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* * *
その日の夜。二日連続の外泊になんとか家族を説得し、誰も欠けることなく流夏の家に泊まることになった。
里津と湊にはベッドが与えられ、家主である流夏と長身の鴻にはソファが宛がわれた。
昨晩の有り様を思えば、みんな一緒に寝ようなんて言えず、大人しく好意を受け取って里津と共寝をした――のだが。
「り、りっちゃん……っだめだよ」
十二時も回ろうかという頃。妙に目が冴え、答えの見つからない考えを巡らせていた湊の体に里津の手が絡み付いてきたのである。
側には流夏も、鴻もいる。
憚って小声で訴えるも、明確な意思を持って体の線をなぞった指は止まらない。
里津を背にして寝たのがいけなかった。逡巡している様を見せたくなくて、向かい合わなかった報いとでも言うのだろうか。
「りっちゃん……!」
「えっちしないと不安になるのは僕の方かもしれない」
「え……? ぁ、やだりっちゃん」
服の裾を捲り上げ、素肌に触れてくる。
「お願い、少しだけ」
「でも……二人が……っ」
「今は僕だけ」
「ん!」
耳殻をぺろりと舐められ、食まれてしまう。
咄嗟に口を手のひらで押さえたものの、静まり返った室内では衣擦れの音でも大きく聞こえる。
流夏は、鴻は、なんて確認しようものなら耳を愛撫し、決して振り向かせてくれない里津は、決意が固いらしい。……そんな決意は砕いてしまいたいけれど。
「ゃぁ……」
しかし胸を引っ掛かれ、湊は小さく里津の手に爪を立てることしかできなかった。
それから触れてくる指先が冷たいと気が付いた時には、布団の中でゆったりとしたズボンを下げられてしまい、下着も追いやられ、悔しくも反応してしまった屹立を良いように扱われていた。
「ん、ふ……」
「きもちいい?」
上擦った声音が、少なくとも里津が興奮しているのだと教えてくる。
流夏の寝具を汚すわけにはいかないと腰を引けば、何を勘違いしたか、里津が逆に腰を押し付けてくるのだった。
「やだ、りっちゃん……」
「なんで? きもちよくないの?」
「っ、うはっ」
「しー、聞こえちゃう」
「じゃぁ、やめてよぅ」
情けない声を晒してしまうのは、里津の動きに言い逃れようもない快感を覚えているからだ。が、湊はそれを認めたくなくて、どうにか里津の腕の中から逃げようと身を捩る。
「体は正直なのに」
しかし、里津は更に追い立ててくる。
「りっちゃん……!」
「――良いことしてますね」
瞬間、心身と共に凍りついた。
その声は間違いなく流夏のもので。ベッドが軋み、流夏が乗り上げてきた。
「私の毛布、汚れちゃったじゃないですか」
「ご、ごめっ」
「でも……うん」
掛け布団を剥ぎ取った流夏はこちらを見下ろして、頷く。
「なかなかそそられる格好をしていますね」
「みっちゃん、嫌々言いながらもこんなにしちゃったんだよ?」
「それはそれは」
「っ……! なんだよ、二人してっ」
刹那、大きくベッドが沈み込み、湊の体が引っ張り上げられる。
鴻だ。鴻に抱き抱えられるようにされ、足にまとわりついていたズボンを下着と共に抜かれてしまった。
「こ、鴻……? ま、待って――」
「待たねぇよ、馬鹿」
「ンっ」
まるで吸血するかのように首筋に噛み付かれた。
「湊」
その反対側を眼鏡のかけていない流夏がじゅうっと吸う。
「ぅ、っっ……ん!」
ぞくぞくとした何かが腰から生まれて背筋を駆け抜けていく。それを逃がそうと身を捩った湊は、思わぬ表情に出くわし、心臓を鷲掴みされた。
