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現在 -14
「…はぁっ、…はぁっ…、」
「カイト、俺が欲しいんだろう?俺は自分のものにしか手は出さない。」
「…うぅぅ…」
「カイト 「もういいっ早くやれえっ!」
今まで大人しくしていたカイトが突然佐東に向かってわめいたので少し驚いてしまった。
裏返りながらのその声は、少し青年ぽくなっていたように思う。
「ちゃんと口にしろ。」
佐東は動じていない。カイトはそらせていた体をビクビクと震わせながら元に戻し、うつむいてから強く息を吸い、震えながら吐きだすと、もう一度、深く、吸った。
「…俺は…あなたのものです…だから…俺に、…あなたの…、…チンポを、…ください…」
消え入りそうなか細い声だったが、カイトは確かに口にした。
震えながらもわずかに残されていた尊厳ですら、今の言葉でずたずたになってしまったことだろう。
「よし。」
「…っ」
カイトの奥歯から、ぎりっ、と、可愛い音が聞こえた。
すでに佐東のそこは十分な状態にある様子だ。まだうまく遊べていなかった新品の“入れ物”を前にして、興奮し、喜んでいるように見えた。
バスローブを脱ぐと、余分にこぼれていたローションを手際よく拭き去り、佐東はカイトに向き直った。
カイトの足を腰に引っかけるようにして、足の付け根を持ち上げ、位置を探り始める。
「…さあ、今日は徹底的に仕上げてやったからな。最後まで付き合えよ?…楽しみだろ、カイト。」
「…く…っ…」
何度か押し付けられている。カイトの口から思わず嫌悪の声が漏れる。
そのいじらしさに徐々に期待感を膨らませつつ、僕は、先ほどのカイトのことを少し考えてみた。
(…どうして一人称を変えたんだろうか。)
さっきまでは“僕”と言っていたのに。
…きっと、決別したのだ。
“僕”と名乗る、もう一人の「自分」と。
佐東の凌辱に耐え続けことはできない。
この状況では遅かれ早かれ、いつかは佐東のものを受け入れなければならないときがくる。
ならば、これ以上醜態をさらして佐東を喜ばせる前に、「自分」を捨て、佐東を受け入れることができる、もう一人の、まったく違う「自分」を創り出すしかない。
(佐東のものになるのは“僕”じゃなく、もう一人の、“俺”…というわけか。)
哀れでいじましく、未熟で稚拙で、それでいて崇高で、穢れのない、清らかな魂。
佐東が手放したがらないのも当然だな。
「…ハ、ア…ッ!!」
カイトが一度大きく息を吸い、僕の胸に向かって、思いきりのけぞった。…始まったのだ。
大きな目が見開かれ、そこに僕が映る。僕の顔は、カイトに優しく微笑みかけていた。
「…あ…ぅ!…うぅうッ…うッ、…うッ、…ンッ、…」
「はは…便利だな、声変わりってのは。大声が、出せないらしい…。」
佐東の腰の動きに合わせて、カイトの体が僕の胸を押す。
「…ウサギさんが欲しい?」
「…く…ッ、イ…イ……ズミ…さ…」
カイトの濡れた目は、必死に僕に何かを訴えようとしているようだった。
僕に対して、いまだ期待できる何かを探っているのか。
「…く…すり……っ!…いま…ッ…すぐ欲し…!」
かすれた吐息の合間から、やっとそこだけ聞き取れた。
カイトの細い腕が伸びてきて、僕の腰にまわり、背中から服を下に引っ張る。
カイトは苦しそうに目をつぶり、必死で呼吸を繰り返す愛らしい口元から、
「…オネガ…イ……コロし…て…」
…と言った。
―― ああ。
僕はまた、カイトから告げられた切なくも甘い言葉に、芯からとろけそうになっている。
僕は柔らかく首を振り、カイトを傷つけないように彼の要望を退けたが、カイトは目をつぶったままだったので僕の返答は伝わらなかったと思う。
クスリの代わりにウサギのぬいぐるみを再び口元に置いてあげると、カイトは強く、強くそれを噛んだ。
浸食されていく、カイトのきれいな体。
しっとりと汗ばんだ胸にある、薄紅色の小さな突起。
興味本位で手袋の上から探ってみると、それどころではないだろうのに、カイトは強く跳ねてくれたのでまたうれしくなる。
佐東の荒々しい息づかいとともに、やがて、ベッドがきしんだ音を立て始めた。
僕の腕の中で激しく揺れるカイト。
音の間隔は徐々にせばまり、カイトはぬいぐるみの合間から、可愛らしくも実に淫らなあえぎ声をこぼしはじめた。
「んっ、 アッ、 ウッ ンッ ンッ … …」
「…もっと締めろカイト…」
佐東がカイトを無造作に揺さぶると、カイトはぬいぐるみをくわえたまま、かよわい悲鳴をあげた。
背中にある手がさらにきつく僕の服を握りしめる。
「…は…そうだ、いいぞ…っ」
佐東はいったん速度を落とし、今度はゆっくりとカイトの腰を引き寄せたり離したりし始めた。
カイトをしっかりと味わいたいのだ。すぐに終わらせるのが惜しくなったんだろう。
カイトは全身を震わせて刺激と苦痛に耐えている。
佐東からの行為は、カイトにとっては少しでも早く終わって欲しいに違いないのだが。
「…はぁっ、はぁっ…」
再び佐東が動きを強めに転じたとき、カイトのそこから雫がこぼれ始めた。
「あっ、こいつ」
佐東は素早く反応して、落ちていたバスローブをカイトの下腹部にあてた。
「それ以上部屋を汚すな。…おい?」
カイトの意識がトロトロと崩れ始めていることを、佐東はようやく察したようだ。
「ちっ。まだ堕ちんなよ…。」
つぶやくと、佐東は体を斜めにし、たたきつけるようにしてカイトを攻め始めた。
カイトはうめき声ともあえぎ声とも、泣き声ともつかない声を断続的に出し続けた。
カイトの口からウサギが落ちる。
そしてカイトは、僕に、また、あの表情を見せた。
赤く濡れた目や口の端から透明な雫を落とすと、やがて瞳から緊張が消え、ふうっと、すべてが抜け堕ちたように、僕を通り越し、カイトは、はるか向こう、その先にある、“楽園”を見たのだ――
「…ハっ…」
カイトは小さく息を吸うと、次の瞬間、びくんっと強く全身を跳ねさせた。
佐東の体液が流れ込んだ事実を認知する前に意識を失えたことは、カイトにとって唯一の幸いだった。
「…失神したみたいですよ。」
教えてあげると、佐東は荒く息を吐きながら、「…そうか。…まあ今日のところは、良しとするか。」と独り言のように言い、カイトから自身をゆっくりと抜き出した。
そこでようやく僕を見る。
「なかなか良かったぞ。…試してみなくていいのか?」
「ご冗談。十分楽しみましたよ。」
言うと、佐東はニヤリとした。
「…発情させてやってもいいぞ?」
「けっこうです。」
まったく。このままだと、カイトだけでなく僕もこの野獣の餌食になってしまいそうだ。ここは早めに退散すべきだろう。
「シートも汚れてしまったし、僕は向こうの部屋に行っています。」
--------------→つづく
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