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「……っ、だから行かねぇって言ってんだろが。しつけえオンナだなぁ」
あれから、バイトがあるとあの後すぐに足早に帰っていった遼太郎と別れ。
いつも俺の周りをうろちょろしてる姦しい三人娘こと、奈々(なな)、麻美(あさみ)、亜里沙(ありさ)とも、今は何となくイラついてかまっていられなかったため。
俺は一人、一応今の俺の彼女である東子(とうこ)からのしつこすぎる「お誘いライン」を遠ざけるかのように、
「……あ? ああ、ここサッカー部の部室がある所か…」
気づけばウチの高校のサッカー部の部室があるグラウンド脇へと、何故か足を運んでいたのであった。
ピコンっ♪
「! チッ…マジしつけえなこのオンナ」
見なくてもわかる、スマホからの通知音は……どうせ東子からの何度目かのセックス催促ラインだろう。
俺はこちらも何度目かわからない舌打ちを打ちながら、ピッとスマホの電源自体を切り自らの通学バッグに無造作に放り投げた。
……はぁ、このオンナともそろそろ別れ時かもな。
まぁ、そもそも相手から告白されて何となく付き合い始めただけで、俺から誰かに告白したことなんて生まれてこの方一度もないし、相手のオンナを好きになったことだって一度もないんだけどな。
――それは、セックスをした後でも同じことで。
「ハッ……最低すぎんな、俺…」
ほんと、こんな何の夢も希望も持ってない無気力な俺なんかのどこがいいんだか。
……まぁ、二百パーの確立で俺の顔に惚れたんだろうけど。
こんな最低な自分をそれなりに自覚してるからこそ、何だかんだと気に入っている方である二年にあがってから知り合ったあの三人娘とは、何度告白的なモノをされようとも決して恋人にはなっていない……なんて、バカみてえな縛りを作ったりなんかもしてるんだから。
「…余計に笑えるっつーの、はは…ほんと、何してんだか…俺は」
そうして。
雲ひとつない、まるで自分の心とは正反対なようなまぶしい青空をしばらくボーっと、何をするでもなく唯々見つめていた俺の前に
「せんぱ~いっ! これっこれも一緒に持っていってほしいんスけどぉ~」
「えっ、ああっうん! オッケーわかったよ!」
「! ……アイツ、確か同じクラスの…」
――アイツは。藤枝いつぐは、現れたんだ。
……何だっけか。確か、ふじ…ふじの…?
「あっ藤枝先輩っ。これもついでによろしくっス!」
ドサッ
「おもっ!? …よっと。わかった、これもグラウンドに運んどくな!」
! ああそうだ、藤枝…そんな名前の地味目なヤツがいたかもな。
それにしても……何だ、アレ。
何でアイツ、恐らく後輩だろうヤツに荷物色々押し付けられて、あんな、
「おいっおっまえ、なに藤枝先輩に自分の持ってくはずの荷物まで押し付けてんだよ!?」
「え~? いいじゃん別にっ。おれレギュラーであの人補欠なんだからさっ、少しくらい扱き使ったってダイジョーブっしょ!」
「おっまっえ~!!?」
……うげぇ、引くわ。
俺が言うのもなんだけど、なんっつークソ生意気な一年だよ。
レギュラーで自分の方がサッカー上手いからって、補欠? の藤枝に雑用係やらせるとか……体育会系って、上下関係厳しいって嘘だったのかよ。ゆるゆるじゃんか。
何よりも、
「お~い藤枝~大丈夫かぁ?」
「あっ、うん大丈夫~! さきグラウンド行ってて~ははっ」
何であの男は、あんな何でもないようなヘラヘラ顔で、気にせずクソ生意気な後輩の分の荷物まで運んでいるのだろうか。
……アイツ、マゾかなんかなのか。
なんて、思わずそんな変なことも考えちまったが……でも。
「……何だ? なんでアイツの周り、妙にキラキラしてんだろ……なんで、あんな、」
押し付けられた荷物のことなんて苦でも何でもないような眩しい笑顔で、姿でグラウンドの方へ一生懸命走っていったアイツの……藤枝の横顔に
――何故だか、俺は。
「っ……」
とても眩しい太陽に充てられたかのような、そんな錯覚に陥り。
しばらくその場から、足を動かすことが出来ないでいたのだった。
何かが、胸の奥ではじけたようなきがした。
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