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* * *
「今日は、以前にも話していたようにシャッフルしてみましょう」
「は?」
「あ、そういえば夏々城は知らないんでしたね」
「あ?」
何故にもそんな一つの音で威圧感を醸し出せるのか。不良の威力を思い知る湊をよそに、流夏の説明を聞いた鴻は苦虫を噛み締めたような表情をしていたが、問答無用で流夏が話を進めていく。
ふと、思う。これから始まることを思えば、“そういう”雰囲気の欠片もない。なのにどうして彼らはいきなり口付けることができるのだろうか。
その点、湊と里津には配慮されているのか、行為の始まりは決まって二人の口付けからだった。
「みっちゃん、して」
「うん、りっちゃん……っん」
湊と里津が想い合い、二人が謂わばセックスできない為に、欲をもて余している鴻と流夏が代わりに相手をしてくれる。その際、湊と里津が誰のだと思っていようが、構わない。その認識は四人が完全に抱えている。故に、この関係が成り立っているのだろう。だからこそ、儀式のような始まりの合図を黙って見ていてくれるのであろう。
すると、疑問に思うのは、流夏と鴻は他人の戯れを見るだけでスイッチが入るような人物なのだろうか、というものである。
少し、興味があった。
当たり前のように、流夏と鴻が互いに触れることはなく、役目がきっちり二分されているのがその関係であるが。
「はい。では湊、貴方はこっちです」
「ぁ……う、うん」
優しく導かれ、仰向けにされた湊は流夏越しに天井を見ることになった。
その横では早々に抱き上げられた里津が鴻と舌を絡ませている。本当に疑問を抱くほど、里津が相手だと鴻は黙 りを決め込む。掠れた吐息すら出さない。まるで先日のような、三人だけがこの空間にいるような錯覚をしてしまう。
だからだろうか。大好きな熱を入れられても、せっせと腰を振っている鴻が気になってしまうのは。
「こら、湊」
「あぁんっ──やだ、流夏」
瞬間、ぐっと奥に送り込まれた強烈な衝撃にやっと湊の視界に流夏が映った。少し息を弾ませている彼は、納得がいかないような、こちらを責める表情をしていて。形のいい唇が紡いだのは、咎めとも言えるような文言だった。
「私のをくわえながら余裕とは……少し、優しくしすぎましたか?」
「え、あ……ちがう、ごめん――」
「私が聞きたいのは謝罪の言葉ではありません。ほら、私に集中して? 湊の中で私の性器が早く出したいってどくどくしてるでしょ?」
「ん……っ、ぃゃっ」
「ねぇ、湊。根元までがっちりくわえられて、私も限界なんですよ。ね、ほらっ」
だんだんとリズムに乗る律動に従い、ぐちゃぐちゃと音が鳴り出す。
流夏の動きと言葉に、湊の体は過ぎるほど敏感になった。
「あ、あっ……う、流夏っ」
「もっと、搾り取るように、私のを締め付けてください」
「うぅあ、やだ……そんな、言わないでっ」
「ふふっ。締まりました」
「流夏ぁ!」
「可愛い。もっと名前、呼んでください、湊」
耳元でそう言われ、屈んできた彼の上体に手を回し、譫言のように呼ぶ。
「流夏、」
「もっと」
「流夏っ」
「もっと、」
すれば、素早く抜き差しされて、
「るかっ、あぁあぅっ」
瞬く間に湊は吐精した。
「ぁ……うあ」
「湊、次は貴方が上です」
「え……ぇ?」
「はい、こっち」
息を整える間もなく、寝転がる流夏の腰辺りに座わらせられる。
「私が支えてますから、自分で入れてみてください」
「!? できないよっ」
続けられた言葉に慌てて退こうにも太ももを掴まれ、どうすることも叶わない。確実に退路は絶たれている。
「練習ですよ。なかなか湊は下で乱れることには長けていますが、上となると違うようなので」
「でもっこんなの」
「大丈夫。良くできたらちゃんと褒めて、貴方の好きな甘やかし方をしてあげます」
