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* * * 「――おいっ、朔瀬っ、性格悪いぞ!」 「――これはこういうゲームですよ。頭に来やすい夏々城を……こう、イラつかせて──今です!」 「ハアァッ!? 汚ねーぞ!」 「所詮はゲームじゃないですかっ」 「……ウゼェ」  冷房が効いた快適な室内で据え置きゲームに熱中する鴻と流夏の二人。  今日の集まり場所は鴻の家。両親は仕事で遅くまで帰ってこず、弟が一人いるものの、兄と同じで目付きの鋭い不良だが、今は不在である。兄を見習うのはいいが、不良になるところまで見習わなくてよかったのにと思うが口に出すまい。  湊と里津は、というと。 「鴻、動いてよ……っ」 「――ん、ん、ぁう」  ゲームに白熱している各人に跨がり、致していた。  無論、遊びの一つで、鴻は一切動かないから自分で楽しめ、ということなのである。  それに便乗した流夏も里津を膝に乗せ、当人はゲームに夢中。しかし、里津はその点上手くて順調に快感を得ているようだ。ちらりと視線を遣ると、甘く蕩けた表情をして腰を揺らめかしている。  一方の湊は、 「こぅ……っ」  まだまだ技術的には未熟で満足できていなかった。満足するには鴻に動いてもらう、それしか方法がない。 「もう音を上げるのか?」 「うぅ、だって……は、ぁ」 「そのちっせぇブツでもシコって強引にでもいけよ」 「ううぅー」  真っ直ぐ貫いている屹立は確かに硬さを保ち、脈を打っている。つまりは鴻も興奮はしていて気持ちいいはずなのに、この仕打ちだ。  何故、こんな男に恋人らしい甘い雰囲気を求めていたのか、湊は自分で自分の正気を疑う。結局それは解決せず、鴻はいつも通り、鬼畜のドSだ。 「ん、んっ」 「可哀想に。夏々城、少しは動いてあげたらどうですか」 「はっ? なんで俺が。こいつから跨がってきたんだろうが」 「それは貴方がそう仕向けたんじゃないですか。まぁ、それに便乗したのは私ですが……うん、里津、気持ちいい。上手ですよ」 「ほ、ほんとぅ? うれしい……っあん」  俯きがちな里津の顔を覗き込み、褒めるように髪をすく流夏──コントローラを持ちながら、だが。 「お前……性格悪いわ」 「おや、心外ですね。どこがですか? 私、みんなに性格もよく頼りになる優しい委員長で通ってるんですが」 「ていうか、敵にしたくないタイプ」 「おやおや、敵じゃないでしょう? ……あぁ、いや、もしかしたら敵かもしれません」 「……」 「だって湊、貴方からの愛が足らないって嘆いていたんですよ? 面白いですよね、私達、別に愛がなくてもいい関係なのに」 「……何が言いてぇんだよ?」 「いいえ? ただ少し自慢を。私がたっぷり情を注いで可愛がってあげたんですが、」 「は、いつだよ?」 「昨日のことですよ、まぁ焦らず聞いてください。──なんと愛らしいことか。愛で方を変えるだけであれほど乱れ様が変わるなんて初めて知りました。可愛かったですよ? 必死にしがみついて、足まで絡み付けて……」 「……」 「お陰で、ハメ撮りしてもバレませんでした」 「お前……やっぱ性格悪いよ、しかも食えない。……あとで見せろよ」 「ふふふっ」 「おい、湊、」  不意に、鴻の鋭い視線が向けられる。  瞬間、湊は鴻のスイッチが入ったのだと“勘違い”をした。 「鴻」  彼の弱点。それは顎にある黒子。どうしてかそこに触れられると、感じてしまうらしいのだった。もちろん、性的に。  狙いを定めたそこへちゅうっと吸い付いた湊は、改めて腰を振った。拙くても、動きが緩慢であっても。少しでもこちらに目を向けてきたのだ、その気にさせるチャンスであろう。 「はあ、あっ、あ!」  すると、鴻は無言で口を塞いできて、握っていたコントローラーが床に置かれるのを見た。 「むんっ、ふ……っ」  湊の誘惑は見事、成功したのである。 * * *  あの日あの時、そもそも足を止めたのが間違いだった。  ――クラスメイトの痴態。すぐさま報告するべき光景であり、軽蔑すべき光景であった。しかし、流夏は……。 「あー……お前邪魔」  ぽつりと呟かれた言葉に、はっと我に返った流夏は内心焦りながら聞き返す。  と、大して聞き返す価値もなかった独り言が再度呟かれた。 「無駄にぶれてるし、何よりも朔瀬、お前が邪魔」 「でもそれを見れるのは私のお陰でしょう? 黙っていてもよかったんですよ。今すぐ私の携帯、取り上げてもいいんですよ?」 「……」  それが口癖のように今にもウゼェと言わんばかりの顔を逸らした夏々城は、画面に釘付けになっているようだ。  先日、彼を除いた三人で及んだ行為中。湊と繋がった際、あまりの愛らしさに魔が差して、その時を映像に残してしまった。もちろん、湊本人は知る由もない行動である。  それを、夏々城は閲覧しているということだ。  何が悲しいか。端から見れば不健全な関係でも、自分達にとっては唯一の繋がりなのだ。それに、一致した利害の中には、意中の人がいる、という事実も存在している。  誰が誰を好きであろうが、自分が好きな彼がそこにおり、契約として交えられるならば、その契約書にサインをしない道理はないと言い切れる。  最初から望みのない恋情ならば、自ら偽の愛を掴みに行ってもいいだろう。 「夏々城、」  そう思うようになってから、流夏はあの時のことを後悔することがなかった。 「私にも見せてください」

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