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「変わったって……俺がか?」 「そう、疾風が。だってまずあれから彼女作ってないだろ?」 「……それは、東子と別れたのつい最近じゃねえか」 「でも今までは彼女と別れても、すぐに告白されればよほどのことがない限り付き合ってたじゃんか。なのにこの前の放課後、いつもの屋上行く途中の階段でのあれ、女子からの告白断ってただろ?」 「……チッ、見てたのかよ」 「たまたまだよ、お前呼びに行こうとして。で、おれの見間違いでなければ、告白断ってたろ」 「そう、だけどよ」 「ほんとおれビックリしちゃったぞ。それに、」 「まだあんのかよっ…」 「ああ、それに恋人関係以外にも疾風自体が、色々変わったよな……ふとした時にな、すごく優しく笑うようになった」 「――…俺、が…?」 「まぁ挙動不審? ってか、変な動きも一緒にするようになった機会も増えた気がするけど……とにかく、こう全体的に雰囲気が柔らかくなったと思うんだ、疾風のさ」 「っ、」  嘘だろ、俺いつからそんな風に……というか。 「そんなに俺、わかりやすいほど変わってたのか…?」 「ん~いや、疾風ってもともとあんまり表情出さない奴だし、たぶん気づいてるのはおれと……あさみんかな?」 「? オマエと、何で麻美限定なんだ?」 「おれは何だかんだ中学からの友達でずっと疾風の傍にいたし、あさみんは……まぁ、一番疾風愛が強いからかな? とにかく、おれから見たらやっぱり疾風は変わったと思うぞ、もちろん良い意味でさ。あっ、あとおれがここに来た理由は『青春しにきた』が一番の正解かなっ! そういうことだからほらっ疾風も隠れてないで一緒にサッカー精一杯応援しようぜ、ビバっ青春青春だっ!」 「っ青春、って」  ここに青春しにきたって何だよ…とか、オマエはまだしも麻美が気づいてるっていうその理由はどういうことだよ…とか、何だか色々聞き返したいことのオンパレードであった台詞を放つだけ放って、また応援を再開しだした遼太郎の横顔を見ながらも、俺は自身の胸のところをそっと抑えた。  ……俺が変わった? 雰囲気が柔らかくなり、優しく笑うようになった?  そんな、今まで自分では気づきもしなかった俺の変化を指摘され、「っ」ドクンとひとつ、抑えた胸が音をたてる。  何が何だかよくわかんねえけど、でももしそれが本当なのだとしたら、それはきっと、 「……なんだろうな」 「ん、なんか言ったか疾風?」 「いや、何でもねぇよ」 「そうか? って、おおっゴール!! 今ウチがゴールしたぞっやったな!!」 「ああ、そうだな」  ピピーっというホイッスルの音が、グラウンド全体に響き渡る。  ゴールを見事決めた選手にチームメイトがわらわらと集まる中、コケた時に付けた泥を頬に残したままの、いつぐの嬉しそうに喜びはしゃぐ姿もそこにはあった。  俺がこんなにも変われたのだとしたら、  それはあいつに、いつぐに恋をしたから――  結局、木陰から身体を動かすことは出来なかった俺だけど、それでも、試合が終了するまでの間ずっと、俺はいつぐの一生懸命頑張る姿をしっかりとこの目に焼き付けていた。  いつぐに恋をしたおかげで、自分が遼太郎が言うところの良い意味で変われたと気づいた反面、しかしそれからも俺は、アイツにきちんと声をかけることが出来ず仕舞いであり。  過ぎていく日々に悶々とした気持ちを抱え、ただ見るだけで会話一つも起こせない自身を 「……これじゃ俺、まるでストーカーじゃねぇか……はは」  なんて、自虐気味に笑っていた  ――数日後。 「……っ、はぁ、はぁ……お、俺…マジでストーカーかよっ……何しちまったんだよ、ほんとっ……」  ガタタンっバタンっと、帰ってくるなり勢いよく部屋のドアを開け閉めし、ずるずるとドアに背を預けながら、その場に俺はゆっくりと沈み込んだ。  はぁはぁと息を乱し汗を大量に流しているのは、ただ急いで学校から帰ってきたからだけではない。  そう、俺はいつぐに対し、  ストーカーととられても言い訳のできないコトをしてしまったのだ――…

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