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「ねっねっハヤテぇ♡ 次の日曜はアタシとカラオケいこーよぉ♡」 「ちょっと麻美っ何抜け駆けしてるのよっ!? あなた先週も疾風を独り占めしてたじゃないっ」 「ハァっ!? 先週行ったのアタシじゃないしっ! それっ亜里沙のことじゃん!」 「そうっありさだよぉ奈々ちゃん♡ うふふ~先週のショッピング楽しかったね~はやてくん♡」 「あーもうっギャアギャア耳元でやかましいっつの」 「ははっ! さっすが疾風っ、相変わらずモテまくりだな~!」 「……知らねーし」  ――昼休み。  普段と変わらずの三人娘と遼太郎に囲まれながら昼食を取りつつも、俺の意識は、教室の隅で望月と購買のパンをほうばっているいつぐへといつも通りに向かっていた。  ……ああ、パンを口に運ぶいつぐを見ているだけで、身体がぼうっと熱くなってくる。 「……ねぇ、ねぇハヤテ…ハヤテってば!」 「!? っ、麻美か…何だよ」 「…ううん。ねぇ次の日曜日は、アタシに付き合ってくれるよね?」 「……さぁな、んな先のことなんかわかんねぇよ」 「っ……じゃあ、今日はっ? 今日からテスト期間前の時間短縮でいつもより早く学校終わるし、放課後二人でカラオケ行こうよ! ねっいいでしょハヤテっ!」 「! ……いや、今日は、」 「――…くん、矢代くんっ、矢代くんてばいい加減起きなさい!!」 「っ!! ……あ? …なんだ、センセイかよ…ふぁ」 「先生かよ、じゃないわよ。もうっ頭痛いから横にならせてって言ってきた割には、どれだけ熟睡しちゃってんのよ!? 頭痛かったらこんな時間まで熟睡できるわけないでしょうが、まったく!」 「頭痛いっつーか、頭グラグラしっぱなしだったのは本当だけどな。つか、今何時だセンセイ」 「敬語でしゃべりなさい敬語で、ったくもう……今? 今はもう十八時、午後の六時十分よ」 「…六時十分…俺、ここに来たのいつぐらいだっけか」 「五限終わりの休み時間よ。せっかくテスト期間に向けての短縮授業だっていうのに、何こんな時間まで学校の保健室のベッドでぐーすかぴーしてるんだか。余程テストには自信があるみたいね?」 「まぁ赤点は取らねえだろ」 「赤点は取らないようするのが普通なんですぅ!! ほらっ先生も暇じゃないんだからもう帰った帰った。お家でみっちりテスト勉強なさいっこの不良男子がっ!」 「不良じゃねぇよっ……ったく」  昼休みに麻美からカラオケに誘われたものの、俺は相も変わらず寝不足やいつぐのことでモヤモヤっしっぱなしだっためそれを断り、五限目が終わると共にたまに顔を出している保健室へと行き、ベッドで放課後まで休憩を取ることにしたのだった。  昼休みの時の麻美の態度が妙に焦ったようにも見えたし、反対にここのところの遼太郎が以前にも増してなんかご機嫌だな、など色々思いつつ、目覚めて一番深く考えるのは……やはりいつぐの存在であり。  放課後、教師と俺以外もう誰も残ってないんじゃないかってほどに静まり帰った校舎を、アイツを思い浮かべながら歩き続けていると―― 「!! ……っ、ほんと俺って、どうしようもねぇな……」  気づけば俺の足はアイツの……いつぐが所属するサッカー部の部室があるグラウンド脇へと、運ばれていたのであった。 「……はは、アイツのことを考えてたからってココに来ちまうとか……重症にも程があるだろ、俺」  ほんとストーカーだな……なんて、頭をぐしゃっと掻き。  俺はくるりと回り、再び無意識に来てしまった道をUターンしようと思った  その時。    ――カシャン、 「! ……え、今、何か…」  踵を返すと同時、後ろから何かが下に落ちるような音が聞こえ、俺は足をピタリと止め振り向く。  何の音だ、気のせいか…と、辺りを見回すと、 「……もしかして、あそこか…?」  誰もいないであろうはずのサッカー部の部室の窓が少し開けられていることに気づき、俺は窓の方へと足を進めた。 「! やっぱりな……んで、これが落ちたのか」  覗き込んでみると、窓の隙間の向こう、部室の中の床に……何と言ったか、テーピング? よくわからないが、確かそんな名前のモノらしきまだ封を開けていない品が無造作に転がっていたのだった。  それにしたって、 「何で、ここの窓開けっぱなしになってんだよ…」  今日はどの部活もテスト期間だかで全面中止だったはず。  当たり前だが、いつぐだってもうとっくの昔に家へと帰ったことだろう。  こういう時って、部室の鍵とかも一応きちんと閉めとくもんじゃねぇのか……でも、めちゃくちゃ普通に開いたまんまって。 「っ――…まさ、か、」  そこまで考えて、ふいに俺の頭の中に、ある一つのコトが浮かび上がる。  まさか、まさか……だよな。  開いている窓よりも奥、そこで存在を主張するのはサッカー部部室の扉で。  ゴクリ。唾を一飲みし、俺はゆっくりとその扉へと足を進める。 「っ、」  夕暮れで色を濃くした俺の影が扉に形を映し出すと共に、俺はノブを回し、そして――  ガチャリ、 「!? ……嘘、だろ……おい」  いとも簡単に、その扉は開けられてしまったのである。  また、あの時のように……いや、今までで一番激しい警告音が頭の中を駆け巡るが、それでもそんな音など聞こえないかのように、俺は開いた扉をパタンと閉め、ふらつきながらも奥へと歩き出す。  辿り着いた先、目的場所は、 「……『藤枝』…ここが、いつぐの…ロッカー……っ」  ダメだ、ヤメロ、これ以上は絶対に越えるな。本当に取り返しがつかなくなる。  教室で手に取ったワイシャツよりも危険なモノが、ココには存在しているかもしれない。  そんなのに触れたら、俺はもう、 「っ……!! あ、った……いつぐの、サッカー部のジャージ……」  もう―― 「っっっ♡♡ んあっ、いつぐっ、いつぐのジャージ♡ ふっ、ああっ…♡♡♡」  性なんて、残せるわけがなかった。

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