「みっちゃん……」
一気に湊を二人に奪われた形の里津は、
「みんな、みっちゃんのこと大好きなんだね」
声音だけで笑い、そのまま湊の唇を塞いできたのだけれど。
「ん、んんぅ……っ」
首にかかる、熱い吐息。粟立った肌を唇が撫で啄 み、時折噛まれて。与えられた甘い感覚が湊を際限なく犯す。
里津はそんな湊を伏し目がちに見つめてきて、咥内を薄い舌で掻き回した。
緩い律動のように上顎を突き舐められてしまえば、湊は極まった矯声と共に吐精してしまうのだった。
「ん……キスだけでいったの?」
「はぁ、はぁ、ぁ……あぅっ」
里津の指がまだ衰えを知らない屹立の天辺を悪戯に突っつく。
なんだかぞくぞくが止まらなくて、里津の名前を呼んだ。
「り、りっひゃ……」
「呂律回ってませんよ、湊」
「もうブッ飛んでんのか?」
「んん、りっ、ひゃん」
へにゃへにゃと鴻に垂れかかっていた体をなんとか起こし、里津を真正面に捉える。
「みっちゃん?」
ぱちぱち、と目の前の瞳がまん丸くなったのが分かった。それを合図に、体重をかけて彼を押し倒す。
「じゃあ、りっちゃんにだけ……俺の全部、あげる」
「じゃあ……?」
「俺がりっちゃんに全部あげれば、りっちゃんが一番ってことになるよ」
「……?」
「俺の、はじめて。もらってくれる?」
「……え?」
* * *
「ふ、ふぇ……っ、」
「みっちゃん、やっぱり無理しない方が」
「いい、やるの……っ今のは……いまのはちょっと気持ちいいから声が出ただけで」
「まだ先っぽも入ってないだろうが」
「う、うううるさいっ」
横槍をいれてくる鴻をきっと睨み、うって変わって目の遣りどころを変えた湊はすぐさま瞳を潤ませた。すんすんと鼻を啜ってしまうのは仕方がない。気持ちいいのか、ただただ怖いのか自分で分からないのだ。
硬くなった先端を宛がい、後は押し込むだけというところまで来ているのだが……。
「……っ」
嫌な情景と声が聞こえてきたそうで、目を開いたり閉じたりするだけで忙しない思いなのである。
いっそ一思いに、なんて思うものの、実際は小心者で。早くも決心が鈍っていた。
――トラウマを克服して、里津に彼が自分の一番だと伝える。
“あんな表情”で“あんな言葉”を吐いた里津に“分からせる”には、それしか方法がないと思ったのだ。言葉でも心の深層部に届かないなら、体を使えば嫌でも分かるだろうと思ってのことである。
しかし、肝心な過去を打ち明けるまではいかなかった。
自分の裡に広がる負のイメージを退けるのに手一杯で、湊に説明などしている余裕はない。
ただ一人、訳を知っている流夏は戸惑いながらも、黙っている鴻と里津の側で心配そうに見守ってくれているようだ。
「……、」
小さく息を吐き、触れ合った部分に集中する。
独り善がりだと相手を傷付けてしまう行為だと自覚しているからこそ、慎重に、丁寧に、と自分を言い聞かせて湊は力を入れた。
『え……勃たないって、どういうこと? ……はは、本気……??』
「!」
「みっちゃん」
「ぁ、んぅうッ!?」
過去に囚われそうになった湊だったが、不意に首に回された腕にぐっと引き寄せられ、唇を甘噛みされて現実に引き戻された。
瞬く先で里津が真剣な顔をしている。
「目の前にいるのは僕だよ。みっちゃんのことが好きな、宗田里津。みっちゃんは誰を見てるの?」
「……りっちゃん」
「みっちゃんのであんあん言わせてよ? ほら、僕の……これじゃあ興奮しない?」
大胆に左右の足を開いた里津は、丸見えになったお尻の間に手を忍ばせ、そこを指で開いて見せてくる。
「みっちゃんの好きなようにしていいよ、いれてみて……?」
