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「っ、うぅ……ん」  両腕で目を覆って、下肢に与えられる刺激に耐える。ローションを注ぎ足され、ぬるつく尻には、2本の指が根元まで入っていた。 「……もう1本、足しますね」 「う、ん。……っ」  怯えて固くなるたび、桂木は手を止め、俺をなだめた。存在を刻み込むように、目を合わせ、口づけ、肌を撫でる。  何度もそれを繰り返して、桂木の指を丸ごと1本飲み込む頃には、むしろ触れれば触れるだけ熱の上がる体が出来上がっていた。  芹沢の指がそこに入ったときは、忌まわしい嫌悪感とむずむずするような違和感しか覚えなかったのに、それが桂木の指だというだけでこんなにも体が示す反応が違う。 ごつごつとした関節、柔らかな指の腹。今まで何度も見てきた桂木の長い指が、そこに入っていると考えるだけで、炙られたように内壁が熱くなる。 それだけでも気持ちがいいのに、そのうえ指が腹の前側のとある場所を揉みこむと、途端に腰がひっきりなしに跳ねる。じっとしていられない程の快感が、桂木の指によって引き出される。 「……っふ、ア、ぅ……ッ」  今も、追加された三本目の指が、その場所をこすり上げながらぬるりと奥へ飲み込まれていく。押し広げられた淵から、ぐちゅっと粘った音が響いた。  ぬくぬくと指をなじませるように動かしながら、桂木が俺の震える腹に唇を落とす。下腹からへそ、みぞおちから胸へと、柔らかい感触が登ってくる。 「あっ、」  乳首の横にできた傷跡を舌がなぞった。何度も慰めるようになめられて傍らの粒が勝手に固くなる。つん、と立ち上がってしまったそれが桂木の唇に挟まれ、口内で強く吸い上げられると、ぞくん、と腰に甘い刺激が走った。  以前桂木に触れられた時もそうだったが、乳首なんてこれまで意識したこともなかったのに、桂木の手や舌に触れられると、身もだえしたくなるような、うずうずとした刺激が走る。  それが下半身に熱をもたらすことは、もはやごまかしようがない。反対側の乳首も同じようにあやされれば、桂木の指を銜えたままの尻があからさまにうねった。  快感が下腹部にわだかまり、耐えきれなくなって、滴るほど濡れた自分の性器をぎゅっと握る。  たったそれだけで、快楽がダイレクトに脳髄を貫き、頭の隅々までじわっ、と多幸感が染み入った。 「ん、……っ、ふ…………あ、」  くちゅくちゅと自分で自分を慰めていたら、その手を桂木に取り上げられる。なんで、と悲壮感の漂う声で抗議すれば、にべもない答えが返ってきた。 「いく前の、一番気持ちいい状態で挿れれば、痛みがあっても多少和らぐでしょう」 「……っ、それはそうかもだけど……」  ずっとこのまま、寸止め状態が続くのは辛すぎる。 「じゃあ、もう挿れて欲しい……」 「だめです。もう少し」  恥も捨てて頼めばすげなく断られた。それが桂木の優しさだとわかっていても、この状態で焦らされるのはあまりに酷だ。眉が情けなく八の字になっているのが自分でもわかる。 「吉野さん、手を。しがみついていていいですから」  桂木はそう言って俺の手を引く。顔がみっともないことになっていた俺はこれ幸いと、ベッドの上に座った桂木に抱き着いた。  桂木は俺の尻を膝の上に乗せると、再び狭間を指でくつろげていく。 (我慢……がまん、我慢……っ)  内側の指の動きに耐えていると、自分の性器がふらふら揺れて、不意打ちに桂木の腹に触れてしまう。どろどろのそれを桂木の腹に擦りつけたい、何も考えず腰を振りたい。だけど、しちゃいけない。  前も後ろも、ままならない。身動きが取れない体をひたすら弄られる。  実際はそれほどではないとしても、じわじわと弱い快感に炙られ続ける時間は恐ろしく長く感じた。 「…………吉野さん」 「……へ、ぁ」  茫洋とした頭が桂木の声にのろのろと反応する。ずずっ、と鼻水をすすりながら桂木の肩口から顔を上げた。腹から下はもう力が入らないほどぐずぐずになっている。  ちゅ、と恥ずかしい音を立てて孔から指が抜けていった。途端に指を追って、ちゅくん、と中が収縮する。無意識のうちに桂木を欲しがるような動きをするそこに、俺は顔を真っ赤にして動揺した。 「吉野さん、後ろ向いて、四つん這いになれますか?」 「……え? うしろ……?」 「その方が、楽に挿入るので」  俺の背を支えて促す桂木の腕を、とっさに掴んで止める。自分でも、また情けない顔になってしまっているのは分かっていた。 「顔、見ながらがいいです。く、苦しくていい……このままがいい」  桂木の顔が見えないのは不安だった。