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現在 -19
…気づいてくれたのだろうか?
しかし、笑顔はやがて泣き顔へと変わり、カイトは咳き込むように泣き始めた。
「…やだ…っ…こんなのやだよお… …しにたい… …かあさん…」
すっかり枯れてしまった青年の声で、カイトは痛々しくいじらしいことを言い、また泣いた。
「…楽園は、いいところでしょう?」
カイトが、可愛い瞳で僕をつらそうに見る。
「大丈夫…つらいと思うのは今だけで、すぐに慣れるよ。慣れたらきっと、楽しくて仕方がなくなる。」
右手で白い胸の突起を触る。きれいな体は、ひくん、と震えた。
「―― 可愛いね。カイトくん…」
その突起に、唇を寄せる。
「…もう、やだ…ころしてよう…」
気づくと僕は、カイトの体の上に自分の体を重ねていた。
「や、やだ…もういやだっ…いずみ、さ、んっ…」
―― 信じられない。
僕が、こんなに興奮しているなんて。
足を開いて、そこに割り込む。
細い腰を軽く持ち上げても、やはりいやな反応は起きない。
僕のそこが、うずいている。カイトを求めて。
「カイトくん、キミは本当に、素晴らしいよ…」
心からの言葉だ。官能的な欲望が十分に刺激され、抑えられない。
「…ね、僕も今日は、キミに楽園へ連れて行ってもらえそうだね…。」
「いずみさん…」
「心配しないで。叔父さんよりも優しくしてあげる。これはキミのためなんだ…教えてあげるよ…何度でも。」
「…やめて…ッア…ああ…!」
「…は…静かに。彼が、起きちゃうよ…?」
僕は、じっくりと味わった。
味わうことができなかった、人生のこれまでの苦悩を埋めなおすために。
そしてそれは、カイトを同じ苦悩から解放するための作業でもあった。
カイトは、とても素晴らしかった。
泣きながら、僕と一緒に何度も行ってくれた。
カイトに導かれて、僕は何度も楽園を見た。
僕の地獄の日々は、楽園の中に静かに溶けて、浄化されてゆく。
ときおり届く佐東の香水の匂い。
そうだ。
佐東の分まで、愛してあげよう。
カイトはわかってくれるはずだ。僕らの歪んだ、いびつな愛情を。
―― 僕も、はじめから気づけていたなら。
哀れでせつない、いちずな愛情を、受け入れることができていたなら。
誰かと重なって、誰かを抱きしめて、誰かの温もりを感じながら眠る歓び。
こんな素晴らしいことから、僕は、ずっと目を背けて過ごしていたのだ――
―― そうだ。菖蒲(しょうぶ)くんにも教えてあげよう。
僕みたいな架空の人物に惑わされて、あんなきれいな体を持て余すなんてもったいない。
あのコにちょうどお似合いのコがいる。
今度2人を会わせてあげよう。
そして教えてあげよう。
誰かとともに味わう、この楽園の、素晴らしさを。
きっと彼らも、気に入るはずだ。
===== END ===========
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