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* * *
「やっぱり淫乱」
栓を抜かれ、どろどろとしたものが外に溢れていくのを見たらしい鴻がそう呟く。中に射精したのは堪えられなかった鴻自身だというのに、二度も達してしまった湊を貶す方に手一杯のようだ。
湊もそんな鴻に構っておられず、里津に覆い被さるようにして呼吸を整える。
だが、その体を抱き抱えたのは流夏であり、不満顔であった。
「やはり4Pなんて難しいんですかねぇ」
まるでこの世を憂いているような口調に湊は抵抗することも忘れ、その首に腕を回した。
「あ、やる気になってくれてます? 嬉しいです」
途端に笑顔になり、さっそく宛がってくる流夏。
しかし、待ったをかけた人物がいた。
「なんですか、里津?」
「なんですか、じゃないよ。僕、ちょっと聞きたいことがあるんだよね」
全く今日の出来事――もう既に昨日のことかもしれない――を引きずっていないような声音に、単純にもホッとしたのも束の間。
「どうしてみっちゃんの首にキスマークがあるのか、説明して」
「え……? キスマーク?」
ベッドから起き上がった里津の放った言葉に、酩酊感が覚めた。前後を攻められ、思考もまともに働いておらず、そのままなら次に流夏と楽しんでいたかもしれないのだが……。
完全に正気に戻った湊は、反射的に首を手で覆った。無論、触っただけで分かるわけがない。隠したのだ。
「キスマークですか?」
「つまり、僕が話し合ってる時に“そういうこと”してたの?」
「…………」
その言葉は湊にも言われているようで、思わず冷や汗をかいてしまう。
そんな不謹慎な記憶はないが、肝心の流夏が黙っているのである。
万が一を考え、湊の顔面は蒼白となった。
湊に聞かないで流夏を問い詰めているところ、的を射ているようで答えが怖い。
これも自分が淫乱なせいだと思い出せば、琉夏が口を開く。
「すみません、昨日……一昨日ですかね。みんなでベッドで寝てる時、我慢できなくて。だって私の服着て、しかもゆるゆるだから首回りが大きく開いてるじゃないですか? 見てたらだんだん……」
「欲情したの」
「はい、すみません」
直接的な言葉、しかもあっけらかんといった様子の流夏に、湊はかける言葉を見つけられなかった。
未だ見れない首筋には鬱血痕、所謂キスマークがついているらしいが。
何とはなしに首を撫でていると、
「……」
「……?」
鴻がこちらを見つめているのに気付いた。
里津と流夏はまだ話しをしているようで、鴻には目もくれない状況だ。
目の合った湊は視線だけで問う。
「!? ……っ」
と、強引な動作で引きずられ、鴻のすぐ側まで近くに寄せられた。
「こ、鴻?」
「お前……むかつく」
「…………はい?」
予期すらできないそれに湊は更に傾げる。
「それだよ馬鹿」
「んう、ふ」
唐突に後頭部を掴まれ、唇を塞がれる。隙間なくぴたり覆っては啄み、ちゅっちゅっと触れさせ何度も角度を変えて。
「ん、ふ……こぅ、んん」
「あっ、鴻くん! 僕のみっちゃんに何してるの!」
「ッうわ」
後ろから凄まじい力で引き剥がされ、瞬く。やはり男なのだと思わせる里津の力ではあるが……。
あっち行ったりこっち行ったりと忙しく、少々目が回る思いがしてしまう湊を心配してくれる人物は残念ながらいないようである。
「別に俺がどうしようが勝手だろ」
「みっちゃんが可愛いのは分かるけど、話してる横で発情しないで!」
「はぁ?」
「みっちゃんも誘うの禁止っ」
「え、えぇ? 誘った覚え、ないんだけど……」
「仕草一つでスイッチ入る人もいるんだから」
「そんなえろい格好してんのが悪いんだよ」
「あぁ、それには私も同感です。湊、貴方は自覚するべきです。ここにいる人間はみんな貴方のことを好いていて、案外催しやすいんですよ?」
「……え?」
「ほらみっちゃん」
里津の手が頬を包み込み、顔を固定される。
「首を傾げるだけでキスしたくなっちゃう」
「ええっ……?」
「それに今の格好は目に毒ですよねぇ」
「かっ、こう?」
「身に纏ってるのは上だけですし、それも鎖骨が丸見え。屈んだら可愛い乳首が見えますよ」
「……」
――恐怖が、込み上げてきた。
「それにお尻は精――」
「うわわっ待った、ストップ! 言わなくていい! もしかしてシーツ汚したから怒ってんの?! 謝るから、」
「ふふふ。そんな、私は別に怒ってませんよ?」
「怒ってるよ、その笑顔は! ――あっ」
いきなり力んだせいか。中に吐き出され残っていた鴻の体液が流れ出る感覚がして、思わず声を上げてしまった湊はその感覚に眉を寄せる。感じてしまうのは仕方がないだろう。
「ん……っ」
どれだけ出したのかと疑いたくなるような感触に鴻を見上げると、言いたいことが伝わってしまったらしい。
彼はがら空きの首に口をつけて、吸い付いてくる。
