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第16話

 「絶対ダメ!!」  俺は男に言い聞かせた。  夜俺に触れようと、風呂につれこもうとしたからだ。  絶好、ダメ!!  「俺はな、自転車が好きなんだ!!」  俺は室内のスタンドに立てかけた愛車を指差した。   質実剛健の国内メーカーの、白と赤のライン。  ロングライドに最適のドロップハンドルのロードバイクだ。  家の手伝い(バイトする位なら食堂を手伝えと親父から言われて高校時代、実家の食堂でバイトしていた)で稼いだ金をつぎ込んで買った自転車は俺の宝物だ。  「行きたいんだよ。行かせてくれよ!!」  俺は男に頼む。   今週は何が何でも行く。  「いくらでもイかせてやるのに」  ニヤニヤ男に笑われて、真っ赤になる。  そのイくじゃない!!  最近はもう、「イかせて・・・」と男の耳元で囁くようになってしまっているのだ。  だって、意地悪してイかせてくれなかったりするんだ。  コイツ。  「沢山我慢した方が気持ちイイからな」  とか言いながら、イく寸前ではぐらかされたらりするんだよ・・・。  「オレのを挿れたら・・・もうイきたくないって泣くほどしてやるぜ」  とも囁かれてるけど、それも怖いから嫌だ。  「それから、身体に跡つけるのも禁止!!銭湯行けなくなっただろ!!」  俺は言い渡す。  男に歯型やら吸い痕を身体中につけられたため、銭湯に行けない。  ロングライドの後は内藤と2人で銭湯に行くのが俺の楽しみなのだ。  「そんなにあの男に自分の身体を見せたいのか」  グルグル犬みたいに唸りながら男は言う。  コイツバカだ。  なんでそういう思考になる。  「・・・内藤とはそういうことにはならないから!!俺、男が好きじゃないし!!」   俺は頭を抱える。  「俺もだ!!」  男は言い切った。  嘘付け。   そう思った。    あんなに手慣れているくせに。  それを男は察した。    男は犬並みに人の気持ちを読み取れる。  人の気持ちを理解はしないけど。  「お前のモノになるために、男の抱き方を覚えた。お前以外に触るのは嫌だったが、お前が痛かったり嫌な思いをさせるわけにはいかないからな。仕事で慣れてるヤツから始めて、沢山抱いて、【処女】までイカせられるようにした」  男は自分の努力を語った。  ちょっと自慢気に。  俺は呆れた。    何言ってんのコイツ。  俺が誉めるとでも思ってんの?  「安心しろ、お前に再会する前にきちんと検査してオレには何の病気もないし、お前と再会してからはお前以外触ってねぇ」  男は見当違いの言い訳をした。  「男とセックスしたことないヤツでも、イキまくって、もっとしてくれって泣き叫ぶ位にはなった。だから安心していいぞ」  男は胸を張る。  なんかムカついた。    腹立たしい。  「俺以外と出来るんなら、そっちでしろよ!!」  俺は小さな声で怒鳴る。  壁が薄いのだ。  妙な話を隣のじいちゃんばあちゃんに聞かせたくない。  「お前の為に抱いたんだ。他なんかもう要らない」  不思議そうに男は言う。  なんかそれもムカつく。     「・・・俺はそういうの嫌いだ。不快だ」  まあ、俺も好きでもないのにこの男がしてくれる気持ちイイことに流されちゃってるけど。  好きでもない男とほぼセックスしてるも同然だけど。    説得力ないけど。  でも。  俺はコイツしか知らないのに、コイツは色々やりまくってる現実を見せつけられると、なんか、腹が立った。  なんか、俺が好きでたまらないというのにちょっとほだされてしまってた分。  「今日から一緒に寝ないから。俺の布団に入ってきたら許さない。風呂に入ってきても許さない」   俺は言った。  男が衝撃を受けているのがわかった。  犬が俺に怒られて、耳を垂らして尻尾をまいて、部屋の隅で落ち込んでいる時の顔に似ていた。  「・・・どうすれば良かったと言うんだ。なんの知識もなくシてたら、お前の穴を引き裂いて殺してしまってたかもしれないんだぞ」  男の言い訳は怖い。  「いや、シないから!!」  俺は言い切った。  「布団は二階に予備があるから出してこいよ」  俺は言い切った。  いや、追い出したら良いんだけど、まあ、出ていけって言っても出て行かないだろうし。  とりあえず、布団と、風呂から追い出す。  男が死にそうな顔をしていたけれど、無視して一人で風呂に入り、一人で布団に入った。  そして、オレはしばらく。   日曜日、内藤との約束の日まで。   安眠を得た。              

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