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第19話

 俺は待った。  追いついたのだと信じて。  俺がいるのは山の中の道路の上にかかった作業用の陸橋の上だ。  息がまだ荒い。  多分ここまでのスピードで走ったことはなかったからだ。  川沿いのサイクリング道路を途中で抜けて、山に上がる。  そして、しばらく行けば斜面と斜面に挟まれた道路に出る。  その斜面と斜面を陸橋で繋いでいた。  人が一人通れる位の陸橋だ。  その陸橋の上に俺はいた。  おそらく、土砂崩れなどが多い土地だから斜面の点検のためだろう。  一年前、内藤とこの道を使った時、俺と内藤は陸橋に気づいた。  そして、上がってみたいと思った。  自転車を止めて、二人で陸橋に登れる階段を探した。  だが、陸橋に上がるための階段は鉄の格子で作った高い柵で塞がれ、はいれないようになっていた。  柵にある鉄の扉にはデカい南京錠がかけられていたのだ。  だが。  ふざけ半分で触ったなら。  南京錠は外れた。  南京錠はちゃんとかけられてはいなかったのだ。  かかったように見える位置で止められていただけだった。  多分、なんらかの事情で(鍵の受け渡しが面倒だとかそんな理由で)鍵をかけたふりだけしているのだ。  それに。  誰がこんな陸橋に登りたがる?  そんなの頭の悪い男子学生位だ。  で、俺と内藤は陸橋にあがって、道路を見下ろして笑った。  笑っただけだ。  それだけ。    その時は。  陸橋はただ「落石注意」とかいてある標識と、落石防止ネットがある斜面にたどり着くだけで、陸橋の行く先には何もなかった。  落石には嫌な思い出があるが、この陸橋に登ったのは男と俺が生き残った落石事故の半年以上前だから、その時は気にもしてなかった。  陸橋は登ってみたら、高さはそれなりにあった。作業用のせいか、柵も横断歩道などの柵に比べたらかなり低い。  内藤と俺はここから石でも投げたら下をはしる車はどうなるだろう、なんて話をしていたのだ。  こかから飛び降りてみたり、とか。  もちろん冗談だ。  その時は、だ。  でも今は。  俺は待っていた。  あの白のライトバンに追いつけたはずだと信じて。  奴らは知らない。  あの先にむかった道が土砂崩れのため塞がられていること。  だって昨日の話だからだ。  俺達が知っているのは自転車仲間からの情報のおかげだ。  このあたりを走る自転車乗り仲間達と工事中の迂回路などの情報を交換しあっているのだ。  自転車万歳。  自転車乗りに栄光あれ!!  とにかく、引き返した奴らがこの道を通るしかない。  最初から迂回路を使っていたのなら別だが、その可能性は低いはずだ。  もう一つの道の入り口は、とても公道には見えない、それこそ工事用の緊急道路っぽいからだ。  ナビにも表示されない。  逃げている人間達が行く先のわからない道を使うはずがない。  だから、土砂崩れで通行止めになり、引き返し、この道を使うはずだ。   なら俺は間に合ったはずだ。  だが、これからすることは自転車乗りとしては許されるものではないかもしれない。    白いライトバン。  よし来た!!  ナンバーは見えないが、あの車のはずだ。  違っていたら?  考えないことにした。  俺は愛車を担ぎ上げ、陸橋の上から車に向かって投げつけた。    スポーツバイクは軽いとはいえ、10キロ位はあるのだ。  我が身と愛車なら、愛車の方を守って転ける俺だが、今回は違った。  女の子の怯えた目。  殴られた顔。   止めなければならなかった。  一刻も早く助けなければならなかった。    あの子は俺に助けを求めたのだ!!  俺の愛するロードバイクは、もうスピードで走るライトバンの屋根に見事に激突し、屋根は思い切りへこみ自転車はくしゃくしゃになって跳ねた。  ライトバンは急ブレーキをかけても止まり切らず、タイヤを滑らせ、やっと止まった。  怒鳴り声を上げながら男達が車から出て来る。  柄の悪そうな連中だ。  考えることをやめて、群れて、暴れて、いくつくところまで行って死んでいくだけの。  良くない地域育ちの俺は知ってる。   散々人を踏みにじり、そして、コイツら何か悪いものに喰われて死ぬのだ。   暴力だったり薬だったり酒だったり。  ふとあの男のことを思った。  あの男もコイツらと同じところから来たのかもしれない、と。  だけど。  俺を嬉しそうに抱きしめて眠ってる顔を思い出す。  まあ、最近布団には入れてないけど。  でも、今朝だって。  俺の布団からでた足を抱えて足元で寝てる姿も。  嬉しそうだったんだ。  アイツはコイツらと同じでは。  ない・・・。  おっと、それどころじゃなかった。  男達はすぐに陸橋にいる俺の存在に気づいた。  開けっ放しの鉄のドアに気付く。    彼らは陸橋の階段を登ってやってくる。  口々に罵声やら怒声を吐き出しながら  バットやら、鉄パイプなどを持って。  ちなみに階段は男達が登ってくる方にしかないわけで。  反対側は山の斜面があるが、とても逃げれるような確度ではない。  つまり、俺の逃げ道はないわけだ。  さあ、どうする?           

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