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現在 -17

「カイトくん。」  かがみこんで、首筋にタオルをあててあげる。  気持ちいいだろうからと思う反面、カイトの反応をただ確認して喜びたがっている僕がいる。なにしろ今までは、カメラ越しでしか見られなかった光景だ。 「…は…」  その期待どおり、カイトはタオルの冷たさと“触感”に体をびくんと震わせた。  白い肌の上にある、上気した薄い桃色の頬。 「…ア、…ッ…」  かわいい口から漏れ出す、小さな悲鳴。  首筋を拭いて、タオルを胸へと下ろすと、カイトの左手がそれを阻止したがる。でも、ついさっきまでは僕の手をはらえたのに、今度は全く力が入っていない。必死に手の甲を振り、ようやく何度かタオルに触れた。  クスリの成分が全身にまわりつつあるのだ。その反応だけを確認し、あとの楽しみを思い浮かべながら、背中を拭いてあげることにする。  抵抗もできないカイトの苦しみを想像し、味わってみたりしながら、背中を拭きあげ、肩をつかんでカイトを仰向けにする。  佐東の香水のいい香りが、軽く汗ばんだカイトを優しく包みこんでいた。  左腕の、鞭でうたれた部分の肌が赤くみみずばれになっていて痛々しい。  残酷で不器用な、佐東の愛情。  “そこ”を見てほしくないカイトが懸命に膝を立てようとするが、そのそばからかかとをはらって足を伸ばす。 (ごめんね。僕も意地悪なんだ。) 「…ほら、大きくなってる。ちゃんと見せてよ。」 「…やめ…ろ…!」  カイトが呼吸をするたび、美しい鎖骨が、汗ばんだなめらかな肌の下を滑る様子が目に入る。  僕のカイトが、より官能的で甘美な、完璧な生きものへと高まってゆく。 「俺を…見るな…」  カイトは苦しそうに天井を見つめ、僕に懇願する。 「俺にさわるな…!」  その声は、やはり昨日よりも少し大人びているように感じる。  自らを“俺”と呼称し始めたことで、幼すぎた自分との決別を主張している、いたいけのない美しい少年のその覚悟は、せつないまでに愛おしい。  カイトの声が、もっと聞きたい。  手袋のうえから、指先でカイトの胸の突起をくすぐる。 「――ン、アッ…!」  カイトはのけぞり、とてもいい声をあげた。 「ヤメろ!…っ、」ケホっケホっ 「ほら。大声をあげると、ノドがかわいそうだよ。叔父さんだって起きてきちゃうかも。」  言いながら胸を拭いてあげる。 「イ…ヤっ…だ…」  カイトの左手が必死に僕の手袋を探る。震える指先がようやく僕の手首をつかんだ。  動かすのを止め、じっと胸の上に手を置いていると、カイトの鼓動がほのかに伝わってくる。  カイトは僕をまたにらんだ。くるくると潤む大きな瞳。 「…なにを…飲ませたか、聞いてんだよ…っ」 「言葉使いが下品だよカイトくん。キミには似合わない。」 「うる…さい…こたえろ…!」  自分でもわかってきているはずなのに、どうしても僕から答えを聞きだしたいらしい。 「…僕はねカイトくん、かわいい男の子が楽園に行く瞬間を見るのが、大好きなんだ。異常なことはわかってるけど、なにしろ正常な環境で育てられてないからね。」  言いながらカイトの胸をもう一度指の先でなぞると、カイトの体は、今度は先ほどよりも強く跳ね上がった。 「ハ、っあ!」 「…キミも、クスリが効きやすいんだね。あの子と同じ。」 「…あ…く…!」  タオルで、体の、普段ならなんでもないところを拭かれる行為にすら、カイトはつらそうに声をあげる。 「ヤ…っ!…ふざけるな…!どこまで俺をいたぶれば気がすむんだ…!」 「キミをいたぶったのは僕じゃないよ。