桂木が見えなくなった途端、余計なことを思い出しそうで恐ろしい。  自分に触っているのは間違いなく桂木なのだと、強く感じながら挿れられたい。 「……わかりました」  俺のかたくなな様子が通じたのか、桂木はそれ以上何も言わなかった。  桂木は俺の尻が自然と上を向くよう、腰の下に枕を差し入れて調整する。引き締まった腰をはさむように俺の両脚が抱え上げられたところで、俺は桂木の固く上を向いたペニスに気が付いた。  ……ちゃんと、反応してくれている。その事実にぞくぞくと、得も言われぬ充足感が背筋を這い上る。  たまたま用意があったのか、桂木はゴムも使い切りローションも準備済みだった。マナーとして持っていただけかもしれないし、使用する予定があったのかもわからない。いずれにしろ、それについて言及する余裕は俺にはない。  ゴムを装着した桂木のペニスが、ローションをまとって後ろのすぼまりにこすりつけられる。ぐっと息を呑んで視線を上げると、熱を帯びてうるんだ目に視線が吸い寄せられた。  汗で束になった前髪のせいで、目元が良く見える。形のいい瞼が伏せられて、大きく開いた俺の脚の間を見つめていた。  耐えきれず、期待で一度、きゅんと後ろが収縮した。はしたなく桂木の性器の先端を食んでしまい、あ、と小さく声が漏れる。 「あ…………ふ、ぁ、あ……!」  その刺激が呼び水になったのか、わずかにほころんだすぼまりに、桂木が切っ先をずず、と押し入れた。  ぬめった狭間を、固い先端が押し開いていく。体中が総毛だつような感覚だった。  挿入には鈍い痛みが伴った。だけどその痛みさえも、桂木が与えているものだと考えれば、胸の中に甘い陶酔が満ちる。 「……ふっ、……」 「……あー、……―――は、ぁ」  一番太い部分を飲み込んでしまえば、あとは案外楽だった。性器の大半を埋め込んだ桂木が、熱のこもった吐息を吐いて腰を止める。  俺は体内に感じる異物感に耐えながらも、心まで満たすような充溢感に酔いしれていた。 「……入りました」 「……うん」 「動きませんから、大丈夫です。このまましばらく……」  桂木もじっとしているのは辛いだろうに、そういって俺の二の腕や肩をいたわるようにさする。  俺はたまらなくなって、胸元に寄せられた桂木の真っ黒なくせ毛をそろそろと撫でた。汗で湿った髪をすいてやると、桂木は心地よさそうに目を閉じて、そのまま俺の胸にひたと頬を寄せる。  前もこんな風に、桂木が俺の胸に耳をあて、鼓動を聞いていたことがあったなと思う。 「……心臓の音、今すごいんじゃないですか」 「とても、早いです」  脈打つたびにほんの少し俺の胸が持ち上がり、桂木の耳を押し返すほど激しく脈打っている。とても聞きやすいに違いない。なんだかおかしくて、自然と顔がほころんだ。 「あなたの脈の音は……とても落ち着く。体温も、肌の感触も……」  桂木が頬ずりするように、わずかに身じろぐ。ぽそぽそとした声が、吐息と共に肌をくすぐった。 「ここに居ていいんだと、受け入れられている気分になる」 「……まぁ、受け入れてますね」  今まさに物理的に、と思ったけれど口には出さなかった。桂木の安らいだ表情を見ていると、茶化すのは無粋な気がした。  桂木の体温に感じ入っていると、ゆっくり脈が落ち着いてくるのが分かる。  自分の鼓動が静かになってくると、今度はすぐそばにいる桂木の鼓動が感じられるようになった。密着している腹と胸から、そしてつながった体の内側から、とくとくと振動が伝わってくる。  はあ、とため息をつく。予想以上に熱っぽく、湿り気を帯びた吐息だった。 (―――入って、るんだ)  そう意識すると、ざわり、と受け入れるそこが落ち着かなくなった。無意識に、内壁が中のものを絞めるように動く。その感触に俺と桂木が同時に息を呑んだ。 「…………吉野、さん」  桂木が顔を上げ、俺と目を合わせる。そのまま、こちらの様子を窺うようにゆったりと腰をゆすりはじめた。  合わさったおうとつは、突っ張ることなく滑らかに動いた。擦れるときの痛みはなく、肉壁は柔軟に桂木の動きを受け入れる。 「は……はっ、……」 「今日は、激しく動かしたりしませんから。心配しないで。ゆっくり息を吐いて…………そうです」  あくまで桂木は俺の体を気遣うつもりのようだった。孔を傷つけないようにと、出し入れはせず、入れたままでゆらゆらと体を揺さぶられる。指示された通り息を吐くと、上手、とばかりに桂木の手が俺の後頭部から首までを撫でおろした。  心地よいリズムと優しい声音で緊張がほぐれてくると、今度は腹の奥がむずむずとしてくる。  