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それからの俺は、以前よりも益々アイツの行動を無意識に――いや、意識的に視界に捉えるようになり。
特段変化のない、いうなれば地味めなアイツの普段の行動を目で追っていくうちに
――何故か俺の方に、別の新たな感情が芽生え始めてきていた。
「ふぃ~今日はなんだかあっついなぁ…ね、もっちー」
「本当ですね~…あ~下敷きの風ぬるい~」
「ははっぬるいな~」
どきりっ、
……ぐっ、なっ何で俺は……アイツの汗を掻いてる姿に、変な気持ちになってんだよ……っ。
「…身体、あちぃ…」
「んっどうした疾風? 顔すっごい真っ赤だぞっ」
「っ!!? うっうるせえっただの風邪だ気にすんな…!!」
「いやそれっ気にしないとダメなやつだろうっ!?」
ドッドッドッ……早鐘のような心臓の音と共に、ドクドク…と、腹の底から血が巡ってきてるようなこの感覚。
ここ最近、アイツのちょっとした身体を触る仕草や、口元の動き。
特に、サッカー部の練習をしている時のその姿に……まるでそう、欲情してるかのような…そんなムラっとした気持ちになることが多くなってきていたのである。
ど、どうなってんだよコレは。
何だ? 何で俺、藤枝いつぐに対してこんな気持ちになっちゃってるんだよ。
……よっぽど溜まってんのか、俺。
オンナに飢えてる童貞だって、
まかり間違ってもクラスメイトの同性のオトコ相手にこんな反応示さないだろうってのに。
今まで付き合ってきたオンナたちとの関係からいっても、自分はどちらかというと性欲は薄い方だと思ってたのに。
このムラムラした気持ちは、一体どこから流れてきたんだよっ。
そう、一人葛藤している俺のもとに。
ピコンっ♪
――っ。
ラインの通知音。
それは、もう久しく連絡をまともに取り合っていなかった彼女からの……東子からのものであった。
「……チッ、」
このぐるぐると渦巻く訳のわからない感情を吐き出したい気分もあった俺は、その夜、東子と会う約束を幾日かぶりに取り付けた。
――けれども。
「っ……」
「あんっ♡ あっ疾風ぇ……はやくっ早くおまんこめちゃくちゃにしてぇ…♡♡ あん、っ……はやて…?」
「……」
「なに、ねっどうしたのよっ…はやく疾風のコレで私のことめいっぱい、って……え、」
「……っ」
「…ね、ねぇ……何で、疾風のココ…全然固くなってないのよ…?」
……東子からの熱烈なキスにも、いつも自慢げに見せつけていたその豊満な肢体にも……何もかもにも。
俺のモノは、一切の反応を見せなかったのである。
っ……なんで、どうして、俺。
呆然と、東子を押し倒す形のまま身体が固まる。
思考が追い付かず一言も発しない俺に、最初は俺の心の中と同じく「何で、どうしてっ…」と戸惑っていた東子だったが、
しかし、徐々に目に涙を浮かび上がらせながら段々と顔に熱を持ち始め出し。
「ねえっちょっとこれはどういうことなの!? 何っ…これって私に魅力がないって、そう言いたいからなのっ!? ねえっ疾風ってばあっ……!!!」
口から漏れ出る言葉の数々に不満と抗議の色がどんどん混じり始め。
そして――
「っ、ふっざけんなっ!! このくそインポ不能野郎がぁっ!!!」
バチィィンっ!!
動けない状態でいた俺に向かい、今までに凡そ聞いたこともないような声色で罵倒を浴びせると共に、強烈な平手をお見舞いしてきたのだった。
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