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「いっつん、いっつん! 今週の『少年モンチー』持ってきましたよ~!」 「えっもっちーほんとっ? やった~先週から続きずっと気になってたんだよ! ありがと~」 「! っ……」    ――あの放課後の一件以来。  何故か俺は、アイツの……『藤枝いつぐ』の姿を、気づけば自然と目で追うようになっていた。    藤枝いつぐ。出席番号二十五番。身長は百七十二の俺より少し高いくらいに見えるから、たぶん百七十四か五らへん。体系は特にガッシリしているわけでもない中肉中背。  クラスにダチはあまりいないらしく。しょっちゅうもっちー? だかなんだかってヤツとつるんでいる。まぁ、別のクラスのサッカー部のヤツらとはよく廊下とかで話してるみたいだけどよ。 「でねっでね! 昨日の『異世界トラック野郎』の最新話がっ」 「あっイセトラのアニメ昨日だったっけ!? うわ~…オレ部活で疲れて寝落ちしちゃってたよぉ」 「ええっそうなんですかっ…いやでも、サッカー部の練習は大変ですからねぇ。『イナズマプリンス!!』でも、キツい練習描写満載ですし、いっつんもお疲れ様ですよ」 「あははっ、って言ってもオレ補欠なんだけどさっ」  ……今まで気づきもしなかったのに、『藤枝いつぐ』という存在をきちんと認識した途端。  アイツの高くも低くもない…どこにでもいそうなその穏やかな声が、ひどく耳に残るようになった。  ――同時に。 「っ……」  トクン、トクン、  ……何だコレ。  なんでアイツの姿を視界に入れ、声を拾うたんびに……俺の心臓がうるさくなっていくんだ? 「……」 「――って、お~いっ疾風って!!」 「っ!!? なっ、あっ!? …って、りょ、遼太郎かよ…ビックリさせんなっ」 「ええっ? 悪い悪いっ驚かせちゃったか? つっても、何度も名前呼んだんだけどなぁ」 「っ、いや……悪い…」 「まぁいっか。それより、さっきから誰見てたんだ? ん~…あっ、もしかして望月たちの事見てたのかっ?」 「!!?」  はっハアっ!!? いきなりコイツ何言ってっ…!? 「ちっちがっ…!? 俺は別に藤枝のことなんて見てなっ…」 「あいつ、いっつも教室の隅でアニメとか漫画の話にこにこ楽しそうにしてるから、自然と目につくよな~」 「……あ?」  ……ん? もしかして、遼太郎が今話題に出してるのは…望月…もっちーってヤツのことなのか? 「……オマエって、あの望月ってヤツと仲良かったのか?」 「ん? ああ、いや仲が良いっていうか……まぁ、」  ……何だ?   俺が知らないところで……実は前からアイツらと接点でもあったのか、遼太郎は。  でも、そうだとしたら。  遼太郎を通して俺も、アイツと……藤枝いつぐと何か喋れたりするのだろうか。 「――っ、」  トクン、トクン、トクン、 「疾風? お~い疾風、大丈夫か~?」  ……本当、一体何なんだコレは。  俺の心臓、どっかバグっちまったのかと思えるくらい……その後もしばらくは、静まることはなく。 「ははっもっちーそれはないってっ…」  アイツの控えめな笑い声がまた、胸のあたりを抑え続ける俺の耳にひどく優しく響いていた。

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