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第20話
男達は叫び声をあげながら陸橋の上まで上がって来た。
俺に掴みかかるのは時間の問題。
だから俺はそうした。
陸橋から飛び降りた。
おそらく建物の3階くらいの高砂はある陸橋の柵に立ち、タイミングを図って道路に向かって飛び降りた。
俺は公園でパルクールの練習をしていた連中と仲良くなったことがある。
CMやYouTubeで有名になった建物から建物へ飛び移ったり、壁を駆け上がったりするスポーツだ。
なんかスゴいことをしていた。
公園の遊具の上で回転したり、まるで重力がないかのように軽く空へと躍り上がったり。
拍手して、めちゃくちゃ感動してたら、笑われた。
そして、ジャンルジムの上から飛び降りて、飛び降り方を俺と内藤に教えてくれたんだ。
「これが出来るようになれば、かなり高いところから飛び降りたって大丈夫」
ソイツは言った。
少しずつ高さを上げて、ジャンルジムの一番上からは出来るようになった。
ちなみに内藤は足を挫いた。
もちろん、ジャンルジム程度の高さと、この陸橋の高さは数倍違う。
だが。
やるしかなかった。
着地した時、関節を緩めて、衝撃を逃がし、そしてさらに地面に転がることで・・・地面に落ちた力を逃がすのだ。
出来る!!
出来る!!
俺は出来るはずだ!!
落ちていく感覚は、まるで飛んでいるような感覚でもある。
空気の流れを身体に感じた。
集中し、ゆっくりになった時間の中で、俺の脚はアスファルトの地面を感じた。
脱力!!
衝撃を腕の先まで柔らかくして逃がす。
そして、さらにまだ身体に残るエネルギーに押されるようにアスファルトに転がった。
俺の力ではなく、俺が受けた衝撃が俺を動かすように。
俺は力の方向を変えてやるだけ。
ゴロゴロと転がった時、俺の中にあった衝撃は上手く抜けていた。
よし!!
成功!!
思わずガッツポーズをしたが、それどころではない。
俺はあわてて陸橋に上がるための階段へ走る。
階段は螺旋階段で、それを覆うように鉄の柵が筒状になるように覆っている。
そして、入り口には扉がある。
だれでもかれでも入れないないように。
その扉の鍵である南京錠は開いていた。
今までは。
だから俺も螺旋階段にはいれたし、男達もそうだった。
でも。
今からは。
俺は扉を閉めて、きちんとかけられていなかった南京錠をカチリとはめた。
俺も、男達も、この鍵を持っていないのだ。
男達はこれで階段に閉じ込められた。
俺が何をしたのかを見ていた男達はそれを理解して、怒鳴った。
「コイツ、鍵をかけやがった!!」
「開けろ!!」
開けろと言われても、俺は鍵持ってないし、持ってても開けない。
俺は男達を無視して俺の自転車をぶつけられ、ペコリと天井が凹んだライトバンへと向かう。
一応、男達の人数は確認しておく。
姿形も。
5人。
俺よりは数個上だろうが、そんなに大きく年齢は変わらない連中だった。
知ってる。
楽しみだけのために誰かに暴力を振るうのだ。
俺が育った街にもいた。
一度そうなってしまったなら・・・他の何か良くないものに喰われるまでそのままだし、自分が本当に何をしたていたのかを理解出来たならばその悔恨に苦しみ生き続けるのだ。
法律違反という意味以上の罪だ。
人を楽しみのために傷つけるのは。
・・・女の子を大勢でなど。
だけど裁くのは俺じゃない。
俺が今しなければならないのは、女の子を助けることだ。
俺はライトバンへと走った。
真っ黒なフィルムが総ての窓に貼られたライトバンの扉は開かれたままで、だからもう連中は乗っていないことも、女の子が縛られているのもわかった。
俺は後部座席にいる女の子に駆け寄り、縛られた手足を解いた。
女の子は自転車用のヘルメットとを被った俺を見て、涙を流した。
あの時助けを求めた俺だと
わかったようだった。
「逃げるよ、いいね」
俺は言った。
女の子は頷く。
女の子の顔は腫れ上がってはいたけど、最初に見た時よりは酷くなっていなかった。
安心した。
あれからは殴れたり何かされたりはなかったのだ。
俺は女の子の手を引き走り出す。
女の子は裸足だったが仕方ない。
どこか。
だれか。
人がいるところまで!!
どうやっても階段から出られないことを理解した、連中の一人が俺の真似をして陸橋から飛び降りた。
ものすごい音をたてて着地し、絶叫していた。
振り返って見てみた。
脚が有り得ない方向に曲がっていた。
バカだろ。
その高さからマトモに飛び降りたらそうなるし。
俺は女の子の小さな手を握り走る。
逃げるのだ。
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