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* * *  里津の助言を元にしばらく考えた湊だったが、結局、鴻を探すことにした。  夏々城鴻という人物は所謂、不良という生き物で。なんと一年のリーダー的な存在でもあるのだ。そんな彼をたった三十分の休み時間に探すのは至難の技、でもない。鴻は独自の方法で、教師から容認されつつある専用部屋を確保しているからだ。ちなみに専用部屋というのは不良達の溜まり場で、四人の関係には繋がらない。  やがて、廊下に人気がなくなるにしたがって、徐々にがやがやと騒々しささえ感じる楽しそうな声が前方から聞こえてきた。  旧地学講堂室、現在は使われていない空き部屋の一つだ。 「……」  息を整え、湊はその喧しさと静寂を隔てている板を手前に引く。すると、中から一気に視線を集めた。どきまぎしながら目的の人物と目が合った湊は安心感からようやく笑顔を浮かべ、手招く。 「鴻!」  言ってしまえば、不良は苦手な部類に入り、ここに来るまで些か緊張をしていたのだ。 「――あ?」 「ちょっと来て」  きりっとした眉を寄せて明らかに不機嫌な態度の鴻。しかし、舌打ちをしつつも部屋から出てきてくれた。仲間の囃し立てにひと睨み利かせながら。 「いきなりなんだよ?」 「えっとね――」 「はっ、まさか放課後まで我慢できなくなったか? この淫乱」 「へ……エッ、ちょ、ま!」  言うのが早いか、湊は腕を掴まれ、荒々しく近くにあったトイレの個室へと連れ込まれる。 「いや、ちがくて……は、話し聞いてよ!」 「聞くまでもねぇ。お前が俺に用なんてえろいことしかねぇだろうが」 「それだけじゃないっ」 「うるせぇ」 「んむっ!?」  湊の抵抗を片手で封じ、後ろ手で施錠した鴻は遠慮なく口を塞いできた。  今やもう慣れてしまい、開けろと言われるまでもなく半開きにした唇を割って肉厚な舌が侵入してくる。頬の裏側と上顎、最後にきゅっと舌先を吸われたらもうダメだ。 「あ、んんっ」 「……ほらもうヤる気になった。それで拒否してたなんて笑わせる」 「ぁ、待って……違うんだって」 「はぁ? 何がだよ。座れよ、そこ」 「いっいやだ、こんな汚いところっ」 「お前……変に潔癖症だからな。じゃあ、俺の上だ」 「待って、そうじゃなくて」 「だから何」  強引に腕を引っ張って膝上に招きながらも、話しは聞いてくれるようだ。が、上着とワイシャツのボタンを一つ一つ外されていく様に焦る。 「あ、あの、もっと……優しくして?」 「……」  見上げると、面食らったような鴻がこちらを見下ろしていた。 「はあ?」  次には怪訝な顔つきになる彼に湊は焦燥と訂正する。 「いや、あのねっ。いつも思ってて……。りっちゃんと流夏はなんかその、すごくラブラブっていうか……優しさに溢れてるっていうか! そんな感じで。なのに、俺は……」 「この俺が優しくないって? 言いたいわけか、湊」 「いっう、うん、そう!」  危うく迫力に負けそうになって、首を縦に振る。  不良だというのに落ち着いた色の短髪の隙間からいくつものピアスを見せびらかしている鴻は眉間にシワを寄せたまま、黙り込む。  しばらくして、彼は不意に、にやりと笑んだのである。 「わかった。お前が望むならそうしてやる」 * * * 「――あっ、は、ぁっ」  熱い芯を差し込まれたのはつい先ほど。ゆらゆらと緩慢に与えられる振動に、湊は後頭部を鴻の肩に擦り付ける。  普段滅多に利用者がいないせいか、清掃もおざなりなトイレの一室。響くのは必死に抑えた自分の弾んだ息遣いだけで。 「ん、……っ……ん」  鴻は以降、黙ったままだった。諾とした言葉通り、彼の行動は優しさに満ちている。  いつもならぐっと掴んで塞ぐ唇も、今は顎を掬って柔らかくキスをしてくる。いつもなら引っ張られて良いようにこねくりまわされる胸の突起も、ただ指の腹で撫でるだけ。 「んっ、こぅ……」  これで望んだ形になった、なったはずである。しかし、湊が内心抱くのは、違和感と物足りなさ。  圧倒的に、頂点へ上り詰める為の刺激が足りなかった。  いつもはもっと激しいのに、いつもはもっと気持ちいいところ全部めちゃくちゃにされるのに――。  自分が望むのは、果たしてこんな物足りなさだっただろうか。  