「……でも」
「いれたいんじゃなかったの?」
「…………」
尤もな指摘に返す言葉を失う。
すると、真横から手が伸びてきた。
「私が手伝ってあげますよ、湊」
「る、流夏」
見るに耐えなくなったのか、情けなく下を向いてしまっていたものに五指を絡ませてくる。おもむろに上下に擦られ、声が出そうになるのを咄嗟に我慢した。
「良かった。気持ちよくはあるんですね」
「ん……だって、る、るかっ」
「じゃあ、僕は準備してる」
「あっ、りっちゃん」
「ぁ……ん、意外にヤル気満々だから、僕」
そう言って自身の指を突っ込み、浅く出し入れをしだした。それだけで充分に感じているらしく、眉根を悩ましげに寄せて半開きにした口から荒い呼吸を漏らしている。
湊も流夏に触られて、熱い吐息を冷たい空気と混じり合わせた。
「はぁ……っぁ」
「そう、リラックスして」
「ぁ、るか、流夏」
「ふふ、かわいい――ん」
「んっふ……ぅ」
ぬるぬるな手で顎を持ち上げられ、口付けを交わす。閉じた口を何度も舌でなぞられて、開閉した瞬間、逃さないと生き物のような舌が侵入してくる。ねっとりとした、三人の中では一番しつこい口付けをしてくるのが彼だ。
「る、ぅう……ん、ふ」
「っは……こっちも大丈夫そうですね」
「は、ぁっ」
いつの間にかそりたっていたものを撫でられ、湊の腰が揺れ動く。
「このまま」
押され、再び里津と向き合うことになった
一人で解していた彼は目の前に来た湊を濡れた瞳で見上げると、うっすらと笑った。
「いれて。みっちゃん」
「……っ」
思わず、自分の手を口に当て、視線を遮る。
それぐらい、威力があった。
そんなことをしていると、傍観に徹していた鴻がおもむろに湊を抱え、背中にぴったりお腹をくっつけてくる。
「こ、鴻……え、あ……まっ――」
言うが早いか、強引に体を押され、先端が里津の中へとあまりにも簡単に入り込んでいくのが見えて。
「ぅ……っ、あ」
「鴻! そんないきなり!」
流夏の抗議の声もどこか遠く。全身が一瞬で沸騰したように熱くなって、額に汗が滲み出したのが分かった。
続けざまに前後に揺さぶられて、湊は初めてを喪失したのであった。
「ひあぁ、あぅっ、ん、ん、ンッ」
「み、みっちゃ……はげ、し!」
「はあっ……いっちゃぅ、んーんんッ」
「みっちゃん……っ」
「あっっ!」
「はあぁ、ぁ、ぁ……みっちゃんの、でてる……っ」
「ぁ、ぅ……ぅぅ」
瞬く間に頂点に導かれ、湊は圧倒的な快楽の余韻に呻く。ぴくぴくと腰を跳ねさせては、そのせいで生まれる小さな刺激に口から喘ぎが逃げ出した。
何が何だか分からない。そんなことを考える思考が停止し、息を整えるのに精一杯だった。
「この早漏が」
そんな最中である。舌打ちと共に鬼畜な言葉が耳朶に触れたのは。
「おら湊、腰上げろ」
鴻だと分かる声が続けて響いてきて、湊の意識があれと覚醒する。
凄まじい衝撃に意識が飛びかかっていたらしく、それでも未だ曖昧な感覚に首を傾げる湊だったが、腰骨を掴まれ、振り返る。
「ぁ……鴻?」
「お前はあんあん言ってる方が似合ってる」
「……」
――自分でもそう思った。
そう返事をした気になって、湊は里津に向き直ると真面目な顔で告げた。
「これで俺の全部、りっちゃんのものだよ」
言った直後、鴻の腰がお尻に押し付けられて。
「うぅんっ」
ずっと疼いて仕方がなかった奥を突かれてしまった湊は素直に乱れることにしたのだった。
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