叔父さんでしょ?だから、今度こそ、僕の番。」  カイトはそこでまた一度強くのけぞると、口から嗚咽を漏らし始めた。 「ン…ッ!…そ…っ!くそ…う…っゥ」  左手の甲で自分の口を覆い、泣き声と、喘ぎ声とを抑え込もうとしている。  カイトの中心で覚醒を続ける桃色をした若い果肉は、その硬さを増しながら、奥底から湧き上がる豊潤な“快楽”をほとばしらせるための出口を探して、懸命にもがいているように見えた。  クスリの効果にあらがえないまま、主人の理性を取り残して、さらなる高みを目指して震えている。  佐東にたっぷりと可愛がられたその先端はすっかり赤くなって軽く潤み、まるで、独特の食感のある甘い桃色の砂糖菓子を彷彿とさせた。 「…ほら、こんなにいきたがってる。」 「…ん、ン…」 「ねえ。お手伝いしてあげなよ。」  カイトの利き手は左手。  口を覆っていた左手の手首を掴んで、中心へ運んであげようとすると、カイトは僕の手を払おうと腕を振った。 「…やだ…いやだ…」  だが体力的にも限界なのか、…それとも本当は欲しがっているのか、僕の力にすら逆らえない。  それでもカイトは、“イヤイヤ”をしながら、必死に腕をねじって僕の手を振り払い、直前でその手をシーツに落としてきつく握った。  苦しいくせに。  でも今は、その反応が楽しい。  僕はすっかり佐東と同じ次元にいる。  でも今は、そんなことがまったく気にならない。そこが、いびつで哀れで、尊い愛情によって構成された世界だと知ったから。  カイトの左手を引いたその手で、半透明の手袋の上から、そっとそこに触れてみる。 「あっ!あ、ぁっ」  途端にカイトの体が跳ねた。 「いきそう?もっと欲しい?」 「っ…やめ…っ」 「見せてよ僕に。…キミが、楽園にいざなわれるところを…」  カイトの左手は拳を固く握りしめたまま、動くことを強情に拒みつづける。 「…カイトくん。僕はね、小さい頃の悪い思い出のせいで、キミみたいに気持ち良く楽園に行くことが出来ないんだ。だからせめて、キミがそこに行くところを、見たいんだよ。」  可愛いカイトは、荒い息を繰り返しながら体を痙攣させ、ときおり泣くような、小さな悲鳴のような喘ぎ声を僕に届けてくれている。…だが、まだその手を動かそうとはしない。 「苦しいんでしょ…?早く楽になったらどうかな。悪いけどそのクスリは、キミを最後まで楽園に導いてくれるわけじゃないよ。そこまでの、道案内をするだけ…。」 「…ア…――ッゥ」 「ね?…カイトくん。「ダマれ…っ――…!ア…」 ―― ぎり…  これ以上自分から淫らな声が漏れ出すことを抑えたくて、カイトは奥歯を噛んだ。 (頑なだな…。)  頑固なところは、キミの叔父さんにそっくりだね。  まさか方法を知らないわけじゃないだろう。自分が“好きな”場所だって、教育熱心な叔父さんがしつこく教えてくれているはずだし。  このまま、クスリの効果が切れるまで、もがき苦しむつもりだろうか。 ―― もったいない。  きれいな体の、その反応が、すべて、無駄になるなんて。 (…手伝ってあげようか…)  刺激さえ与えてあげれば、彼を苦しめる狂気は一気に解き放たれ、同時に、カイトの大きな瞳には、まばゆいほどの楽園の光が映り込む。  その瞬間、彼は突き抜けるような官能と快楽のるつぼへといざなわれ、いまだかつて経験したことのない頂きを感じることが出来るに違いないのだ。 (…楽園に拒まれた、僕のかわりにね。) ―― キミは、僕を救ってくれる? ---------------→つづく

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