
「ありがとうございます! あ、こちらに入れて頂けます? 失礼しました~!!」
――リァンさまの声! 何で?
気負いのない明るい声。弾むような足音が別室に下がっていく。
――あの謎の袋? あれ持って行ったの?! 何で?
訳も分からず縮こまっていると、天蓋を閉じた陛下が、僕の掛布をはいでのしかかってくる。
「これで勤めは果たしたからな。しょーちゃんのお陰だ! あとは自由だよ!!」
満面の笑みと口づけが降りそそぐ。
なぜかこの後、さらに元気になった陛下に好き放題されて、途中から記憶が無い。目覚めれば日はすでに高く、目覚めても体中がきしんで、僕は身動きひとつできなかった。
それから一月ほど経て、陛下の口からリァンさまのご懐妊を知らされた。
成功するか分からなかったから、これまで僕にも伏せてあったんだって。
「陛下のお子様ですか?!」
と聞く人が聞けばかなりの問題発言をぶつけてしまう。
欠かさず毎晩僕と体をつなげていたから、いつの間に? という驚きと、仕方がないとはいえ僕以外と体を合わせたの? というモヤモヤとが口調をきつくしてしまう。
非難の色を嗅ぎ取った陛下が、慌てて僕を案内した。
「え! もしかしてしょーちゃん嫉妬してくれた? 嬉しいな~」
なんてニヤニヤ浮ついてる陛下にちょっとイラッとしながらついて行く。
そう言えばこの半年くらい、隣の空いた宮殿が改修工事だとかで騒がしかったんだよね。
後宮の空いた建物は中が改造されて、科学の粋を集めた最新鋭の病院とかいうものになっていた。ゆくゆくは我が国の医療の中心になるようにと、優秀な人材もすでに外国から招いてあるんだって。空いている宮殿はまだまだあって、そちらには医学が学べる学校や、薬や機械の開発をする研究所を作る予定らしい。
なんと、陛下の子種をリァンさまの腹に植え付けたのだという。外国の技術を使えばそんな夢のような事ができるんだって。だから、体を合わせていないのに本当に陛下とリァンさまのお子様が生まれてこられるんだそう。
留学中に医学を学んだリァンさまが、たくさんの資料を出して僕に鼻息荒く説明して下さったけど、やっぱり訳が分からない。
そんな顔をしてたんだろうね、さらに必死に言いつのられる。
「どうしても産んでみたかったの。安心して! 陛下からは子種だけ頂いて、お互い一切触ってないから! それでもなかなか首を縦に振ってくださらなくってね。しょーちゃんとの愛の結晶だと思えば良いって今回の方法をご提案したら、ようやく乗って下さったのよ。だからしょーちゃんのお陰なの! そうそう、お陰ついでだけどすっごい元気な子種だったわ~本当にありがとうね! 陛下と私の子供だけど、私とメイで育てるから安心してね!」
なんだか一部いたたまれない内容が含まれてた気がする。何を安心するのかはよくわからないけど、すべてはリァンさまの手のひらの上だったみたい。リァンさまもメイもとっても幸せそうだから、まあ良かったのかな……
正妃であるリァンさまのご懐妊は、安定期を迎えて発表された。国中が祝賀で盛り上がっているらしい。陛下はこれでしばらくは静かに暮らせるよ、とえびす顔だ。
陛下は、前帝の後宮が荒れるのを見て女性嫌いになったようなお方だ。子供を世継ぎという駒扱いをするのが嫌で、リァンさまとメイを後継をもうけるための機械のような扱いをするのも嫌で子供は要らないとおっしゃった。けれど、皇帝を辞められるのなら子供はいても良いと思ったんだって。不毛な争いに巻き込まれたり、むやみに命を狙われたりすることなく、すこやかに育つようにしてやりたいっておっしゃるんだ。
たぶんね、陛下はお子さまが生まれたらきっととてもかわいがると思うんだ。そうして、子供たちも誇れるような、不幸な人のいない国にしていこうとますます頑張っちゃうんじゃないかな。
そんな陛下を影ながらでも支えられるように僕もなりたい。
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