そう思ったところ、ふと、二人のものではない話し声がその場に反響した。 「!?」  誰かが入ってきたと一瞬で気付く。従って、鴻の律動も止まった。  やはり、そこで違和。鴻のことだ。誰が来たって邪魔はさせないと行為を続けるはずであるのに……腰も手も、全ての動きを止めてしまう。 「鴻……?」  呼び掛けても尚、彼は沈黙を守っている。  突如やって来た話し声の主はどうやら個室に入ることなく、すぐに出ていってくれるようなのだが。どうしてこうもタイミングの悪い時に、普段は使わないだろう場所のトイレを使うのか。  早く出て行ってくれ、と湊は願う。  刺激が、快感が欲しいとぎゅうぎゅう締め付けているのが嫌でも自分で分かってしまっている。  もう許されるなら、両足の狭間でだらだらと透明な液を流し続ける屹立に触れてしまいたい。  湊の頭の中がどんどん侵食されていく。 「おい、腰揺れてる」  自然に動いていただけなのにそれすらも止められて。 「鴻、」  とうとう湊は我慢ができず、向かい合うように座り直し、自分で鴻の屹立を飲み込ませると腰を振った。 「んあっ、あ」 「バカッ」 「んん、やだ、途中で止めんのも、ぁっ、いつもの鴻じゃないのも!」 「はぁっ!? 湊、お前が優しくしろって――」 「いっぱい突いて? 激しく、いつもみたいにして……?」 「っ……こんのド淫乱!」 「ぁっ、あぅ、あんっ」 * * * 「――で。結局、失敗した」 「バカだなー、みっちゃん。そう言う時はぁ、我慢しなきゃ……あーん」 「ン……! ん、りっちゃん」 「おいひぃ」 「あぁっ、や!」  その日の放課後。湊は里津の家にて結果を報告していた。  鴻は優しくしてくれたのに我慢できなくなったのは自分の方であった、と。  あの後、トイレに入ってきた声の主がどうなったか、どうしたかは知らない。騒ぎになっていないから紙一重の差で気付かなかったか、知らない振りを決め込んでいるのか。  が、鴻は舌打ちと同時に普段と変わりなくなり、二人して午後の授業に出ることなく過ごしてしまって、担任に叱られる羽目になった。説教中、鴻は右から左へと流していたようだったが、湊は行為を見抜かれはしないかとひやひやしたものだ。考えてみれば、学校で事に及んだのは初めてであった。これを機に、鴻が味をしめなければいいがと思ってしまう。 「あの、今思ったのですが」 「ぅあっ流夏、それやだぁっ」 「え? 湊はゆっくりされるの嫌ですか?」 「わかんないっ、けど……おく、当たって……へんになるっ、ぅあ」 「あ、それ気持ちいいんですよ。大丈夫です」 「ぅ、ぅ、あっ」 「流夏くん、分かったって何が?」 「ゃあっ、そこでしゃべんない、でぇ」 「はい。湊が言いたかったことは優しくして、ではなく。正しくは“かわいい可愛いして”だと思うんですよ」 「? どういうこと?」 「私もなんて説明すればいいのか迷いますが……。夏々城はほら、少し……あ、いえ、結構サディスト、いじめるのが楽しいって思うタイプなんですよ、確実に。それが先行してしまって、湊は私と里津を見て差違を見つけたんです」 「……思い遣りを?」 「はい、それと似たような感覚です。夏々城に足りないのは、相手を慈しむ心です」 「あー、分かる気がする」 「っ、ん……締まってきましたね。何故か、私と里津、湊と夏々城の組み合わせが定番でしたけど……湊、気持ちいいですよ、貴方のここ。正直、癖になりそうっ、です」 「ん、んー、っは……ぁっ流夏」 「一緒にいきましょうね」 「んっ、うん……流夏、ちゅーして」 「いいですよ、ん」 「ん、っ……う」 「みっちゃん、えろい。僕ともチューしてよ」  そうして、三人で舌を縺れさせ合った。  ──あの時、別の選択をしていたらきっと、共に行動していなかっただろう。  どうして誰も反対しなかったのだろうか。  そんな関係は間違ってる。自分はおりる、と。  性に興味があったから、であろうか。  しかし、それも少し違う気がした。  四人の共通項は同級生《クラスメイト》ということだけ。 「みっちゃん、」 「あ、あぁっん、りっちゃん!」  けれど、湊と里津の間を他人には見えない糸が繋いでいる。 「おや、可愛い。本当に二人は互いに“想い合って”いるんですね」

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