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現在 -12
ふと佐東を見ると目をひらりと輝かせている。なんだか子どものようだ。
「…発情してきたか?」
…なんに期待してるんだ。本当に子どもだな…。
「してませんよ。」
「なんだ。さっきの目は絶対勃ってる目だと思ったんだがな。」
どういう目だ。
「不能じゃねえのに、なんで勃たないんだろな。」
「僕は見ているだけで満足ですよ。」
そう。僕は他人と交渉したくなるほど自らを興奮させたことなどない。
“不能”ではないことは、佐東に無理やりイかされたときにわかった。
ただ、そのあとは例のごとく高熱が出て、そのうえ休養しているあいだもずっとあの頃の夢ばかり見たりして、死にたくなるほどひどい気分をあじわわされた。あんな思いをするくらいなら、このままでも全くかまわない。他人は不潔で汚らわしい。
(…だが。)
…カイトほどきれいで崇高な生き物なら、…もしかして。
――(キミは、僕を、救ってくれる?)
(彼に触れられてもいやな感じがしないのは、僕の心の中のどこかが純粋に彼を求めていることの証なのかもしれない…)
しかしまだ、僕の中の別のどこかはそれを拒みつづけている。
それは、佐東とカイトという二人の人間との関係を一度に受け入れることのわずらわしさからくるものでもあるのだろうが、なにより、佐東と完全に同位置に立つということは、“奴ら”と同格になるということで、そのことに対して僕の理性が激しく嫌悪し、または、しり込みをしているからにほかならない。
可愛らしいカイトが虐められる様子はたまらなく愉快に感じるが、それでも、奴らと僕とは、どこかが違ってありたいのだ。
「ローション使うからシートよこせ。」
佐東の声で我に返る。
僕が化粧台の前の椅子の上に敷いた“意味のない”ビニールシートを指さしている。
「…僕のですけど。」
「だから、お前のためにもっと有意義に使おうぜ。お前も来いよ。シートの上なら平気だろ?間近で見たほうが楽しいって。」
僕が次に何かを言おうとすると、佐東は少し真顔になり、指さしていた手を上向きにして僕を招いた。
「手伝え。」
(……。)
…あまりあんたのそばには行きたくないんだが。
しかし佐東には、僕がカイトに興味津々であることがすでに勘付かれてしまっているようだ。
(まあ、いいか。)
可愛いカイトくんのためだ。
椅子からシートを取り、ベッドマットの上に広げると、佐東はその真ん中あたりに、いまだ人形のように呆然とうなだれながらも荒い呼吸を繰り返しているカイトをうつぶせにして乗せ、下半身だけをあぐらをかいた自分の膝の上に乗せた。
僕もベッドに乗り、背中で腕を縛られたままのカイトの軽い肩をそっと持ち上げる。カイトが反りすぎてきつくならないように気を配りながら、自分の膝のうえに優しく下ろした。(ほら。やっぱりなんともない。) ぶつかりそうなほど近くにある佐東の膝のほうが、よっぽど強いストレスを感じる。
「噛まれるぞ?」
大丈夫。
カイトくんには僕から“クスリをもらう”という契約を履行する義務がある。
それに、彼になら別に噛まれても構わないとも思う。…僕らしくもない。
「先輩こそ僕に噛みつかないでくださいね。」
僕がめずらしく冗談を言うので、佐東がふふっ、と笑う。
僕は上機嫌だ。
なぜかな。人間ぎらいのはずなのに、カイトを膝に乗せることが苦痛じゃない。
ぬいぐるみを取って、顔のあたりに“差し入れ”してあげると、カイトはまたいじらしくそれを噛んだ。
(お利口だね。)
「ん…っ、んんんっ…」
佐東が太い指をカイトに挿入し始める。同時に、カイトの体が細かく震えだした。
「…アウ…!」
かすれて、ほとんど吐息に近い悲鳴。くわえる気力もなくなったのか、カイトの声はぬいぐるみのせいでくぐもっている。
「ア…ッ!…ッ…ア…!」
「準備運動のおかげでようやくあたたまってきたじゃないか。…欲しいか?いつもは指やおもちゃで遊んでやってたけど、今日こそは本物をやるからな…こないだみたいに途中で堕ちるなよ…?」
ロストバージンとは言っていたが、初めてやられるのではないらしい。
最初は途中でカイトが失神するなどして終わったのだろう。無理もない、興奮したときの佐東のアレは、尋常じゃないからな。
「んっ、ン…」
カイトの反応はない。自分の中でうごめく佐東の指で精いっぱいのようだ。息づかいには時々悲鳴のような喘ぎ声が混じる。
佐東がもう片方の手でローションを垂らすと、やがてカイトのそこから、いやらしい音が響き始める。
「ウ…っ!ンンン、ン…!」
カイトはやはり何度も頭を振った。その卑猥な音を自分で自覚したくないんだろう。カイトが頭を振るたびに、ぬいぐるみも僕の足の上を動き回る。
「ン――ッ!ンッ…あっ…は…ア…ン…」
カイトは佐東の激しい攻撃に声を抑えることが出来ない様子だ。何本の指でもてあそんでるんだ。少なくとも1本や2本ではない。焦らさないで早く“本番”にいってあげればいいものを。
佐東は僕以上に余計な“好奇心”が強いから、ついいろいろとやりすぎてしまうのだ。
例えばこのまま刺激を与え続けた場合、そこはどう反応するのか。こう動かせば体はどう動くのか。口からはどんな声が漏れ出すのか。…カイトは、何を感じるか。
…やがてその好奇心は、背徳的な高揚感とあいまって佐東の精神を異常な興奮状態へといざなう。そしてさらなる高まりを求めて、カイトのなかでますます暴れ始めるのだ。
カイトにとっては最悪のループ。
とは言え、僕もついみとれてしまいそうになる。柔らかな髪の毛からときおりのぞく、赤くなったかわいい耳が震えるさまや、汗ばんだ細い背中が、佐東の指の動きにあわせて敏感に反応する様子に。
…こちらを向いて欲しいな。
カイトの頭は先ほどからよく動くものの、彼は顔を上げたり、横を向いたりはしない。僕に見られていることがわかっていて、その視線の“意味”も理解しているから。
小さな声を漏らしながら震え続ける可愛い体。
腕を縛られているから、涙も涎も拭えずに、きっと恍惚にも似た切なげで魅力的な表情をしてぬいぐるみをきつく噛みしめている。
佐東からの陵辱を、じっと、耐え忍んでいる。――
佐東と目が合う。指を動かし続けながら、佐東がにたりと笑う。
「…絶対、発情してると思うがな、その目は。」
------------→つづく
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