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……いや、そりゃなるでしょ……こんな話を聞いてしまったら。
だって、何でもないことのように日々を生活してきた中のちょっとした出来事――オレにとっては当たり前のコトがきっかけで、疾風くんはオレに『恋』をしてくれたのだ。
全然気がつかなかった……それからずっとオレを見ていただなんて。
っ、やばい、顔がすっごい熱い。
しかも、オレが奇跡的に一度だけ出れたあの練習試合にまで来てたとか、そんな。
大きい声でいっぱい応援してくれてたもっちーにしか気がつかなかったけど、そういえばあの試合の後、東堂くんが何故か来てたってもっちーが言ってたな。
姿は見えなかったけど、
「オレのこと、応援してくれてたの…?」
「……心の中でだけど、な」
「そうだったんだ……でも、ちょっと恥ずかしいな」
「恥ずかしい?」
「だって、オレ全然ダメだったでしょ? あの時の試合はもちろんのこと、普段のサッカー部の練習でもしょっちゅう転んだりパスミスしたり、ボールがせっかく来ても空振りしたり……ほんと、何してもへたくそでさ。ははっまいったまいった…」
「――…ダメなんかじゃない」
「え……」
嬉しさがこみあげると共に、ありえないほどダメダメな自分の部活での振る舞いを疾風くんに見られたかと思うと、何だかすごく恥ずかしくもなってしまい、オレは苦笑いを浮かべる。
けれど疾風くんは、オレに真剣な眼差しを向け――
「オマエがサッカーが下手なのは、確かだけど」
「確かなんだ…!? いやそうだけどもっ…」
「でも……さっきも言ったろ、キラキラ眩しいって。いつぐはな、いつだって一生懸命にボールを追っててよ。試合とか練習だけじゃなく、部の雑用とかも嫌な顔せずにいつもやってて…それに応援も、部員の誰よりもでけぇ声でしててさ……そういうところ全部含めて、すごい、かっこいいって…俺はずっと思ってたんだよ」
「っ、」
そう、優しい声で、言ってくれたんだ。
……なんだよ、それ。そんな、そんなの、
「…? いつぐ、どうし……っ!!?」
「どうしようっ、オレ今すっごくすっごく嬉しい気持ちでいっぱいだ…!! ぽかぽかした気持ちと、ドキドキした気持ちがオレの中で交じり合って幸せであふれそうになってるよっ……」
「っ、いつぐ……んんっ」
「ん、はぁ……あふれすぎて、キス、したくなっちゃいました」
「……ばぁか」
「うん、でも…オレのこと、いつも見ててくれてありがとう疾風くん」
「! …俺だって、今めちゃくちゃ幸せで身体中あふれかえってるっつーの……俺も、俺のこと受け入れてくれてありがとな、いつぐ」
「っ……ね、疾風くん。もう一回、キスしてもいいかな?」
「……キス、だけか…?」
「!! ……ううん、キスだけじゃ嫌だ。もっと疾風くんに触りたい、キス以上のコトもしたい……して、いいかな?」
「…一緒に気持ちよくなってみませんかって言ったのはオマエだろ、それに……」
「え……っ、」
サッカーをしてる時とも、親友のもっちーといる時とも、好きなアニメを見たり美味しいもの食べている時とも違う、今まで感じたことのない気持ちがオレの中で一気に膨らんで、あふれていく。
疾風くんに、もっとキスがしたい。キスだけじゃない、もっともっと、疾風くんと触れ合いたい。
キミと、ひとつになりたい。
そんなオレに――オレの手を、疾風くんはそっと取って。
「俺…オマエのこの意外とごつごつしてて、しっかりした手が好きだ。このいつぐの手で、ずっと色んなトコロ触れてほしいって思ってきた……っだから、早く俺のことめちゃくちゃにして、いつぐっ……」
自分の頬に優しく押しあてながら、とろんとした瞳でオレを見つめ、最上級の誘い文句でもって、オレの理性の糸をプツリと簡単に切ってしまったのだった。
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