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* * * 「じゃあ、いくよ……?」 「う、うん」  この時の為に用意したというローションを纏った指が宛がわれ、湊は頷く。  ベッドの上、枕を腰に背中を壁に預けた湊の足を割って体を入れた里津がごくりと息を飲んだようだった。  真面目な話をして時間が経ち、感情も冷静になってしまった為か。流れる空気は固く、どこか冷たい。緊張を孕んだ室内は些細な物音も許さないというような静謐さなのだ。 「痛かったらちゃんと言ってね?」 「うん」  そして、慎重に里津の人差し指が埋め込まれた。 「……っ」 「痛い?」 「うぅん、大丈夫……」  ローションの効果もあり、するりと難なく入り込んできた指が緩やかに動き出す。 「ん……ぁ、みっちゃん」 「もっと?」 「ぅん」 「言って」 「っ、もっと」 「……ん、可愛い」  少し苦しそうに笑った里津はぐちゅぐちゅと音を鳴らすように、指の出し入れをはじめてきた。 「ん、ぅ……ぁ」 「気持ちいい?」 「うんっ、はぁ……っあん、そこ」 「ここ? ここ触られるといいの?」 「うん。そこが、気持ちいい……っあぁ」 「ぁ……みっちゃん、えっちだ。僕、たった」 「! ……っッ」  その言葉が何よりも嬉しい。  幻滅されたらどうしようとか、やっぱり無理って落ち込まれたらどうやって慰めようかと、後になって急浮上した思考が霧散霧消していく。 「ん、もっとして……っ、りっちゃんんん!」  視界の端で変化していく里津のそれを認めて、堪らず湊は腰を揺らした。奥へ奥へと抽挿を送り込むように、指の動きと合わせる。 「みっちゃんっ、やだぁ」 「あぁ、んっ、ふ……あ」 「うー……やだってばぁっ」  耳を犯すような水音が大きくなるにつれ、比例するように里津の眉が寄り、むくむくと欲の象徴は膨らんでいくようで。おもむろにそこへ手を伸ばした湊は、滴るほどに溢れる液を塗りたくるようにして触った。 「うぅあっ」  刹那、白濁が迸る。 「は、ぁ……はぁ」  湊の股ぐらまで飛び散ったらしく、温かい感触が途端に広がったのだった。 「いっちゃったの? りっちゃん」 「ん……ごめ、みっちゃん」 「なんで謝るの? 俺を見て気持ちよくなってくれたんでしょ? それなら嬉しいよ、俺」 「……うん。ぎゅうぎゅう締め付けてくるよ、みっちゃん……欲しいの?」 「ぁ」  中をかき混ぜるように指先が蠢く。 「ほ、しい……ちょうだぃ」 「うん……あげるね。僕の初めて」 「大丈夫? 苦しくない? 嫌じゃない?」 「うん、みっちゃんだから――」  いつの間にか再度天を向いているものを指を引き抜いた場所へ。  続く言葉は頑張る、だろうか。  ふと消えたはずの不安が再来し、じとりとした汗が湊の額に浮かび上がった。  妙な静寂が耳に痛い。  自分がこんなふうに行動できたならば。……どれだけよかっただろう。里津にこんな苦しみを与えなくて済んだろう。  くちゅり、と触れる。 「ん……」  声を上げたのは里津だった。 「りっちゃん……無理しな――」 「してないっ」 「……っ」 「大丈夫だから」  それでも流れ落ちる汗が、全てを物語っていて。その雫が涙のようで、湊の両目から申し訳なさのあまりに先んじて溢れ出てしまった。  しかし、里津は何を言わず、先端を押し込んでくる。  十分に解されていた後孔は里津をも容易く飲み込み、呆気ないほどその瞬間は訪れた。 「一つに、なったね」 「りっちゃんっ」 「……ん、あったかくて、きもちい」 「りっちゃん、」 「やだ泣かないで……ぼ、くも……泣いちゃうからぁ」  ――初めて好きな人と繋がることが出来た。些細なことで重要なことであるそれは、二人にとって何よりも大きな事である。  ぽろぽろと涙が溢れていく。  悲しみではない。だが、嬉しさから泣いているのでもなかった。  何かの喪失感と、今更越えてしまった壁の先に待つものが何であるか、悟ってしまったから流れる涙だった。  それから程なくして。 「ンゥッ」 「うぁっ」  湊と里津は同じタイミングで体を震わせた。 * * *  何の用もなく、何の準備もなく泊まることなど出来るはずもなく、湊は靴を履く。 「じゃあ、りっちゃん……」 「待って。最後に、」  引き寄せられ、唇を吸われた。  至近距離で見つめ合い里津を抱き締め、問いかける。 「気持ちよかった?」 「うん。気持ちよかったよ、みっちゃん」 「……本当?」 「うん。本当。嘘つかないよ。怖くて今まで手出せなかったけど、少し後悔した」  そう言って、里津はくすりと笑う。その様子に苦痛が含まれている気配はない。 「俺、決めた」 「何を?」 「次は俺がりっちゃんを気持ちよくさせる」 「え……」  驚愕に満ちた動作で体を離される。里津の大きな瞳は目一杯までに見開かれていた。 「りっちゃんが頑張ってくれたんだ。今度は俺が頑張る」 「ぁ、そんな、僕は」 「いや、頑張る。……ううん、頑張るじゃない。やるんだ。りっちゃんに言われて気付いた。これは鴻や流夏達には関係ない、俺達の問題なんだって……今更、認識した」 「みっちゃん……」 「ごめん、里津」 「……っ」  玄関先に点る橙色の柔らかい光に照らされた双眸が、きらりと波打つ。  ――初めて、ちゃんと名前を呼んだのだ。 「里津。好き」 「……み、……湊っ、僕も好き……!」 「うわわ」 「う、ふふっ、好き!」  際限ない喜びを表すように飛び付いてきた里津をなんとか受け止めた湊は、ぎゅっと抱き締めて考える。  この先、どうであるべきが賢明か。選択肢はたくさんあるようで正しい道は一つしかない。その一つを自分は里津と選べるだろうか。

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