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第2話
うわぁ。
それが男をはじめて見た時の感想だった。
顔半分に入っている赤いタトゥーがイカレてた。
あまりよろしくない地域で育った俺だからわかる。
顔にまで墨をいれちゃうヤツは相当ヤバい。
もう、人の目を完全に気にする必要がなくなった存在なのだ。
タトゥーの意味は「オレは【違う】ぞ」わかりやすい警告だ。
野生動物の警告色と同じだ。
だから当然のように見ないことにした。
何も見てない。
関わらない。
俺以外のバスの乗客達もそうしていた。
見ない。
男などいないように。
みんな想いは一緒だろう。
何でこんな男がこんなところにいるんだよ!!
そう思っていたはずだ。
だって。
こんな田舎の山奥を走るバスになんでこんな男が乗ってるわけ???
意味がわからなかった。
俺は婆ちゃんの家を訪ねた帰りだった。
このバスが走るのは観光地でも何でもない山村と町を結ぶ道で。
こんな場所に顔半分、首にまでタトゥーがあり、おそらくシャツやコートの下にもあるんだろうなってわかる男がいるのかがわからなかった。
耳には沢山ピアスがついていて、唇の端には小さな金の輪さえついている。
ダークで派手なデザインのコート(何にしろ不気味な)やズボンやシャツはどこでそんなの売ってるの?と思える服で、めちゃくちゃ浮いていた。
男はそれを気にしている様子もない。
むしろ、不躾にバスに乗る人間をジロジロ眺めている。
本来珍しがられるはずの男を誰も見ないようにしていて、男の方がジロジロ周りを見ているのがこの場の力関係を表していた。
男は補食者。
俺達は食われる側なのだ。
その目には異様なまでに光っていた。
薬物中毒でハイになってるヤツの目。
でなければ、最初っからヤバいとこにいるヤツの目だ。
俺は知ってる。
よろしくない地域で育ったからな。
その目で見られる度にその相手は必死で気付いてないふりをする。
そして俺も見られた。
バスには数人しかいないのだ。
もちろん、俺も何も気付かないふりをした。
関わらない。
こういう男には関わってはいけない。
本能がサイレンを鳴らしまくっていた。
早く駅に着かないかな。
いや、でも、この男も駅で降りる可能性が。
だって、絶対この辺りに用事ないだろ?
あるの?
まさかね。
同じ列車に乗る羽目になる時はこの男か乗る次の列車に乗ろう。
俺は一時間に1本の列車を諦める覚悟を決めた。
でも、男は予想外に途中で座席上にあるブサーを押した。
あれ?
降りるの?
こんなとこ・・・何にもない・・・いや、少し先に廃材場みたいなのはあるんですけど、何であんたみたいなんが、廃材場だか、なんだか、何かを捨てたり隠したりしたりするのに良さそうな場所に降りるんですか?
めっちゃくちゃ犯罪の臭いがするんですけど。
思わ凝視してしまったら、男が視線に気付いてこちらを振り返った。
慌てて反らそうとして、間に合わず、男と視線があってしまった。
オレンジがかった茶色の目。
獣みたいだ。
俺は鳥肌がたった。
男は笑った。
笑ったのだ。
俺はバスの中で殺されることを覚悟した。
この男が人目など気にせずに人を殺すことは確信できた。
でも、何事もなく・・・バスはとまり、男はバスを降りようとした。
その時だった。
音がした。
その後には衝撃が。
視覚が一瞬消えたのだった。
何?
何が起こったんだ?
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