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現在 -13

 僕は奴らとは違う、はずだ。  残酷で美しい佐東の表情を見て、カイトには一応そのことを知っておいてもらいたいと思った。 ―― まあカイトにとっては佐東も僕も、そうたいして変わらない人種にはなるんだろうけど。 「先輩、カイトくんの腕、そろそろほどいてあげてもいいですか?指先が真っ白です。」  佐東はにやにやしたまま僕の提案を了承した。  ロープに手を掛ける。ずいぶん固結びになっているので手間取るが、その間にも刺激に耐えかねた身体が僕の膝の上で小さく跳ねたり、足の腿あたりにカイトの熱い息がかかるのが楽しくて仕方がない。人の温度に触れるのも、実に久しぶりだ。  楽しみながら作業をしているから動作が緩慢になっているだけなのに、せっかちでおせっかいな佐東は僕がロープをほどくのに手間取っているとでも思ったのか、「コツがあんの。」 と言いながら手を伸ばしてくると素早くロープの端を引いた。  一瞬触られるのではないかとギクリとする。と、ロープはするん、とほどけた。  へえ。何か特別な結び方があるんだろう。  に、しても。佐東が近づいただけで、この緊張。やはり僕は、カイトの体以外は受け付けたくないらしい。  ロープをほどいてあげたのにカイトの腕は背中からするりと落ちただけで、手のひらを見せたまま指先を細かく震わせながらマットの上にぽとんと置かれた。  白い腕にはロープのあとが赤く残ってしまっている。小さな背中はますますぐったりとし、少し反ったような状態で僕と佐東の上に伸びきった。  次に僕がカイトの背中からロープを取り除くと、それと同時に佐東はカイトの胴体を持ち上げ、回転させながらゆっくりと仰向けにした。  細い両足を大きく広げられ、佐東の腰に乗せられたカイト。  可愛そうに、その中心にあるカイトの果実は、背後から受け続けた刺激のせいでまた少しの興奮状態にある。  カイトは、佐東の凌辱から立ち直れないまま、顔中を紅潮させ、ぬいぐるみを強く噛みつつもハアハアと熱い息を繰り返していた。  声を抑えるためにりきみ過ぎた結果だろうか、それとも、単に佐東からの執拗な攻撃に気力が削げ落ちてしまったのか。カイトは、どうやら理性が狂いつつあるらしい。ぐったりとした体を僕にあずけたまま、ひくひくと震えながら、ぼうっと僕を見ている。 (…ほらね。) …やっぱりキミは、いい顔をしていたね、カイト。  とろみのある黒目から流れだした涙は透明な線を描きながらごく淡い桃色をした彼のきれいな肌の上を次々とすべり落ちてゆく。  拭えないままにこぼれ出た涎すら、カイトが荒い呼吸をするたびにぬいぐるみの後ろから見え隠れしては彼を愛くるしく装飾する。 (――…なんて美しい。)  こんなにきれいな動物を、僕は、初めて、体温がわかるほど間近で見た。  あまりの素晴らしさに目を奪われる。  カイトは、意識ここに在らずといった様子で視線をとろとろとさまよわせつつ、こんな調子の僕の様子を、ただ、じっと、眺めている。 「…フ、…ゥ…ンっ」  佐東はローションで濡れたままの右手を目の前にあるカイトの下腹部にゆっくりと這わせた。  呆然としていたカイトは、意識を取り戻したかのように切なそうに顔を歪め、色のある声を出して目を閉じた。  そしてようやく僕から顔を背け、腕を動かすと、自身に巻きつく佐東の手を軽く探った。しびれがまだ残っていて、力がうまく入らないようだ。 「…まだ逆らうのか?カイト。」  佐東の、押し殺された、しかし、どこか楽しげな声。  と、カイトの口からウサギがぽろん、と落ちた。 「…も、… …」  カイトが何かつぶやく。  うっすらと目を開いたが、その視線は宙を漂っている。  二人で耳を澄ます。カイトは声を震わせながら、必死に言葉を紡いだ。 「…もう…たくさん、です… …はやく…終わらせてくだ、さ…」  吐息にかき消されそうなほどに、かよわい声。 「んん?」  低く野太い佐東の声は、カイトのそれとは対照的だ。  佐東は、右手をカイトの中心に巻きつかせると、先端をむき出しにして親指でゆっくりとこする。 「ア、ぁっ!」  カイトが僕の腕のなかで激しく反り返る。可愛らしい目をきつく閉じ、いじらしい唇が大きく開いた。奥から薄紅色の薄い舌がのぞく。 「もう一度言ってみろ、カイト。」 「はっ、早く、もう、やるなら早くしてく…ウゥ!」 「うん、つまり?」  佐東はようやく動きを止め、カイトを解放した。  強要からではなく、自分の意志で言わせたいのだろう。カイトはゆっくりと僕に沈みこみ、小さな呼吸を繰り返す。  なかなか次を言わない。意識が薄いためだろうか。  ふと、張り付いていた前髪の向こうから、カイトが僕を見ていることに気づいた。 ―― 見るな…  すでに声にもなっていなかったが、唇は、はっきりとそう動いた。  僕の視線を嫌がるということは、意識はしっかりと動いているようだ。  まだ恥辱に震えるだけの尊厳は残されている。  僕はまた、嬉しくなった。  早く言わなければ、また佐東に“おもしろがられる”。  だが、どうしても言葉が出ない。  その言葉を、言いたくない。  おまけに、僕の視線を浴びながらなんか。 (…きれいで頭の良い、強いコは、大好きだ。) 「…叔父さんのが、欲しいって言いたいの?」  わざとらしく気づかなったふりをする。  前髪をときながら、カイトの瞳を見つめた。  カイトは僕を強くにらんだようだったが、また目を閉じ、ついに頭を動かして、素早く2,3度うなづいた。 (…いいコ。)  柔らかい髪の毛を撫でる。 「ちゃんと口で言え。」 「んっ…」  佐東がまた少し指を動かしたので、カイトはふたたび震えた。 「俺の何が欲しいんだ?カイト。」 「…ッ」  カイトは歯を食いしばっている。 「俺に、どうして欲しい…?」  佐東は、今度は優しく指を動かす。カイトは悲鳴をあげるようにして息を吐き、そして僕の膝のうえで、体が揺れるほど強く頭を横に振った。…そして。 「…おれを…っ、…ッ!」 (…“おれ”?) 「……犯してください…!」  カイトは、ついに言った。  耐えきれずに、言ってしまった。  佐東の奴隷と化してしまう、呪われたその言葉を。 「つまり?」 「欲しいんです!叔父さんの、…チンポが…っ!」  ふふっ。  佐東は、美しい悪鬼のような笑顔を作った。 「は、アっ、…」  佐東は指を動かすのをやめない。カイトは自身の反応を抑えきれずにまたのけぞりはじめた。  僕に首筋を見せる。  鎖骨が白々となまめかしく光る。  唇が、僕の胸の下で震えながら何かをつぶやく。 ――…いや…いや…いや…いや…――  声には出来ない叫び。これ以上無意味な辱めを受けたくないのに。自尊心を捨て、ありったけの勇気を振り絞って出した、そのための言葉だったのに。 「…俺のものになりますと言え。」  佐東は、美しい笑顔をしていたが、さらに恐ろしいことをカイトに強要し始めた。 ---------------→つづく

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