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第4話

 そうして歩希が連れ去られたのは、言葉の通りバックルームだった。いやバックルームなのだが、二畳程度の広さであり、まるで個室だ。  簡素なカーペットの敷かれた床に座らされ、室内をぐるりと見回す。 「あの、ここは」 「あ、個人のバックルームですよ。このビアガーデン、プライバシー保護のしっかりした働き場として、こういうふうに一人ずつバックルームが貰えるんです」  そういうものなのか。色々福利厚生の行き届いた職場なのだなと、歩希が感心した瞬間――ビアボーイはシャツに手をかけ、ゆっくりとボタンを外す。 「でも、その……こういう使い方するスタッフもいるって」  一つ、二つ、三つ……ボタンを外していくと、ビールのしみた肌をぺろっと舐める。 「ん、ビールの匂いだ……それから、お客さんの汗のにおいも混ざってますね」 「うわ、ちょ、ちょっと……」  露わな肩を掴み、ぐいと押し返そうとしたと同時に、隣の部屋から人の気配を感じた。   それはやはりバックルームなのだろうか。薄く……喘ぎ声が聞こえる。    ああ、先輩が消えていった先は、この個室(バックルーム)なのだろうか。そんなことを考えているうちに、シャツはどんどんと開けさせられていく。 「オレ、ああいうお客さんがうまくあしらえなくて、困ってたんです」 「いや……嫌がってたから、助けたのは当然で……」 「だから、よければお礼させてください」  ボタンを開ききると、胸から腹部にかけてビールの流れた滴跡を舌が這っていく。ぬらぬらと光る舌はいやらしくもそういう生き物のようにうねり、歩希の肌を蹂躙する。  まだ誰とも肌を重ねたことのない歩希にとって、なんとも強烈な刺激だった。 「あの、ズボンの中にも流れてそうなので、ベルト外しますね」 「え?」  あっさりベルトを外される。現れたボクサーブリーフのウエストゴムにまで、ビールは伝っていた。  そんなゴム部分まで丁寧に舐めて、ビアボーイは顔を上げる。 「ここも濡れちゃってますね」  それはビールのせいではない。いやビールを運ぶビアボーイである彼のせいであるから、結局はビールのせいなのかもしれないが。  勃ち上がりはじめた先端が先走りを漏らして、グレーの下着をすっかり色濃く染めてしまっているのだ。  躊躇うことなく、ちゅうと吸われると先走りと唾液がまざって、更に淫らな染みが浮かんでいく。 「ん、……あれ、前開きじゃないタイプなんだ」  ビアボーイはボクサーブリーフの前側を確かめると、彫刻のように浮かぶ肉茎を撫でながら微笑んだ。 「脱がしていいですか?」 「……そ、その、俺……初めてなんだけど、」  さっそくウエストゴムに手をかけられたので、歩希はあわく抵抗する。  けれどやはりビアボーイは柔らかく笑って言った。 「大丈夫、オレもお客さんにするの初めてだから」  なにが大丈夫なのか。しかしその雰囲気がいじらしく感じられて、更に性欲は硬くなっていく。 「お兄さん……名前なんていうの?」 「名前、呼んでくれるんですか?」 「うん……俺は歩希」 「睦生《むつき》です。睦月生まれで、睦生」  睦生さん。  ……小さく呼ぶと、睦生はとろけるような笑顔を浮かべた。

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