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第13話

 結論から言おう。  俺はあの男と住んでいる。  出て行かないのだ。  警察を呼ぶことも考えた。  考えたんだ。  でも。  「・・・・・・下手に逃げたり、コイツを追い払おうとしない方がいい。何するのか僕にも予想がつかない男だから」  チャラ男があの日帰る前に俺に言った言葉を信用してしまっていた。  詐欺師の言葉なのに。  信じた理由はチャラ男が本当にあの男をおそれているのがわかったからだ。  チャラ男はのんびりしているように見えて、男の身体の動きに細心の注意を払っていたからだ。  次、男がどううごくか。  その手足の動きに用心していたからだ。  父親に虐待を受けていた幼なじみが、父親といる時にしていたことと同じだ。  この怯えは嘘じゃない。  むしろ、平然と軽口をたたいているように見える姿が嘘なのだ。  俺が見抜けるのは、幼なじみを知っていたからだ。  それでも、俺がそれに気付くのに、数年かかった。  俺の犬だけは最初から幼なじみの父親が何なのか知っていたのに。  俺が教えて人に吠えたりしなくなったはずの犬は(愛想は一切無し、俺以外が触ると唸るけど)幼なじみの父親には吠えて唸った。  絶対にその父親を俺に近寄らせなかった。  俺はそれに困るばかりで、何故そうなのかを考えもしなかった。  その後、色んなことがあって、分かった。  あの時の違和感。  父親の行動を全神経をつかって把握しようとしているあの感じ。  幼なじみも、犬も。  恐怖なのだ。  暴力への。  犬と俺が幼なじみの父親と対決することになった話はまた別の話。  とにかく、俺は・・・・・・。  様子を見ることにしたのだ。  俺の交友関係把握されてるし、家族なんか間違いなく把握してるだろうし、警察にこの男が簡単につかまるとは思えないし。  実際、前回、警察から簡単に逃げてる。  強引に追い出せなかったのだ。  そして、今。  「おかえり、遅かったな」  家のドアを開けたら男が玄関に立っている。    なんで俺がドアを開けるのがわかるんだ。  1日中、ドアの音に耳をすませているとしか思えない。  俺の犬がそうだったように。  「・・・・・・ただいま」  複雑なキモチでそういう。  商売している家で、大勢の人に囲まれて育った俺は正直、誰もいない家に帰るのは寂しかったので、おかえりをいえるのはちょっと嬉しい、  「飯、用意してるぞ」  男は俺をキュッと抱きしめてからいう。    「・・・・・・ありがと」  俺はお礼を言ってしまっているわけで。  さすがに懲りたらしく、男は料理はしなくなった。  それに俺は食堂の息子だから料理は好きでしてるんだ、と言うと納得した。  米だけは俺が教えて炊けるようになった。   用意している飯とはこのことだ。    俺が学校やらバイトに行ってる間、どうすごしているのかは不明だ。  あまり知りたくないかも。  近所にそのタトゥーだらけの姿を晒さない配慮はあるらしく、じいさんばあちゃん達は、誰かが俺の家にいるのは知ってるけれど、どういう人間がいるのかまでは把握していないようだ。  「友達とすんでる」  とだけ説明してる。  男からは何が欲しいか言え、とか。  もっと良い部屋に住みたいか、とか。    色々言われてるが断っている。  そりゃ、欲しいモノはあるし、バイトも休みたいけど。  男に金を出してもらう道理はない。    「オレの金はお前の金だ」    そう男は言うけど。  何だかんだの押し問答の末、家賃一万円と光熱費と、食料品代を貰うことになり、余計に困っている。  だってこれ、住むの認めてることになるだろ!!  俺は一刻も早く出て行ってもらいたいんだけど・・・。  俺は台所で男に見守られながら、料理する。  圧力鍋でつくる大根と豚肉の煮物だ。  冷蔵庫の食料品は、補充されてるし、頼んでた魚も買ってきてくれてる。  どんな顔で魚や大根買ってるんだ?  不思議でしかたがない。  男はじっと俺を見てる。  見飽きることはないようだ。  俺の犬を思い出す。  俺が帰ってきたら、ずっと俺の側にいた。  飽きることなく。  ずっと俺の姿を目で追って。  男と俺用に皿にとりわけると、男がご飯を茶碗によそう。  不器用そうに。  俺がちゃんと作った味噌汁が男は好きだ。  男が作ったものは味噌汁とは言えなかったけどな。  男は沢山食べるから、おかずの数は少ないがかなり量は多い。  そういえば「なんで、最後まで食べたんだ」  男に聞かれた。  男が作ったあの毒物を完食したことを。  チャラ男が帰った後で。  「食堂の息子だし、料理好きだし。・・・誰かが一生懸命作ってくれたもんを残すなんて出来ないだろ」  俺は普通にそう言っただけなのに、男は酷く驚いた顔をした。  「オレが一生懸命作ったからか?」  男は言った。  「そう」  深い意味なく言ったんだが、ガバッと抱きつかれて、俺をなかなか離してくれなかったので、しくったかもしれない。  二人で向かい合わせで飯を食べる。   男は無口だ。   何も話さない。  それは気にならない。  俺の一番の相棒は、話すことのない生き物だったからだ。    それに。  「何も知らない方がいい。知ろうとするな」  チャラ男は小さな声で俺に忠告した。  信用出来ない男の言葉だが、俺も同じ考えになった。  ヤバいもんしか出てこないなら知らない方がいい。  食事中も男は嬉しそうに俺を見つめるので、俺はずっと困惑している。  でも、もっと困惑するのは。  食後、課題などをする俺の側で寝転がったり、座ったりしながら飽きることなく俺を見つめる男にではない。  こういうのは犬で慣れてる。  犬はずっと俺の足元にいて、俺をじっと見つめてたからだ。  問題は課題が終わり、風呂に行こうとする時からだ。    「風呂か?」  男が言う。    「一人で入れる」    俺は先に言うけど、もうダメだ。  風呂まで担いで運ばれて。  男に全身洗い上げられるのが待っているのだった。  シャンプー嫌いだった犬を無理やり風呂で洗ってきた報いなのかとか思ってしまったりする。  優しく洗い上げられ、髪まで洗われる。  その動き自体にはいやらしさはないんだけど。  性器にまで触れられたりしたら、俺の身体の方がおかしくなってしまうんだよ!!  勃起してしまったなら・・・。  そこをやわやわと撫でられ囁かれる。    「出してやろうか?」  男の低い声。  言い訳させて欲しい。  若いんだ。  そうされて気持ち良いことはもう知ってる。  口とか舌とか手で男がしてくれるとどれほど気持ち良いのか。  拒否出来ないんだ。  そして、なんか一方的にされるのもアレだしと思ってしまうところでささやかれるのだ。  「一緒にしても良いか?」  バリトンボイスは耳を甘く噛んでから囁いてくる。  拒否・・・。  出来ないんだ。  「声響くからな・・・ガマンしろよ」  そう言われ、誰のせいで、とおもいながら、必死で声を殺して、男の指や舌や唇に喘がせられ、熱くて硬い性器と擦り合わされ、射精を何度もさせられるのが・・・。  日課になってしまっていた。  そう、結論から言おう。  俺はあの男を受け入れてしまっている。    つまり、結論はだ。  かなりヤバい。                        

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