じくじくうずく内側が、ぎゅっとなかの肉塊を締め付けるたびに、言葉にできない快感が背骨を走る。ため息をつきたくなるような、安堵と快感を足して二で割ったような。性器をこすって得られる快感とは質の異なる悦さだった。 (すご、い。ふわふわ、する)  受け身のセックスというのは、もっと苦しくて、いろんなことを我慢して受け入れなければいけないものだと思っていた。  なのに、桂木がこれでもかというほど俺を気遣ってくれるから、俺に優しくしてくれるから、たまらなく胸が絞られて、痛いのも苦しいのも、とろける甘さに添えられたスパイス程度にしか思えなくなる。  そのうえ、固く張りつめた肉塊を銜える内壁を通じて、桂木も俺の体で悦くなっているのが伝わってくるから、かろうじて残った理性までドロドロに溶けてしまう。  もっと気持ちよくなってほしい。俺に与えるばかりでなく、彼も俺で満たされて欲しい。 (わかってんのか? 俺だって、あんたが望むなら、なんでもあげたいんだよ)  気持ちの高ぶりが、内側の動きと直結する。愛したい、悦ばせたいという思いが高ぶって、きゅうきゅうとなかを締め付けると、桂木が上ずった吐息をこぼした。  だけど、俺が桂木を意識して悦ばせることができたのは、ほんのわずかな時間だけだった。  小刻みに中をこねる亀頭が一点をこすると、びりっとした気持ちよさが全身を貫いて、体ががくん、と痙攣した。 「ッあ!」  桂木の指が執拗に揉みこんだ、腹の前側にある一帯だった。そこを一度こすられただけで、もともと絶頂寸前まで追い込まれていた体は簡単に限界を迎えた。  俺は息を呑んで、桂木の首にしがみつく。 「かつらぎさっ、もう無理、……すぐいく、む、むり」 「ん……」  さすがに、内側だけの刺激では射精まで至らない。とろとろと溶かされるだけ溶かされて、解放できない辛さを目で訴えると、桂木は何も言わずとも俺の下腹部に手を伸ばし、腫れたそれを握りこんだ。 「ひっ、」  それだけで全身が粟立つほどの快感を覚えた。ちゅくちゅくと濡れきった音を立てて性器がしごかれる。我慢なんてできるはずもなかった。 「ぅあ、あ、だめそれっ、……っい、ぃく……」  ひくひくと後ろを締め付け、中で桂木を感じながら、性器のくびれをぐりッと刺激される。強烈な刺激にのけぞって、後頭部をシーツにこすりつけながら、びゅう、と精液を噴き上げた。 「は、っ、~~~ッ……!」  桂木の性器を、自分の柔らかな場所で食い締めながら達するのは、頭が馬鹿になってしまうほど気持ちが良かった。 「……っ、……」 「っ……ぁ、か、つらぎさ、……」  痙攣する内部の動きに、桂木の怒張が固さを増す。とっさに動きを我慢しようとする桂木の腰に、無意識のうちに脚を絡めていた。  震える内ももで桂木の体をはさむと、耳元で唸るような声が聞こえて、「すみません」と謝罪が一言落ちてきた。すぐに、桂木の腰がゆすゆすと緩い律動を再開する。射精直後の粘膜を刺激され、ひりつくような痛みと共に、許容値を超えた暴力的な快感が襲った。  抱き込んだ桂木の頭が、何を思ったのか俺の鎖骨にやんわり噛みつく。固い歯の感触にびくっと震え、強く締め付けた俺の体内で、桂木の性器が熱くはねた。彼の肩がぶるり、と震える。 「ふ、……っ!」 「は……は……―――」  ゴムの被膜越しではあるけれど、桂木の絶頂を痙攣する内壁で受け止める。しばらくはお互いに、荒れた息を吐くことしかできなかった。  ようやく乱れた息が落ち着くころ、桂木が萎えたそれをゆっくりと抜く。こんな時でも俺の体を気づかって、ぐしゃぐしゃになったゴムを処理するよりも早く「今、拭きますから」とベッドの傍らに置いたタオルへ手を伸ばした。  桂木が離れていった肌が異様にさみしくなって、俺は桂木の腕をつかんで引き留めた。 「どうしました? どこか痛いところでも……」  桂木の言葉を聞かず、俺は上半身を起こして桂木の肩に、とん、と額を押し付ける。 「……落ち着くまで、もう少し。くっついていたい、です」 「…………はい」  桂木の言っていることが少しだけわかった気がする。  桂木は、俺の体温が落ち着く、受け入れられているようだと言うが、それは俺も同じだ。桂木の体温。死にかけた俺を連れ戻した熱い手の温度。生の世界のぬくもり。この熱さがいつも俺を救う。  俺の甘ったれた要望を律儀にかなえようと、桂木の手が俺の背中を抱き寄せる。俺もそれに応えて、桂木の背中に腕を絡ませた。  俺の体温も、桂木の救いにほんの少しでもなっていればいいなと思った。

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