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現在 -9

 わなわなと怯えた愛くるしい瞳が、佐東の肩の向こうから僕を見る。 「…たす、けて…泉水…さん…」 「コラはがれろよ。カメラに顔が映らんだろ。」 「は…、いや…!」  それを言われてカイトはますますきつく佐東にしがみつく。  ベッドの上にのった細い両足で必死に踏ん張り、佐東の体を押すようにして密着している。  佐東はどんな様子だろう。  パソコンを開き佐東の顔を確認できる画面を探る。  画面から見える彼の顔は、言うことを聞かないカイトを見ながら、しかし、どこか満足げな表情をしていた。  カイトが密着してくるのは喜ばしいことなのらしい。その目は、カイトの様子をただ愛しげにながめているようにも見える。  佐東の、鬼畜らしからない、人間的な一面をかいま見た気分になる。 …そのときふと僕は、奇妙な感情に襲われた。  その感情を分析しようとしていて、画面の佐東と目が合う。 「…耳噛んでいい?泉水。」 (…ああ、なんだ。)  だめです。言う前に、カイトはマットに沈んでいた。  一瞬何が起こったのかと思ったが、佐東の言葉に怯えてカイトの力がゆるんだ瞬間、佐東がカイトの体を引き剥がしてマットに叩きつけたのだ。 (…まったく。どこが“人間的な一面”、だ…。)  一瞬でも佐東の人間性を思った自分が馬鹿馬鹿しく思えた。佐東にあるのは鬼畜的な本能だけだ。  同時に、佐東に対して幾ばくかの人間性を期待してしまっていた自分に気づいた僕は、おかしくなって思わず小さく笑ってしまった。 (それにしても、カメラの位置をすでに把握してあるのか。)  さすがは佐東。  彼らしい動物的な勘に、僕はまた笑いを誘われそうになる。 「…クゥ…」  首元を押さえつけられたカイトが、小さく声を裏返す。 (…あ、)  あれ?…もしかして。 「これでいいか?カイト。」  佐東は仰向けのカイトをベッドに押し付けたまま、もう片方の手を伸ばし、一番卑猥な形をした肌色の玩具を手に取ると、ピンク色をした先端をカイトの顔に押し付けながら言った。 「…や…っン…」  カイトが何か言おうとして、口のなかにそれを押し込まれる。 「…ん、ぐ」  カイトは必死に顔を背けて口の中のものを吐き出そうとする、が、佐東がそれを許さない。その動きに合わせて、面白そうに玩具を動かす。 「先輩、ちょっとポーズしてもらっていいですか?取って来たいものがあるので。」 「“ポーズ”?」 「少し気になることがあるんです。まだ入れちゃだめですからね。」 「“ポーズ”って、ナニ?」  佐東の意識がこちらを向いたすきに、今度はカイトが両手で玩具を掴み、自分の口からそれを引きぬいた。「…ケホッ…はあっはあっ…」 「あ、こいつ、」  佐東の様子が気になったが、いったん奥の部屋に行き手荷物の中を探る。 (あった。)  青色の耳をしたウサギのぬいぐるみ。“お気に入り”の少年たちに、最後に渡すものだ。ジッパーのついたビニール袋から取り出して、手前の部屋に戻る。  最初は佐東の大きな腕にカイトがひたすら揺さぶられているのかと思った。  が、前にまわってみると、佐東がカイトの細い腕を無理やり後ろにまわし、細めのロープで縛りあげている最中なのだとわかる。膝をついたカイトは動けないのか、それともすでに動く気力も失せたのか、力なくうなだれてされるがままとなっていた。  佐東はカイトの両腕が少し重なるくらいの位置でロープを巻きつけ、手際良く固定を完了する。 …やれやれ。(いつもやってるんですか、こんなこと。)  関節がしびれて痛くなりそうだな。あまり長く固定し続けるようなら佐東に忠告しよう…、と、思ったそのとき、 (!)  カイトの左肩から腕にかけて、赤い数本の筋模様が出来ているのを見つけた。 「…それは何のあとですか?」  さっきまでは無かった。佐東の足元に茶色い革製の鞭がある。先が割れているタイプのものだ。 「先輩、「お前の前ではぶたない、っつったんだ、俺は。」 …まったく。 「意地悪だね。キミの叔父さんは。」  カイトはしゃくりあげながら、ゆっくりと僕を見た。  濡れて澄み切った大きな瞳ににらまれると、それだけで全身がひそかな悦びで震えそうになる。 「手に何持ってんだ?」  佐東を無視し、かわいいカイトの目の前まで歩みより、手を伸ばす。  ウサギのぬいぐるみを、カイトの顔のすぐ前まで運んであげる。 「これ、噛んでもいいよ。この子は痛くても泣かないから。」 「なんだそれ。」 「大声をあげるのがつらいんですよ。ね?声変わりしようとしてるんだよね?」  ついさっきまではカメラで録音されるのがいやなのだとばかり思っていた。だが、昨日の声も少しかすれた感があったし、声が不自然に裏返ってしまうのは、そのせいなのだ。  声をあげるたびに喉が痛くてたまらないだろう。僕にも覚えがある。  このぬいぐるみをあげることは、これから大声をあげさせられるかわいそうなキミへの、僕なりの優しさだ。 「…うるさい…泉水っ…」 「泉水を呼び捨てにするな。」  後ろにいた佐東が、言いながら長い腕を伸ばしてきて、カイトの中心を強く握った。 「くアッ!アンンっ…」  出し抜けに攻撃されたので、カイトの口からは再び女の子のような恥ずかしい裏声が上がった。縛られたままの、何もできないカイトに対しても、佐東は容赦がない。 「…だっ、や…やめ…っア」  佐東はカイトをかきあげながら、倒れ込もうとするのを封じる。 「ほら、昨日よりも声、ガラガラだよ。この子をくわえてれば、少しは声を抑えられると思うから。ね?」 「い…たイ…」  カイトの顔が苦痛に歪む。「先輩、痛がってますよ。」 「お前だって楽しんでるくせに。」 「…だって、こんなに可愛いいんですから…。」 「ア!ア!」  佐東は2度ほどカイトの芯を強く握り、カイトはのけぞって裏返った声のまま悲鳴を上げた。 「はは。こいつ、ダミ声になる前に不能になるかもな。」 「…かわいいカイトくんを不能になんかさせませんよ。」  佐東はまだにやにやとしたまま、ようやくカイトのそれから手を離した。  その手で腿のあたりや下腹部を撫でまわす。カイトは佐東の腕の中で、そのたびに体をびくびくと震わせた。よほど不快に思うのか、…それとも、 「…感じやすいのかな、キミは。」  ウサギの腕の先を使って、そっとカイトの涙をぬぐう。カイトは頭を強く振った。 「くそっ…やめろ…!――あんたなんかっ…大嫌いだ!」  そこまで叫んでカイトは二、三度むせ、いっそうきつそうな顔をする。 「おい泉水ー、どうするよ。さっきまではお前に『なんでもします』とか言ってたくせに、身勝手極まりねえなコイツ。お前からも一発しばいとくか?」  聞こえていたのか、カイトの台詞(せりふ)。  佐東はカイトを固定したまま体を傾け、僕の耳元に近づいてきた。佐東と僕とにカイトが挟まれる格好になる。 ―― いい声出すからけっこう気持ちいいぜ。 ------------------→つづく

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