「……本当?」
「ええ、本当です。私が嘘をついたこと、ないでしょう?」
「……うん」
流夏の言葉に脅されるほど甘やかされることに飢えてはいないのだが、愛されるのが嫌いな人間はいるまい。それに流夏の甘やかしは最上級のもので、どうしていても手を伸ばしてしまうのだ。
湊は流夏の反り立つものに手を添え、自分に宛がい、ゆっくりと腰を下ろしていく。
「ぁ……るか」
「うん、上手ですよ。あと少し」
「ぅ、ん……!」
良いところに当たり、声が鼻から抜ける。
その間、流夏は無防備な胸の尖りを指で触り、掻くように弾いては摘まんで引っ張る。強弱をつけられてしまえば、湊はもうダメであった。
「うぅ、あ……あぁっ」
最後まで飲み込むのと同時に、へこへこと腰を揺らす。先程と変わらない大きさと硬さに満足して、奥へ奥へとその先端を招いた。
やがて前屈みになっていく上体を起こすように両手を持ち上げられ、流夏と目が合った。
「る、か……きもちいい」
「私も気持ちいい、です」
「ちくびも、きもちよくして?」
「ちくびだけでいいんですか?」
「や、下も……」
「下?」
「――――も」
望みを囁き湊は刹那、
「ゃあぁんっ」
喉仏を晒した。突如、流夏が激しく腰を振りはじめたのである。それがお決まりであるようなタイミングに湊は喘ぐしかなく、それぞれの場所に触れる流夏の手に翻弄されてしまう。
「んっ、ぁ、あ、あ、あぅ、ん、んんぅっ」
口からひっきりなしに飛び出していた矯声を飲み込むように塞がれて、湊の背中がしなった。
――気持ちいい、きもちいい。それだけが脳を支配し、理性の瓦解を誘う。
「ああぁっん!」
「はぁ、湊……!」
「ぅぅっ……ぁ?」
その時、影が湊に覆いかぶさってきた。流夏ではない、彼は今湊の下にいてひっきりなしに突き上げてきているのだから。だが、断続的に揺さぶられて快感に思考が麻痺しているからか、すぐさまその影が誰なのか判別できなかった。
「ん、んっん」
流夏も気が付いていないのだろうか。奥を目指してくるばかりで何も言わないのだ。
妙な空気が漂う中、湊“だけ”の喘ぎが室内にこだましている。
「りっちゃん……ぁれ?」
「里津に見えるか? この俺が」
「ぁ、う……鴻? どうしたの……? ぅあ」
声をかけられて、ようやく影の正体が鴻だと理解した。
彼は覗き込むようにして湊を見下ろしている。少し服が乱れているだけでさして息が弾んでいる様子はない。
里津は、と問い掛けようとして流夏の律動が止まっていることに気が付いた。
「ぁ、るか」
「鴻、何ですか? 邪魔しないでほしいんですけど」
「この前、お前ら三人でヤったんだろ?」
問いかけを無視した鴻はおもむろにそう言い、湊の中から流夏の屹立を抜くように体を持ち上げる。
あっという間に背後から抱き締められる形になって、髪を耳にかけられ剥き出しになったそこへかぶりつかれた。
「ふぁ、あ」
「俺にもヤらせろ」
「……」
「なんだよ、文句でもあんのかよ?」
「ありますよ、たくさん。まず、私が相手にしたのは湊と里津です。それを羨ましがるなら貴方も二人とすればいい、私を貴方の満足に巻き込まないでください。あと一つ、私は横取りされるのが一番嫌いなんです」
上体を起こしながら、語調を強くし言い切った流夏は鴻をひと睨みすると、途端に優しい目付きになってこちらに視線を寄越す。
「ね、湊」
――あ、やばい。
瞬間、背筋を走った嫌な感覚。この先に待ち受けているのは困難だと知りながらも、その道しか残されていないような絶望的予感。動きたくとも鴻によって体は拘束されてしまっている。
「私のおちんぽ、好きでしょ?」
「っっッ」
真面目な人ほど、卑猥な単語がよく似合う。やらしくて、蠱惑的で、どきっとして。そして、動けなくさせる魔法に早変わりする。
「る、るか……っ」
