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第6話

 警備の人達がビビりながら近寄ってきた。  男はデカい。  とてもデカい。   そして、ヤバい。  それはタトゥーだけじゃない。  暴力の匂いが身体の芯から染み出していた。  男はいわゆるマッチョとはちがった。  主張するための飾るための筋肉ではなかった。  肌の下にある筋肉が労働やスポーツなどから出来上がったものではないことがわかってしまう。  例え脚の骨を折っていたとしても、この男が危険なのは誰にでもわかった。  警備の人達が緊張している。  場違いなまでに明るい茶色の瞳は男の興奮によってオレンジ色の光を放っていた。  男は濡れた唇のまま、俺をその目で見つめた。    笑ったつもりなのだろう、犬歯の発達した歯が見えた。  獣が餌を見つけて笑う顔。  ひいっ  俺は声すら出ない。  喰われる。  そう思った。  だが、男は目を細めて俺の頬を撫でた。    「しばらく待ってろ。色々片付けてくる。・・・そしたらもう離れない」  囁かれた。    何を片づけるのかは理解などしたくなく、そして誰から離れないのかはもっと理解したくなかった。  何が俺の意志を無視して決められるんだ?  助けて!!  その言葉は声にならない  「警察を呼ぶぞ!!」  警備の人の一人がやっと口にした言葉を男が気にしたとは思えなかったが、男は松葉杖を持って立ち上がった。  警備の人は後ずさる。  松葉杖で殴られると思ったのだ。  だが、男は大人しく松葉杖をついて部屋を出ていった。  警備の人が追いかけなかったことを責めるつもりはない。  銃でも持ってないとあんなの相手できるはずかない。  「何?何?何?あれ何だよ!!!」  俺はパニックをおこして叫んでいた。  ワケがわからない。  怖かった。   すげえ怖かった。    男の唾液の味とか、舌の熱さとか。  何故だか少し勃起していたこととか。  そんなんも全部含めて、怖かった。    俺は飛び込んできた看護士さん達から鎮痛剤まで打たれた。  おかげで、自分に起こったことを考えないですんだ。  通報を受けた警察が病院に駆けつけた時には、男は松葉杖ごと消えていた。  服を奪われ、男が着ていた病院のパジャマを代わりに着て泣いている高身長の男性がトイレで発見されたので、まあ、そういうことなんだろう。  俺は男が戻ってくる数日悪夢に苦しめられたが、何事もなく・・・。  俺はすぐに退院できたのだった。  まあ、極度の披露と打ち身以外は問題なかったしね。  そこから、俺は男のことを忘れて、いや、忘れようとしていたわけだ。  数ヶ月たつまで。      

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