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第15話
「最近ロングライド全然来ないじゃない」
内藤が文句を言う。
昼飯の弁当を大学内にある野外ベンチで二人で食べている。
おいしい。
俺が作ったからな。
内藤の弁当も俺のお手製だ。
男の分もちゃんと作ってやって、昼に食べるように言ってある。
食料はたっぷり男が買って来てくれているのだから、作ってやらないのもあれだし。
男は俺が作った弁当をメチャクチャ喜んだが、内藤の分も作っていることには不満そうだった。
何も言わなかったけれど、メチャクチャ態度で示した。
不機嫌この上なかった。
そのままにして、出て行こうとすると玄関で頭がクラクラして、勃起するまでキスされた。
「鎮めてやろうか」
と言われたけど、さすがに逃げるように玄関から飛び出した。
鎮まるまで、マジ、困った。
「行きたいよ。行きたいんだけど」
俺は心の底から言う。
男に阻止されて今月はまだ一回もロングライドに行けない。
内藤と出かける前の夜に色々されてるのだ。
俺と内藤の趣味は自転車だ。
自転車で遠くまで走るのが好き。
お互いの愛車で、大体200キロ位走行することにしている。
これをロングライドと言う。
巨大な樹や巨大な石を訪ねていく、というのが俺達のロングライドの目的で、俺達以外からは全く評価されない趣味だ。
巨木マニア(俺)。
巨石マニア(内藤)。
そういうジャンルがこの世界にはあるのだ。
早朝から出かけて、苦労して自転車で100キロ近く走り、そして岩や樹を見て、「デカいね」と納得して帰ってくるのが俺や内藤が好きなこと。
だからこそ内藤は親友なのだ。
これを分かち合えるからこそ。
これを理解してくれる女の子と付き合いたい。
一緒に来てくれる女の子がいたら・・・と思う。
いるはずだ。
きっと!!
「行きたいんだよ・・・でも、寝かせてくれないから・・・」
思わず言ってしまう。
内藤は目を見開く。
内藤は外見通り大人しい男だ。
そして、外見通り優しい。
俺と同じ男子校出身だ。
高校で知り合い、自転車が趣味なことで意気投合。
二人で同じ大学を目指し、この街に来た。
ずっと行動を共にしてる。
バイトも一緒。
ずっと一緒。
二人とも彼女がいないからな。
つまり、俺と同じ童貞だ。
だから発想がこうなる。
「彼女出来たの!!」
裏切り者、のニュアンスで言われる。
「違う!!違う!!」
俺はしっかり否定する。
彼女だったらどんなに良かったか。
だが、あいつについてどう説明すればいいんだ。
あいつがヤバいのは間違いない。
変に内藤を巻き込むわけにはいかない。
「犬、犬を飼ったんだ!!」
そういうことにした。
俺の中ではなんか妙に飼ってた犬とあの男はダブる。
助けてしまったばかりに飼うことになったのも同じだ。
犬だと思えば。
少なくとも、男がいる間は犬だと思おう。
どうすればいいのか考えつくまでは!!
「子犬?」
内藤は羨ましそうにいう。
内藤は犬アレルギーだが、犬好きだ。
あ、これは内藤を家に近づけないためにも良い嘘だな、と自分でも納得した。
子犬・・・。
なわけない。
「野良犬。飼い犬じゃなかったから、色々あるんだよ。色々やられて困ってる」
俺のため息は嘘じゃない。
「どうすればいいか決めるまで、しばらく家におくしかない」
俺の言葉には嘘はない。
色々やられてる内容は口が裂けても言えないけどな。
「里親捜したり?オレも手伝おうか?」
優しい男である内藤はそう言ってくれるが、そんなことされたら困る。
「いや、なかなか危ないヤツだから・・・」
俺は言葉を濁した。
「噛まれたんだね、首のとこ跡がついてる。大丈夫?」
内藤は、珍しく首元を隠すような服を着ている俺の襟を指で摘まんで言った。
隠しきれなかったんだ。
あのバカが噛んだ跡。
「そう。でも、甘噛みだから。甘えて噛んだだけだから」
俺はヒヤヒヤしながら言う。
「それならいいけど。気をつけてね」
内藤は心配そうに言ってくれた。
良いヤツだ。
「じゃあ当分一緒にロングライド行けないのか」
残念そうに内藤が言う。
いや、そんなわけにはいかない。
いや、行くし!!
「大丈夫。そろそろ落ち着いてきたから!!」
俺は男に俺の趣味を邪魔させるわけにはいかなかった。
俺の大事な趣味を!!
「次の日曜日は行こう!!」
俺は約束した。
絶対に邪魔させないからな!!
そうそう。
俺が飼ってた犬の名前は。
「犬」である。
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