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第22話

 「・・・まあ、いいや、とりあえず、残りの二人も動けなくしてくれる?、できればケガはさせないで」  俺は現実的に動くことにした。  とにかく、助けは助け。  男は来てくれた。  とにかく助かったのだ。  そこは喜ぼう。  男は「取って来い」と棒を投げられた犬のようにはしゃいで、残りの二人の男に襲いかかった。  男達は抵抗しなかった。  抵抗するには、目の前で手足があちこちの方向に向くまで地面に片手で叩きつけられた仲間の姿が強烈すぎたのだ。  おとなしく自らの服やズボンで手足を縛られた。  男はちゃんとケガをさせなかった。  それを自慢げにアピールした。  「ケガさせてないぞ!!」  胸を張った。   うん。  その二人はね。    もう一人の方は重症だけど。  折れた骨が肉を突き破って出血してる。    二度とマトモに歩けないかもしれない。  だけど同情はしなかった。   だって俺の頭をバットでコイツ叩き割ろうとしてたんだから。  でも、割り返そうとは思わない。  俺は。  人間だから。  「女の子を探さないと!!」  俺は我にかえった。  山に向かって逃げてるはずだ。  早く保護しないと!!  俺は斜面に向かって飛び降りようとしたが、男に腕をつかまれて止められた。  「駄目だ!!」  男は唸る。  「邪魔するな!!あの女の子を助けないと!!俺に助けをあの子は求めたんだから!!」  俺は男に向かって怒鳴る。  「助けを求められたら、お前は誰でも助けるのか!!」  男が聞く。  「普通、そうだろ!!」  俺は言った。  助けるだろう。  出来ることなら!!  男は目を丸くして、考えこんで、でも俺の手は離さないで。  「放せって!!放せ!!」   俺はギャアギャア喚く。  「駄目だ。これ以上増えたら困る。だがお前の意志は尊重する・・・オレがあの女を捕まえてくる、それでいいな?」  男は難しい顔をしながら言った。  風呂が終わったら散歩に連れて行ってやると言った時の犬の顔に似ていた。    納得しているがしていない顔だ。  それに、何が増えたら困るんだ?  「捕まえるんじゃなくて、保護するんだ!!」  俺は言った。    どうやら俺の代わりに女の子を見つけてくれる気らしい。    「同じようなものだ」  男は言った。  そして、俺の腕を放した。    そして、倒れていたスクーターを起こして跨がる。    「おい、スクーターなんかじゃ追いかけられない・・・女の子はこの斜面の下に・・・」  俺が言いかけるより早く、男はスクーターのアクセルをふかした。  エンジンの音は静かだが、前輪が持ち上がったまま、物凄いスピードで走行し、ガードレールを飛び越えて、斜面に向かって男はスクーターごと落ちていった。  そして、軽々と着地すると、山の斜面を走り抜けていくのが見えた。  音がほとんどないから、めちゃくちゃそのスクーター動きは氷の上をなめらかに滑っているように見えて・・・。  めちゃくちゃかっこよかった。  何、あのスクーターめちゃくちゃかっこいい。  何、あれ、後で運転させてくれない?  いや、俺自転車乗りだけど、あのスクーターなら乗りたい。  俺はそんなことを思っていた。  そして、再び、男が急な斜面をまるでスキップするようにスクーターで飛び跳ねながら上がってきた時は、女の子を肩に担いでいた。  女の子は気絶していた。    スクーターに乗った顔にタトゥーが入った男に追いかけられたのだ。   どれほど怖かったか。  やはり俺がいくべきだったけど、俺ならこんなに単時間で女の子を見つけられなかっただろう。  男が地面に投げ出そうとした女の子を慌てて受け止め、地面にそっと横たえる。  男が不愉快そうな顔をした。  何でそんな顔するんだよ。  サイレンの音が聞こえてきた。  やっと警察が来てくれたのだ。  「お前、行った方がいいんじゃないの?」  俺は男に言った。  男は前回も病院で警察から逃げている。  警察と関わりたくはないはずだ。  「オレのがいいぞ。オレのが。こんな女より!!」  男は立ち去る様子もない。  必死で言い募る。  理解した。  この女の子が男みたいに俺のモノになりたがると思っているのだ。  んなわけないだろが!!  助けた位で、惚れられるなんてことがあってたまるかばかばかしい。  ん?  あるのか?    この男の場合とか。  とにかく、普通はない。  「彼女は俺のモノにはならない!!」  俺は男に断言した。    常識でしかないことを。  男はやっと安心したようで、笑った。   パトカーがカーブを曲がって来る前に、男は再びスクーターで斜面を滑り降りていった。  スクーターって俺言ってるけど、本当は違うのかもしれない。  美しいフォルムを持つ、そのマシン。  男の大きな身体に誂えたように密着していた。  おそらく、誂えたのだ。  ナンバーもないら明らかに公道走ったら駄目なヤツ。  走れば、遠目にはアスファルトに溶け込むような色合い。  斜面や舗装されてない山の斜面をはしる運動性能。  音もなく近づいても気付かれにくい電動モーター。  何のために作られ、何のために使っていたのかは。  知らない方が良いんだろうな  俺はそう思った。    でも。  ちょっと乗らせてくれ、とも思った。  かっこいい。  俺は自転車乗りだけど。  バイクは嫌いじゃない。  そして俺は駆けつけてくる警察に男のことをどうごまかすかを必死で考えることにした。            

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