意外にも鴻はスキンシップが多いのである。行為的には粗暴な点が目立つが、合間のスキンシップが伴っているお陰でただの手酷い男に成り下がらずに済んでいるのだろう。
そんなことをしていれば、当然里津と流夏に目撃されるわけで。
「あ、みっちゃんっ」
「夏々城ってテンプレに弱いですよね」
「……うるせぇ」
「次、僕がみっちゃんに入れてもいい? あ、でも鴻くんが出した中でするのはなー……掻き出してい?」
「んー」
短く返事をし、腰を突き出す。とすぐ埋め込まれた指に息を詰める。
「……、……っぁ」
「感じちゃう?」
「あ、それ……っ」
「みっちゃんって突かれるの好きだよねー」
「ん、んぅーっ」
無意識に鴻の腕を掴んで耐える。
中のものを掻き出すだけと言いながら、里津の指は明確な意思を持って出たり入ったりをする。好きな部分を指の腹で突っつかれてしまえば、吐き出すような矯声が飛び散った。
「はぁ、あ……ん……こう」
ずっと見つめられ、つい名前を呼んでしまう。
もう一回口付けしてくれないだろうか。
そんなふうに期待していると、捲り上がって胸元しか隠されていない服の隙間から手が侵入してきて。つん、と尖った胸の飾りを痛いぐらいにつねられた。
「ンンッ、いたぃ……っ」
「痛いぐらいが感じるんだろ」
「やだ、優しいのがいぃ、んっ」
「ねぇ、鴻くん。一回でもいいからみっちゃん甘やかしてみなよ。首を傾げる時以上に可愛いよ」
「……」
眼前の顔がそっぽを向く。どうやら嫌らしい。
その瞬間、流夏が割り込んできて、二人の間から湊を奪い取った。
「なら私としましょう? 湊」
「ぁ、流夏……?」
「いいですよね、里津?」
「許可を求めないでよ。みんなのみっちゃんだから……今は」
「私がうんと、たっぷり甘やかしてあげます」
里津の答えを受けてそう言う流夏は、やはりいやらしい顔をしている。
* * *
「湊はどこをどうされるのが好きです?」
「……っ」
唇でなぞるようにして、頬から首、肩に降りて鎖骨を食む。
流夏の膝の上、逃げられないよう腰に腕が回っていて、すでに貫かれている。ただいれられただけでぴたりと動きが止まってしまい、もどかしい気持ちで一杯だった。
「ん、首……ちゅーちゅーされるの、意外に好き」
「おや、今日気付いたことですか?」
「ん」
「夏々城、してあげたらどうです」
「……断る」
「ふふっ、じゃあ私が」
首に。
「ふ、あ! ん……っ」
「中もぎゅうって締まりましたよ? 本当に好きなんですね、ン」
「ゃ……ぁ、言わなぃで」
ん、と流夏から幾度も喘ぎともつかない声が漏れ、そのいやらしさを感じるたびに、挿入されたままの屹立を締め付けていると自分でも分かった。
やがて、物足りなくなったと言うよりは、自分から求めて湊は腰を揺らめかしていた。
「ん、ん……あんっ」
「気持ちいいですか?」
「ぅん、なか、あつくて……っひうッ」
「これ自分で動いてるんですよ」
「ん、ぅ……っはぁ、あ、あっ」
「全く、夢中ですね」
そう言う流夏は嬉しそうであり、ますます硬くしている。
湊は堪らなくなって流夏の体を抱き締めるように足を交差させた。
「あ、あ! うっ……る、るかぁ」
「はい」
「おれのおく、いっぱい……して」
「私にしてほしい?」
「うん、うんっ……ひゃあっああッ」
「ん、かわいっ。好きです、湊」
「んうぅ」
――愛情、なのである。
里津の親が嫌悪した自分達の関係の根底にあるのは、愛情だった。
望まれもしない愛情なのは端から分かっている。けれど、愛さずにはいられないのだ。
里津が好き。流夏が好き。鴻が好き。それらに差異はあれど、愛には違いなかった。
そんなふうに口にしたら、大人はこぞって笑い、次には説教をして矯正することに熱心になるだろう。もしかしたら育て方がダメだったとか、目の届くところに溢れている害ある“モノ”が悪影響を与えているんだと危険視するものが増えるかもしれない。
周囲に幸福を運ぶわけでも、生産性があるわけでもない。無意味で無駄なことなのだろう。
しかし、無価値ではないのである。
この関係に、価値がないわけではない。
「ほら鴻くん、どう? 優しくすればみっちゃん、こんなに可愛いんだよ?」
里津の手が乱れた湊の髪を撫でる。
それに気付き、湊は緩慢とした動きで流夏の肩口から頬を離し、その手をとって指を咥内に招いた。
「ふぇら。したいの? みっちゃん」
「ん、ん……ぁんむっ」
「…………」
もう正確に働かない頭でただ快楽を求める獣のようにじゅるじゅると音を立ててしゃぶっていれば、不意に鴻と目が合って。
“こう”と唇を動かすと、鋭い瞳は一切湊から離れなかった。
「ただ淫乱なだけだろ」
数秒前の流夏の問いかけにそう答えた彼は、強引に位置を定めると湊の唇を荒々しく塞いできたのだった。
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