「いい子ですよね? 湊は。こんなやりちん不良問題児なんかより……」
「る、流夏、」
「いい子だから、誘って? 私を」
今まで中で暴れてぬらぬらと光る自身を仄かに指先でなぞり、ふっと笑う。
「……っ」
あぁ、鴻の相手をしていた里津はどうしたのだろう。里津なら、鴻の相手だって容易く務めるはずだ。
自分は流夏の元に行くから、鴻の相手は里津が務めてほしい。だって、今そこに跨がるだけで得られる快感がある……。
流夏の大人顔負けな色香に充てられ、淫乱だと自他ともに認める湊は息を飲み、鴻の腕から抜け出し、彼を跨がるべく足を左右に広げる。そのまま腰を落とせば――ぴたり、と後孔を狙う熱源。
「ぁ……流夏、ちょうだい」
覗き込んだ流夏の瞳に、自分が映っていた。
「流夏のおちんぽ、俺に入れて。いっぱい……いっぱい、せーえき出して」
「ん、可愛い……淫乱ちゃんですねっ」
「んんん!」
* * *
――僕達が失ったのは恋情で、新たに得たのは愛情なのではないか。
秘密の契約から半年。自分をよそにベッド上で乱れ舞う湊を認めて、里津はふとそう思う。
鴻と流夏に良いように攻められて喘ぎ悶える様は、蝶のように綺麗だ。愛しく思ってしまうから、自分はまだ湊を好きなのだ。……そう、“今はまだ”。
「あ、あ、あんっ流夏」
「……っ……」
「はは、男の癖に喘ぎっぱなしかよ、湊」
中を穿たれ、狭間でそそりたっているものを擦られて。湊の口からは気持ち良さそうな声だけが漏れている。その声が呼ぶ名前も、決して里津ではなかった。
ただ見て思うのである。
彼は――、湊はまだ自分を好きでいてくれているだろうか、と。
不安で、悲しくて仕方がない。けれど、それを確かめるには恐ろしくて、言葉は喉奥で詰まるばかり。このままでは窒息してしまいそうなのに……。
「……みなと……」
鴻に囁かれた言葉が蘇る。
『お前、本当は――』
一瞬の過ちが、一生の後悔となる。
もう自分達は戻れないところまで来てしまった。この契約は卒業後、互いに一切会わず連絡しないことを前提に結ばれたものだ。が、鴻と流夏との縁が切れたところで、湊との縁が切れるわけではない。二人に露見しなければ済む話だ。
そもそも、契約を持ち出した鴻は何を考えているのか。
契約上、これらの行為の本質は、決して交わることのできない悲運な男達を救う為の救済処置。湊が鴻と交わろうとも流夏と繋がろうとも、想うのはただ一人。
鴻と流夏にあるのは性欲を解放できる、謂わば孕ませる危険性のない安全な玩具。でもそれは高校三年の終わり、卒業式その日まで。
彼が得るのはたった三年にも満たない年月の安寧だ。鴻はそれだけで満足なのだろうか。
自分だったら堪らない、そんなの。
無論、その感情に至るには湊に恋をしているからという事実が存在するからなのだが。
しかし、期限を定めなくてもよかったはずだ。自然消滅も望めるのだから。
それとも、鴻にとってこの三年間は何か意味のある――
「ああぁん、ん、ん、やだ……っぁ、鴻、もぅやめっぅん」
「まだ始まったばっかりだろうが。これぐらいでへばんな」
「やあぁっ」
「湊、お口が休んでますよ」
「ぁう、ふ……ンン、んっ!」
「はぁ……ん、そう、舌も……いいですよ、湊のお口」
「…………」
狸寝入りも大変である。目は閉じていても耳を塞げる状況ではなく、絶え間なくいやらしい会話が鼓膜を犯してくる。否応なく熱くなる中心部に寝返りをしたい気持ちでいっぱいになっていった。
こうなったのは全て鴻のせいだ。
『これをバラされたくなかったら、今すぐ寝た振りをしろ』
横暴で俺様で、なんて人を従わせる姑息な手を使うのだろうか。
里津は思う。
自分達が、いや、湊が恋情を手放して得たのは、有象無象の愛情なのではないか、と――……。
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